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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第二章 ガルディシア発展編】
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82.ポイントオブノーリターン

このエウルレン市防衛戦にあたり、皇帝も軍を動かそうとしていたがいち早く日本に察知され、しかも日本国外務省の副大臣が飛行機でやって来てギッチリと釘を刺された。そのため皇帝の第一軍の出撃は中止となり、言わば日本の脅しに屈した形とはなったが、その代りに帝都ザムセンでの火力発電所建設に関する工事遅延に関して、可及的速やかに遅延を取り戻すように工事の迅速化を約束した。それも帝都ザムセンの港に日本の船が入らない方向で、だ。これにはカラクリがあり、エウルレンからザムセンまでの街道が整備される事が前提であるが、開通した場合には輸送能力が格段に上がる。ただし、道路輸送が不可能な大物に関しては、別途手段を考えなくてはならない。それに関する輸送手段の増強も約束された。つまり、皇帝の今後の腹積もりとして考えるなら、エウルレンは可能な限り無傷で防衛されなくてはならない。だが、もし仮にドラクスルの第二軍が勝っても、ル・シュテルの港は手に入る…この場合、今ある物だけで、それ以降は望めないだろうが。何れにせよ、あのニッポンの陸軍は未知数とはいえ、恐らくまた勝つのだろう、と思っていたが…直前の情報は、エウルレン防衛に派遣されたニッポン軍はたったの100人、という事だった。それでもニッポンが勝つ気でいるのなら、如何なる恐ろしい事態が第二軍を襲うのだろうか、と皇帝は思っていたが、その日のうちに戦闘終了の報告がやってきた。

皇帝は聞かずとも結果は分かったような気がしていたが、唯一気になるのは皇太子の生死だった。本日早朝に双方の布陣が完了し、恐らく昼には激突するであろう事は予想していた。だが予想は大きく裏切られ、結果は惨憺たる物である、という言葉では言い表せない状況だった。しかも、あの時に兵を引いて無かった場合、この絶望的な状況は、自分自身の結果であったかもしれないのだ。


夕方には戦闘が終了していた。

そう、1日も戦闘はかかって居なかったのである。

ドラクスルの第二軍は75,000の兵が居る。歩兵師団が2つと騎兵師団が2つだ。ドラクスル得意の両翼包囲を仕掛けたのだろうが、それにしてもこの結果は信じがたい。報告に来た将校は、ゾルダーからも情報を得て、皇帝の前でエウルレンの戦闘に関する報告をしていた。


「戦闘陣形は正面右に第三歩兵師団、最右翼に第三騎兵師団、正面左に第四歩兵師団、最左翼に第四騎兵師団、指揮所付近に砲兵大隊、その後方に輜重兵大隊が位置しており、両翼包囲による殲滅戦を企図しておりました。戦闘開始と共にニッポン軍の飛行機械が飛来、我が第三歩兵師団に対し数度の警告を発し、その後に空から攻撃を開始、これにより第三歩兵師団壊滅。主な攻撃は連射銃と爆発する矢によるもの。次に第四歩兵師団に対し、ニッポン軍の防御陣地より銃撃が行われ、これも連射銃によるものです。第四歩兵師団はエウルレン市北方の外周部から市内への突入を試みましたが、北方の進入路正面を守備していた鉄製の砲撃車によって壊滅。両翼から突進した第三騎兵師団と第四騎兵師団も、共に鉄製砲撃車によって壊滅いたしました。後方の砲兵大隊と輜重兵大隊も、共に飛行機械によって壊滅致しました。敵の被害確認は出来ていません。」


「生き残ったのは何人か?」


「はい、野戦陣地に詰めていたドラクスル大将以下30名が無傷で逮捕されました。その他は戦場にて行動不能となった者達や負傷した者達等が第三、第四歩兵師団併せて3,500名、騎兵師団が6,500名の計約10,000人であります。」


「暫し待て。今、なんと言った?逮捕だと?!」


「はい、逮捕と申し上げました。

 報告をそのまま申し上げております。ニッポン軍は、此度の第二軍による軍事行動は、現地武装勢力による内乱と定義づけており、それら武装勢力を鎮圧する為の警察行動だという事です。その為、警告を行った上で警告に従わない武装勢力に対して武力制圧を行い、投降したもののうち指揮命令系統の上位の者は逮捕した、との事です。尚、逮捕された者は、現地の警察機構に引き渡すので、早急にエウルレンまで来られたし、との事です。」


なんたる不名誉…捕虜と言われるならまだしも、逮捕と言われたらこれは犯罪者ではないか?だが、死ななかった事を幸運に思う他無い。奴らは僅か100名しか派遣しておらず、その人数で第二軍7万5000を殲滅したのだ。なんという恐ろしい奴らだ。だが、彼奴等の行動に異を挟む事は出来ないだろう。何故なら、自分も途中まで同じ行動をしていたからだ。


「また、同時にエウグスト市に監禁されていたル・シュテル伯爵の救出をニッポンは行っており、これは皇太子殿下の投降と共に解放令が出された為、双方攻撃を行わずにル・シュテル伯爵は釈放され、そのままニッポン軍の飛行機械によって移動した、との事です。」


1500kmもの距離がある二つの軍事行動を同時に行えるのか。例の通信という奴だな…今までゾルダーに任せてばかりであったが、本腰を入れて学ぶ必要があるな。これ程までに情報伝達が素早いという事は、何かを間違っても修正し易いという事だ。何かを間違っても、修正が出来ぬままに後戻りが出来ぬ事態となった末に、間違った事に気が付き、それを放棄せねばならない状況に陥る…という事も減るだろう。そうだ、悪い話ばかりではないのだ。これを奇貨として良い方向に向かえば良いのだ。


それと、我が国の警察機構か。近いかそれに準ずる組織は近衛あたりだな。ドラクスルは近衛に引き取らさせよう。明日にでも余がエウルレンに入りドラクスルを引き取りに参れば、ニッポンも文句を言うまいて。ドラクスルは暫く謹慎と称して休養を取らせば良いな。第二軍壊滅は痛いが、再編はどうしたものか。今の所、近々に陸戦が存在しない事だけが唯一の救いか…


だが皇帝は知らない。

今やポイントオブノーリターンはとうの昔に過ぎている事を。

既に、日本は帝国という政体の排除に動いている。それは、最初の北ロドリア海海戦の時点で疑わしい状態となり、エルメ海岸上陸戦で決定的と変わり、このエウルレンの防衛線でダメ押しとなったのだ。それが故に日本政府の行動は既定路線を走っていたのだ。そして、それを皇帝は知らなかった。

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