表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第二章 ガルディシア発展編】
162/327

85.逮捕者の引き渡し

読者様の指摘により、鉄道輸送量の変更をしました。

自分が無知だったのですが、調べた数値を勘違いしてそのまま記載していた為、該当部分の数字を変更しました。ご指摘感謝します!

エウルレン中央にあるホテル ザ・ジャパンでは、日本国自衛隊の一団とガルディシア皇帝一行が、大きな広間の中央に設置されたテーブルに向き合っていた。


「日本国の代表として武装勢力制圧部隊の指揮をとりました大西ニ等陸佐です。それでは今回の武装勢力によるエウルレン攻撃に関する逮捕者の引き渡しを行います。」


「皇帝ガルディシアIII世である。

 余が我が国の警察機構代理として逮捕者の受け取りを行う。」


「これが武装勢力の逮捕者一覧の目録となります。」


大西ニ佐は逮捕者目録を皇帝側に差し出した。

近くに居た小姓がその目録を受け取り皇帝に渡し、目録を一瞥した後に、口を開いた。


「ニッポン側として、今回の逮捕者に対する何らかの要求はあるのか?」


「いえ、日本からの要求はありません。貴国の法に従った形で処罰して頂ければ構わないですが…一つお願いしたい事があります。」


「…それは何か?」


「この戦闘により亡くなった方々の慰霊碑を建立して頂きたい。

 もし、可能であれば我々の手で建立したいのですが、国が違う故に作法も違いましょう。」


「ふむ、確かにそうだな。それは我々の国で建てる。貴国の手は煩わせんよ。」


「そうですか。分かりました、それは宜しくお願い致します。」


皇帝としては、今回の逮捕者という扱いについて当初考えていた不名誉と思った事を考え直していた。なにしろ捕虜となると、それは戦争行為となる。それはすなわち捕虜の身代金だの、対国家としての不公平な条約やらを押し付けられたりだの、双方の国同士の問題となり、事が大事となってしまう。だが、この逮捕者という扱いは単純に我が国の国内法による処罰となる為、ニッポンはそれについての文句は付けられれない。恐らく皇太子という立場から、このような方法を考えたのであろう、と考えた。故に、それ程この逮捕という扱いに関しては、今ではそれ程問題だとは思っていない。


「それで、この後はどうなるのだ?」


「逮捕した方々のち負傷等を負っていない健康と思われる者達30名程は武装解除し、この1つ下のフロアで軟禁しております。その他の負傷者は、我々の治療施設に輸送して治療を行っております。動かせない状況にある者達は、マルソーの治療施設にて治療中です。下のフロアの者達は、恐らく今頃は立食形式で食事をしている頃かと。ご案内いたしますか?」


「下のフロアだな。いや案内には及ばぬ。直接出向く。」


「それでは入り口の兵にそのように申し伝えておきますので。」


皇帝は自ら下のフロアまで降り、軟禁されているであろうフロアを探した。銃を持った兵が2名立っているドアを見つけ、恐らくそこだろうと前まで行くと、兵は両脇に避けてドアを開けた。その向こうには、逮捕とか捕虜とかいう感じではなく、すっかり寛いだ第二軍の生き残り達が飲食をしている姿があり、ドアが開けられた瞬間にその生き残り達の視線がドアに集中した。


「へ、陛下!」


「何故ここに!?」


生き残り達はほぼドラクスルの周辺の者達であった為、皇帝自らがここに来たとなると今回の事態の責を問われ、どのような目に遭うかを想像し血の気の醒めた顔つきを皇帝に向けた後、一斉に片膝をついた。その中から皇太子ドラクスルが皇帝の近くまで歩み寄り、片膝をついた。


「皇帝陛下。斯様に無様な様を御見せして申し開きも御座いません。我々は負けました。しかも完膚なきまでに敗北致しました。それ故に、僭越ながら申し上げます。ニッポンとは戦ってはなりませぬ。」


「うむ…そうだな…いや、よく生きていた。」


「ご覧になられましたか、このエウルレンを。我々が及ばぬ技術が様々な物に使われております。あのような力がある者達に戦いを挑むなど、自殺行為でした。陛下、どうか私めを処罰なさってください。しかし、他の者への処罰はどうかお許し下さい。」


「いや、ニッポンの手前、何もしないという訳にはいかぬが、ドラクスル。お前は暫く謹慎処分と致す。だが、それだけだ。我が国の法にこのような事態を処罰する法は存在せぬ。他の者に関してもザムセンに連れ帰るが、それだけだ。」


「ありがたきお言葉にございます、陛下。」


「皆の者、良く聞け。まずはザ厶センに戻る。ザムセンに戻ってゆっくり休め。良く戦った。」


何も処罰も責も問われない事を理解した生き残り達は心の底から安堵した。

そこに、ル・シュテル伯爵が捕虜の引き渡しの件で立ち合いたいと要望し、急ぎバイクに乗ってやってきた。そして皇帝への謁見と現状のル・シュテル領の発展の様を話始めた。


「陛下、ル・シュテルで御座います。斯様な状況の折、大変申し訳ありませんが、中々お逢い出来ず現状の報告も儘ならぬ状況でしたが、エウルレンへお越し頂き、その報告が可能となりました。このホテルの最上階からはエウルレンを一望出来る展望室が御座います。どうか、そこまでご足労願えませんでしょうか。」


「エウルレンを一望だと?それは興味があるな。ドラクスル、一緒について参れ。」


既にこのホテルにはエレベータが稼働している。その為、伯爵と皇帝、そして皇太子に護衛の兵とゾルダー、そして大西ニ佐がエレベータに同乗し、最上階まで上がった。まず、皇帝の一行は自動で上昇するエレベータに驚き、そして落下しないかどうかを心配した。ホテルの最上階には展望台が設置してあり、エウルレンの街を一望出来る。その光景を見ながらル・シュテルは街の説明を始めた。


「このホテルは地上5階建てとなっており、エウルレンのどの建物よりも高いので、こちらからエウルレンの街全てを一望出来ます。陛下、北の方角をご覧ください。北側にはこの街に沿って高速道路が作られつつあります。あの道は、エウルレン東の炭鉱からマルソーの火力発電所までを繋ぎ、石炭の輸送を行っておりました。現在は、直通の鉄道が引かれており、石炭輸送は鉄道が専属で行っております。その為、あの道路は輸送路から自動車専用高速道となりました。」


「鉄道だと?どの位の規模をどの位の時間で輸送する?」


「概ね機関車が牽引可能な重量が650トン程です。これは車両重量も含めてでありますので、車両重量を引いた数字が輸送可能な石炭の量となります。それが120kmの距離を2時間以内で輸送します。現在、我々が所有する貨物車両は4両です。ここまではニッポンによる先行投資の意味もかねて、無料で供与されておりますが、それを増設するとなると購入せねばなりません。」


「120kmが僅か2時間以内で相当数の石炭を運んで、か。」


「左様に御座います。そして西の方角をご覧ください。塔のような建物が石炭火力発電所です。あの発電所一つで、このエウルレンの街、そしてマルソーの街全ての電力を供給しております。マルソーには食料貯蔵施設があり、10度からマイナス50度以下までの温度で、食品を管理保管しております。それはガルディシアからの食料輸出の際に保管する施設であり、その手前にはそれらの管理を行う検査施設があります。」


「食料輸出が始まった事は知っていたが、それ程の施設が必要だったとは知らなんだ。」


「はい、そしてそれらを大量に運ぶ為のインフラとしてアスファルト製道路が敷設されております。この道はこのホテルに入るまでに体験なさっている筈なのでご存知でしょうが、エウルレンの街は全てをアスファルト化する予定です。そうなればニッポンの乗用車による細々とした輸送も可能となります。」


「そうか…そしてありとあらゆる場所が舗装化される、という事か。」


「聞くところによれば、議会はザムセン港への入港を頑なに拒んでいるとの噂。それ故に、マルソーからザムセンに向けて道路を敷設し、輸送能力を上げてザムセン入りするようにニッポンは動いている様です。ですが、陛下。首都ザムセンに直接船を入れた方が、恐らく街道の舗装完成を待つよりも早いと思いますぞ。」


「うむ、そうだな…確かにそうだ…」


既に皇帝は心ここに非ずで聞いていた。

エウルレンの余りの発展ぶりに、どこで自分は間違えたのかを自ら問いていたが、その答えは出なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ