81.ドラクスルの降伏
ドラクスルの野戦陣地は8台の戦車と、その戦車兵に包囲されていた。
そして、陣地には第二軍の軍旗は降ろされ、降伏旗が棚引いていた。そのまま彼らは武装解除されており、ズボンのベルトも引き抜かれた状態で、頭の後ろで後ろ手に交差したまま整列していた。遠巻きに戦車兵達が銃を構えて彼らを囲んでいた。その囲んだ戦車兵を前にドラクスルは問いかけた。
「指揮官はどこか。名誉ある待遇を求む。
私は第二軍司令のドラクスル大将だ。」
「こいつ、この格好で威張っちゃって馬鹿じゃねえの?」
「最初から話を聞いてりゃ、こんなに人が死ぬ事も無かったのに。」
「黙れ。敵総大将だ。我々はジュネーブ条約を尊守する。
ドラクスル閣下、手を降ろして結構です。お立ち下さい。
只今、我々の指揮官がこちらに参りますので。」
「すまぬ。貴殿の名は?」
「申し訳ありません、上官の許可が出ないとお答え出来ません。」
ちょうどそこに中隊指揮車に乗った大西ニ佐が到着した。
「ドラクスル閣下、昨日ぶりです。」
「大西ニ佐。あれは昨日の出来事であったか。もう既に遠い過去の出来事に思える。我々は負けた。徹頭徹尾壊滅した。貴殿が言っていた軍を止める事を可能とする、確かにその通りだった。可能であれば、我々をエウルレンの街に連れていって欲しい。街の中には我が軍の浸透戦力が遊撃を続けている筈だ。」
「閣下、既に街中での戦闘は終結しております。先ほどその浸透戦力はほぼ捕獲した、との連絡が入りました。既にどの地域でも戦闘は終了しており、以降の殺生は無用な行為かと思われます。また、此度の降伏の判断、大変なご決意であったかとお察しします。」
「貴軍がこれほどと知っていたら、そもそも攻めんよ。
色々お伺いしたい。だが、一番知りたいのは我々の処遇だ。」
「処遇についてですが…
我々の立場としては、内乱による武装勢力への鎮圧という位置づけです。その為、貴軍の処遇に関してはガルディシアの警察機構に引き渡す事になると思います。」
「なるほど、警察機構と。了解した。
これは戦時の捕虜の扱いでは無い、という事だな。」
「そう考えて頂いて構いません。
それと、我々は現在ル・シュテル伯爵の所在を捜索中です。もしご存知でしたら教えて頂きたい。無用な殺生を避ける為に。」
「…無用な殺生とは?」
「現在、我が軍が閣下の居城である中央総督府に向かっており、完全武装の救出チームが先程戦場でご覧になった空飛ぶ機械であるヘリコプターよりも更に大型の機体に乗って北の塔に向かっております。早急に閣下のご命令が頂ければ北の塔での無用な死者は発生致しません。」
「あれより更に大きいと?しかも既に北の塔にル・シュテルを幽閉している事まで把握しているだと?そ、それは…我々に内通者が居るという事か?」
ドラクスルはヘリの大きい事を単純に攻撃力が大きいと理解した。だが、あのヘリとやらはたったの4機で1個師団を壊滅させた。それよりも大きいアレが総督府を、もし攻めたら…あの丸い筒から出た矢のような物は、1発で相当な範囲を吹き飛ばしていた。それが何発も収められているのだ。だが、それよりも大きい機体…それに内通者が例え居たとしても、1500kmも離れているのだ。この期間にどうして情報が洩れる?
「それに関してはお答え出来かねますが、我々の偵察能力は150km以上離れた距離から50cm程度の物を識別する能力があります。ですので、恐らくそれに引っ掛かったのではないでしょうかね。」
「150km離れた場所を監視出来る…だと…?馬鹿な!それでは此度の我が軍の動きも筒抜けという事か?」
「そうですね。エウグスト市を出る時から監視していました。」
それでは勝てる訳も無い。我々の動きが全て筒抜けであり、しかも圧倒的な火力を持つ兵器で待ち受けていたのだ。ドラクスルは最初から負けていた事を完全に理解した。噂どころの話では無かったのだ。連射する銃、空飛ぶ砲兵、恐ろしい火力を持つ鉄の箱。いち早く兵を輸送するシステム。たった100人の敵兵が7万5千の兵を煮えたぎる鉄鍋の中に叩き込んだのだ。恐ろしい兵器群を用いて。
「ル・シュテルは北の塔最上階に幽閉しておる。そこには武装した我が軍の兵が監視しておる。北の塔周辺まであの空飛ぶ機械で行けるのであれば、最寄の兵に"第二軍司令より伝言、ベフライウング"と伝えれば良い。だが、今からそれを伝えるに大変な時間がかかるのではないか?」
「いえ、それは問題ありません。失礼します。
"こちら帯広13、コウノトリ応答せよ"
-"こちらコウノトリ、感度良好"
"荷物は北の塔最上階、尚パスコードあり。
パスコードはベフライウング。繰り返すベフライウング"
-"コウノトリ、ベフライウング了解"
"帯広は戦闘終了、以上"
はい、これで救出チームに連絡出来ました。
ご協力ありがとうございます。」
「…い、今、何をした!?何をしていた?」
「何、とは?いや、救出チームのヘリと通信していたのですよ。」
「1,500kmの彼方とか!?」
「そうです。何れここも発展すれば、もっと遠い距離も可能になりますよ。
それでは皆さん、エウルレン市の方に移動してもらいます。」
ドラクスルは完全に折れた。恐るべき通信能力だ。これを持つだけでも戦場を支配可能だ。いや戦場だけに留まらない。ありとあらゆる場所で通信が可能であるならば、その用途の可能性は無限大だ。そんなものを普通に使う連中を相手にしていたとは…
エウルレン市北側は大量の死体と瀕死の重傷者、運よく軽症で済んだ兵が山程おり、そこに数機の自衛隊のヘリコプターがやってきた。これは戦傷者要救助用の輸送ヘリコプターだったが、あの音と形状を見た第二軍の生き残った兵達は再び大パニックになった。




