表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第二章 ガルディシア発展編】
157/327

80.エウルレン市防衛戦-③

ガルディシア第二軍第四騎兵師団の第四大隊は突っ込んだ集団の左後方集団だった。先発の第一、第二騎兵大隊は、ほとんど全てが戦車砲と機銃の餌食になっていた。だが、第三騎兵大隊が壊滅する裏で第四騎兵大隊の壁となった為、戦車からの射撃を免れた。第四騎兵大隊は、ただ弾に当たらない事だけを祈って遮二無二に突進した結果、遂にエウルレン市東側側面の戦車防衛ラインを突破し、エウルレン市南側に侵入した。そして第四騎兵大隊を指揮するアデーレ少佐は、エウルレン市南側で部隊の再編をした所、自分の大隊が1個中隊規模に減らされていた事に愕然とした。あの弾丸の嵐を抜けたのは第四騎兵大隊544名のうち、たった1/4弱の120名だったのだ。


「いいか!我々騎兵は、あの鉄の箱に及ばない。

 だが市内ではあの大きな砲は発砲出来ない筈だ。そして市内に浸透し、防護拠点と重要拠点を背後から攻撃するのだ。まずはあの前面の拠点を背後から攻撃する。移動の際には鉄の箱に注意せよ。必ず建物の影に入れる態勢で移動せよ。いくぞ!」


生き残った騎兵を以てアデーレ少佐は市の中央部分に向かって再度突進を開始した。まずエウルレン市北側前線に聳える防護拠点、つまり拠点アルファとブラボーの後背から侵入して、射撃を行っている連中を排除する、それだけでも歩兵への圧力は随分減るだろう。その後は、市内に浸透して破壊なり領民を人質にするなり動けば良い。アデーレ少佐の部隊は中央に向けて突進を再開した。


--


「帯広05、騎兵が突進してくるぞ…各車自由射撃開始!1騎も通すな!」


大量の騎兵が戦車に向かって突進してきた。だが、まるで自殺行為のこの動きも、大量の兵の犠牲があってこそ成功する可能性もある。第2戦車小隊から見た騎兵師団の塊右奥はちょうど他の大隊の影になっていた。


「帯広05、ちくしょう最右翼抜けられた!!大隊規模だ!」


「帯広08、機関銃の銃身がもう駄目だ。戦車砲撃て!」


「こちら帯広07、もうすぐ第3戦車小隊の増援が来る!それまで持たせろ!!」


「帯広06、第3戦車小隊2両到着、射撃開始!!」


「帯広09、10到着、3時の方向に抜けつつある敵を優先的に排除する。」


「帯広10、駄目だ、追い付かない。先頭取り逃がした。」


「帯広05より第3戦車小隊へ。我々は銃身が限界だ、後続は第3戦車小隊に任せる、カバー頼む。第2戦車小隊各車銃身交換!」


第2戦車小隊の4両が取り逃がしたガルディシアの第四騎兵大隊を、戦闘途中に合流した第3戦車小隊が直ぐに追撃したが、敵騎兵大隊の先頭集団は逃してしまった。第2戦車小隊の4両は既にM2重機関銃が焼き付いていた為、銃身の交換を開始し、その間を第3戦車小隊がカバーしつつ、後続の騎兵隊を攻撃し続けた。


「中隊指揮車に連絡、戦線東方から南方にかけて中隊規模の敵騎兵浸透。注意されたし。」


エウルレン市中央のホテル前に居た中隊指揮車の10式からは、既に騎兵がちょろちょろと建物から見え隠れしているのを確認していたが、建物を破壊してしまう恐れから撃つに撃てない。中隊指揮の大西ニ佐はエウルレン防衛指揮所に詰めている第二レイヤーのベールに連絡し、ホテル上部に配置したスナイパーに、浸透した敵兵の排除を依頼した。


第二レイヤーの中でもストルツとガートは狙撃の成績が良かったのでスナイパーとしてホテル屋上に配置されていた。連絡を受けたストルツは、敵出現場所を通信で受けすぐにそちらに移動した。上から見ているとちょろちょろと馬から降りて、中央の戦車中隊指揮車を遠巻きにして防衛拠点に迫ろうとする動きが何人か見える。戦車は街中でぶっ放すには威力があり過ぎで実際に撃てはしないが、そこに居るだけで敵兵は交戦を避けようと迂回する動きになる。そして、戦車を迂回し切った、と安心した瞬間を狙い撃ちした。


--

ドラクスルの第二軍は、この時点でエウルレン市に浸透した1個中隊の騎兵を除き、全ての戦力が磨り潰されていた。中央の歩兵師団は攻撃ヘリにより第三歩兵師団が消え、エウルレン防御拠点からの射撃と第三戦車小隊の砲撃により第四歩兵師団が消えた。両翼を突進した第三騎兵師団も日本の2個戦車小隊に挟まれ壊滅した。残りの第四騎兵師団からの連絡も絶えて久しい。そして第三騎兵師団を壊滅させた戦車8両が、ドラクスルの指揮する陣地へと接近していた。既にこの陣地を守る兵は殆どが壊滅した。ドラクスルの掌握する師団はもうどこにも連絡が付かない。そして予備兵力も既に無い。正直、ここまで彼我の戦力差があったとは到底思えなかった。既に何をどうしても、どんな事をしてでもこの戦局を挽回する手立ては無いが、僅か1日でこれ程の打撃を受けるとは未だに信じられなかった。そしてドラクスルは陣地を守る兵に降伏旗を用意させた。


そこに、前線を監視する兵から歓声が上がった。

エウルレン防御拠点の建物の背後から、騎兵が現れたのだ。騎兵は建物にとりつくと馬を降り銃を構えて建物内に突進していった。ドラクスルは慌てて、降伏の信号弾を上げさせ、エウルレン防御陣地に向けて、降伏旗を掲げさせた騎兵を走らせた。


そうだ、既に戦況はどうやっても覆せない。これ以降は無駄な戦いだ。仮にあの拠点を制圧しても、そこを保持すべき歩兵師団がもう居ないのだ。これ以上戦闘を続ける意味が無い。これ以上兵を減らしたくない。こうした戦闘終了に向けたドラクスルの努力も、建物内に先行侵入した騎兵部隊が全員銃撃戦の末に一兵残らず倒された。建物内に居た第二レイヤー集団は、第一レイヤーの近代的な訓練によって屋内戦闘に特化していたのだ。残るのは市街地に浸透した騎兵集団だけだったが…拠点に取り付いた最後の騎兵集団も降伏信号を確認し、動きを止めた。


だが市内に浸透した数人の騎兵は未だ自軍の降伏を知らず、動けなくなっていた。何故なら彼らはホテル屋上からの狙撃で釘付けになっていた。彼らの銃とは比較にならない精度で狙撃を受け、遮蔽物に隠れて全く動けなくなっていたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ