79.エウルレン市防衛戦-②
補給に戻った攻撃ヘリ部隊は、防衛陣地から砲撃を受け始めた連絡を受け、敵砲兵陣地への攻撃を行う為に補給を済ませた後、すぐにエウルレン北方のガルディシア第二軍砲兵陣地に向かった。
「空の悪魔が戻ってきたぞ!逃げろっ!!」
「どこに逃げればいいんだ…」
第二軍砲兵陣地では勢いよく移動弾幕射撃を続けていたが、再び現れた攻撃ヘリによって恐慌が生じた。砲を放置して逃げる訳にはいかない。しかし砲を引いて逃げるには重すぎる。そして砲兵陣地は遮蔽物の何もない平坦な場所だ。逃げてもどこにも隠れる場所は無い。だが攻撃ヘリは重砲を中心に攻撃を加えてきた。つまり砲の周辺にいる限り、死は免れない。砲兵達は慌てて砲を放置し何も無い場所に逃げ惑うが、念入りに砲という砲を全てハイドラ70ロケット弾により破壊し尽くした後で、更に後方に居る輜重隊大隊に向かい20mmガトリング砲で掃射する。
ドラクスルは自分が居る野戦陣地の前方に位置する砲兵部隊と後方に位置する輜重部隊の壊滅する様を両方の部隊の間で何も出来る事の無いままに目の当たりにし、茫然ととしいた。
「こ、これは何だ…あれは何をしているのだ…」
「殿下!!まだここに居らっしゃったのですか!早く後退してください。あれは危険です。我々にはあれに対抗する武器がありません!!はやく、早く後退してください!逃げて下さい!!」
「い、いやしかし…このままだと…」
ふと、クラレンスの言葉を思い出していた。曰く『噂に聞く連射可能な銃、百発百中の砲、これだけでも我々は慎重に事を運ばなくてはなりません。』、と。実際に目の当たりにしてみると噂よりも恐ろしい事が分かった。連射可能な銃は未だ良い方だった。いや、それだけでも一発一発が恐ろしい威力であり、しかも連射性能と相まって我が兵が抵抗する事無く蹂躙されている。しかも、あの両脇に抱える筒から出る矢は、兵の上から飛来し大きく爆発して4、50mの範囲を吹っ飛ばす。あれでは空の砲兵ではないか!しかも、地面で爆発しない矢は上空で爆発して、小さな矢が爆発した周辺にばら撒き、死体を増やして行く。そんな物に対抗出来る物などこの世には無い。もちろん我が軍にも無い。
「殿下!既に第三歩兵師団と砲兵大隊、そして輜重大隊が全滅しております。しかも文字通りの全滅です!全軍後退の指示をしないと、我々は壊滅です!!」
「まて!騎兵師団が突進しておる筈だ。
ニッポン軍は僅か100名程度しか居らん。あれほどの威力だ。エウルレンの市内では使えない筈だ。乱戦状態に持ち込め。可能な限り接近して戦え!数で押すのだ!」
「その接近が出来ません!!
ここから見える背の高い建物に奴ら籠っています。接近すると連射可能な銃からの銃撃を受けて前に進めません。迂回しようにも右翼の第三歩兵師団ルートは、その高い建物から狙われます。左翼に回ると、騎兵師団の突進路に入ってしまいます。」
「ぬぅ…騎兵師団の突進はどこまで成功したのか?」
「騎兵師団からの連絡は未だ入っておりませんが、第三、第四の先鋒は市の外苑中程まで進んでいる筈です。」
「連絡を待って陣地を移すぞ。ここはあれが来る。」
攻撃ヘリは二度目の補給に戻っていった。
暫しの小康状態がドラクスルの野戦陣地に訪れた。
この世界では塹壕戦の概念が無かった。しかし、これだけの攻撃を受けた後にドラクスルが考えたのは、空からの攻撃と連射攻撃を防ぐにはある程度防護能力を持つ陣地の構築だった。既に周辺はある程度壊滅状態にあったが、ドラクスルの頭の中にはる計算上では負けてはいない。最後に立っている者が自分であれば、それは勝利となるのだ。ニッポン人は僅か100名しか居ない。こいつらを排除出来れば、このエウルレンは落ちる。奴らの武器は威力が大き過ぎる。故に懐に飛び込んでしまえば、小回りの効く人数の多い我々の方が優勢となろう。そこが反撃の瞬間なのだ。今は、只管損害に目を瞑り突撃するしか無い。
「ちっ、こっちには鉄の箱が居るぞ!」
「やつらが撃つより早く抜けるのだ!」
「なんだ、あの威力…迂回しろ!!迂回だ!」
「俺達の方が数が多い。抜ければ俺達の勝ちだ!!」
「一気に駆け抜けろ!!ガルディシア騎兵の意地を見せろ!」
そしてドラクスルの狙いはある程度達成しつつあった。
左右に展開していた第三、第四騎兵師団は、正面から陸自の第1戦車小隊と第2戦車小隊のそれぞれ4両づつにぶつかった。10式戦車は迫りつつある騎兵集団に対し、陣地から動かず120mm戦車砲を放った。今回、各戦車には徹甲弾はほとんど持たず主に多目的対戦車榴弾を装備していた。4台の戦車から放たれる多目的対戦車榴弾は、騎兵前面の足元を深く抉った。前面の騎兵が動きを止めた事で後続の騎兵は着弾地点から左右に広がり、まるで魚の群れのように突進を止めなかった。そして戦車搭載の同軸機銃とM2重機関銃により広がりつつも突進する騎兵に対して掃射を開始した。しかし、騎兵師団規模の突進を戦車がたった4両で止められる筈も無い。騎兵の側面からは陣地チャーリーとデルタから銃撃が続くが、それでも撃ち漏らした敵がどんどん浸透してくる。止む無くエウルレン市北側正面にいた第3戦車小隊を分隊に分け、第1と第2戦車小隊の応援に向かわせた。
そして戦線右翼(ガルディシアから見て)を突進する第三騎兵師団は完全に前進が出来なくなっていた。それはエウルレン市西側のマルソー街道を守っていた第4戦車小隊が応援にかけつけたのだ。第4戦車小隊は第1戦車小隊と連携し、突進する第三騎兵師団を左右から包囲する形になった為、それ以上の前進が出来ず、しかも損害だけが増えていき、どんどんその戦力を減らしていった。
戦線左翼を突進する第四騎兵師団もまた大多数が防衛拠点チャーリーからの銃撃にと第2戦車小隊の銃撃によって撃ち減らされていたが、それでも全滅では無かった。遂に騎兵の先頭はエウルレン市東側前面を守る第2戦車小隊の陣地を抜けた。そして抜けた東側を大きく迂回し、南の方向からエウルレン市への侵入を始めた。




