1_15.危機管理センター 午後6時半
駆逐艦マルモラ 午後6時
ゾルダーは逡巡していた。
取り合えず第一射は撃ったものの、向こうも撃たずに居た為、こちらの射撃も控えて船を停止させた。何せ未知の敵である事と、こちらの目的が別の所にある為、可能であれば何も無いままに撤収したい。ただ、最悪であれば相手を沈めても押し通る覚悟ではあったが…
「ゾルダー艦長!前方不明艦後方に、新たな船2隻が接近中!現在前方に対峙中の不明艦よりは小型の模様です。」
「何っ!?…どうやら包囲されそうだな…逃げ時を失ったか。今の今まで砲撃されない所を見ると、やはり先程のは警告射撃だな。となると、目的は拿捕か略奪か?」
「三隻は全て同じ白色の塗装ですね。1隻当艦後方に回り込みました。あ、前方の一番大型船から黒いボートの様な物が降ろされています。数名がボートに乗ってこちらに向かって来るようです。」
「略奪なら3隻で一気に襲うだろうな。とすると拿捕か。…この土地が彼らの物だとすると臨検か?であるならば、こちらの領海侵犯って事になるから仕方が無いか。」
「艦長、あの黒いボート、相当早いです。あの高波を跳ねるようにこちらに向かってきます!…どうされますか?」
「包囲されているのだ。会うしかあるまい。ああ、それともしもの為に自沈の準備もしろ。」
最新鋭の駆逐艦だけに、万が一でも敵対勢力に渡る事は許されない。最新鋭の装備が敵の手に渡れば、その能力が我が身に返る。相手がこちらの思うような連中で無ければ艦を沈めてやる。
ゾルダー艦長は覚悟を決めた。
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危機管理センター 午後6時半
「総理!稚内の海保より連絡です!所属不明艦との接触成功。ガルディシア帝国と称する国家所属の調査船マルモラ号、との事。マルモラ号は船長ゾルダー中佐以下25名が乗船しているとの事。現在、稚内港に向けて移動中です。」
「彼らの主張によると、日本への領海侵犯は不幸な事故である。当該海域に於ける貴国の存在は認知されていなかった事、また荒天下において緊急避難的に陸地に向かったのは事実なれど、それが貴国であるとの認識は全く無主地の認識であった事。以上を鑑み貴国には寛大な処置を願いたい、との事です。」
「…待て。その前に一杯謎があるんだが…」
飯島総理は混乱した。ガルディシア帝国?異世界の証左?会話が可能?意思の疎通以上云々というより、会話が成立している?その前に、帝国?帝国を名乗る国家が近隣に居る、という事か?
飯島総理がそんな事を思っていると、同じような内容を思った閣僚、主に防衛相と外務相が活性化した。
「その相手と会話が通じるのか!?」
「どの位の文明レベルなんだ、そのガルディシア帝国は?」
「その帝国は帝国を称する位だから拡張主義なのか?」
「調査船に攻撃用の砲が備わっているのか?」
「調査船の乗組員は軍人だけなのか?」
「今、その乗組員はどうしている?色々情報を聞き出したい。」
先程、"異世界"という言葉を聞いて即座に否定に走った者、放心状態に陥った者、転移した後の日本の将来を予測して真っ青になった者。それぞれの理由で暗澹たる気持ちに支配されていた閣僚達は、新しい情報が"異世界"という事実を補完するかの様な情報ではあるものの自分達の理解と対処の及ぶ範囲の問題がぶら下がった事により、息を吹き返した。が、沸き上がる疑問を回答すべき人物はここには居ない。
しかも、だ。
これで日本は現在、"異世界"に居るという事が事実として認識された。諸外国から来る筈の様々な輸入品・原料・燃料の類はもう来ない。そして日本が作られた様々な製品の外国市場は存在しない。火急は食料と燃料か…
「経産相。近々に枯渇する資源、備蓄量、それとカロリーベースでは無く生産額ベースでの総合食料自給率を出してくれ。早急に。その結果を元に農水相と配給を行う為の基本設計をしてくれ。それと近隣の資源調査を行う体制を構築してくれ。防衛相と外務相はガルディシア帝国にあたってくれ。可能であれば、国交樹立に至る方向で。帝国、しかも近隣だからな。なるべくは仲良くしたい。どんな国なのかを探ってくれ。ある程度はこちらの情報を流しても良い。判断は任せる。それと防衛装備庁、弾薬で日本での生産可能な物の増産だ。国交相は、防衛・外務のサポートに回ってくれ。以降、海上保安庁は海上自衛隊の下部組織扱いとする。それと気象庁に、可能な限り天候を把握可能な体制を作ってくれ。」
飯島総理は、一気に言った後に思い出した。
そうだ、佐渡島の件…こちらの住人に聞いた方が良くないか?
「それと、稚内に大至急連絡だ!マルモラ号の乗員を札幌まで送る事は可能か?。例の大魔導士とやらの情報を最優先に取りたい。可能な限り丁寧にご招待しろ。ああ、極秘裏にな。」