78.エウルレン市防衛戦-①
ドラクスルの命令は下った。
「第三、第四歩兵師団前進。エウルレンを押し潰せ。騎兵師団は指示があるまで待機。砲兵は敵陣地を確認次第、支援攻撃せよ。」
絶対の自信を持つ皇太子ドラクスルの命令により、エウルレン前面で展開している2個歩兵師団はエウルレン市に向かって前進した。
エウルレンの防衛は、北側の街道入口を中心にコンクリで出来たビル2棟をアルファ、ブラボーと呼んで防衛拠点とし、そこに銃座を設定した。そしてその拠点後方に自衛隊の第四戦車中隊第三小隊の10式戦車が4両。左翼前面にコンクリのビル1棟をチャーリーとし、その拠点後方に第四戦車中隊第一小隊の戦車が4両、右翼前面のコンクリビル1棟をデルタとし、その後方に第四戦車中隊第三小隊の戦車が4両、中央の指揮所はエウルレン市で一番高い場所としてホテルを選定し、その近くには中隊指揮車が1両配備されている。各防衛拠点のビルには、第二・第三レイヤー部隊が20名程入り、重機関銃とRPGで武装して立て籠もっている。更には攻撃ヘリがマルソー空港予定地を補給基地とし、そこに弾薬を集積していた。マルソー港とエウルレンを結ぶ高速道路は、港に集積されている弾薬を運ぶ重要な補給路となっており、ここは第四戦車中隊第四戦車小隊の戦車4両が守っていた。
第三歩兵師団に空よりAH-1Sコブラが接近する。
聞いた事も無い爆音に下に吹き付ける激しい風、そして第三歩兵師団前面に立ちふさがる4機のヘリ。当然第三歩兵師団はこれが何なのかは理解していないが、ヘリの下にぶら下がっている物は恐らく武器に違いない形態をしている事から、不安になりながら空を見上げている。すると、突然そのヘリから大きな声が降ってきた。
「我々は日本国陸上自衛隊の者である。攻撃の意思を持ってエウルレンに近づく事を許可しない。直ちに立ち去れ。エウルレンに攻撃を行えば、我々は全力を以て反撃する。繰り返す、直ちに立ち去れ。」
そのような事を叫んで、第四歩兵師団の方に飛んでいった。
だが、立ち去るような事を言われても兵がそれを聞く訳には行かないのだ。お互いに顔を見合わせつつも、変な物が来たな程度で前進を再開した。だが、再びこの空飛ぶ奴がやってきて再度警告を始めた。しかも最終警告である、などと言っている。警告したから何が出来るのだ、とイキった兵が空飛ぶ奴に発砲を開始した。この発砲を合図に、第三歩兵師団は足を止め、めちゃめちゃにヘリに向かって発砲し始めた。第三歩兵師団の第九大隊指揮官の少佐は、歩兵が足を止め撃ち始めた事に慌てて発砲をやめて前進するように命令したが、その後に第四歩兵師団も似たような状況となっていた。
当初のドラクスルの予定では、前進して前面の抵抗線を押しつぶし、その後に両側の騎兵を前進させてエウルレンを包囲し、住民を町から叩き出した上でエウルレンを占領する積もりだった。そして次にマルソー港を制圧して、全ての権益を握る積もりだったのだ。だが、歩兵が突然現れた空飛ぶ機械に発砲を開始したあたりから、全体の歯車が狂い始めた。
「第三、第四歩兵師団は前進を続けよ!何を足止めしておる!!あんなものは無視しろ!!」
ドラクスルは予定通りに動かない状況に苛立ちながら各師団長に命令した。だが、無視出来ない事が起こり始めたのだ。空を飛ぶ機械は、下からの銃撃に対して何もしていなかったが、何発かの弾が当たり始めてから一旦引いて離れた後に、再度第三歩兵師団上空に再び現れた。
その空飛ぶ機械が、胴体脇にある両翼と鼻づらに付いている砲身から連続で撃ち始めたのだ。鼻づらに付いている砲身から放たれる連続した銃撃は1発で兵を即死させ、しかも当たらずに近くを弾が通っただけで身体が裂ける程の威力なのだ。その弾を数えられない程の連射を以て第三歩兵師団に向かって浴びせてきた。第三歩兵師団の2連隊の内、右翼前列の第5連隊は大パニックに陥った。この恐るべき連射を浴びた後には、誰も生きて残っていない。それを真横で見ていた左翼側の第6連隊も同時にパニックになった。あれの近くに居てはいけない。あれが来たら逃げなくてはならない。こうして逃げ惑う第三歩兵師団は大隊単位で磨り潰されて行き、仕上げにM200ハイドラ70に装填されたフレシェット弾とHE弾を喰らって、僅か数分で壊滅した。4機のコブラは全ての弾を打ち尽くし、一旦マルソーの臨時空港へと補給の為、引き返した。こうして開戦の僅か数分でドラクスルは砲兵や輜重兵大隊を除く第三歩兵師団主力の大多数を失った。
そして隣の第三歩兵師団の壊滅を目の当たりにしていた第四歩兵師団は恐慌に陥っていた。隣の師団は自分達と同じ規模だ。そして同じように空に向かって攻撃する術が無い。そこにドラクスルの指示で再び前進せよ、と命令が来た。しかも後退を不許可、命令違反は後ろから撃つ、との命令さえ追加で来たのだ。やけくそになった第四歩兵師団はエウルレンに向けて全力疾走を始めた。ドラクスルは、あの高威力の兵器は敵味方が乱戦になったら威力が大きすぎて撃つ事が出来ない、と見た。それ故に乱戦状況を作り出す為に、あの空飛ぶ機械が居ない間に全部隊を一気にエウルレンに寄せる、という判断をした。ある意味その判断は正しかった。ヘリは補給の為、暫く戻らなかったからだ。
第四歩兵師団の疾走は、エウルレン側が設定した防衛ラインの2km手前まで来ていた。そしてガルディシアの砲兵による観測射撃が行われた後に、前進支援射撃が開始された。しかしこの砲撃による被害はエウルレン市には発生してはいない。何故なら歩兵戦力は全てコンクリのビルの中に居たからだ。つまり、この支援射撃は無人の荒野を叩き、地面を耕しただけに終わった。その後、歩兵が耕した道を乗り越えてやってきたが、全て防衛拠点のビルから狙い撃ちされて撃ち減らされていた。だが、こうして歩兵が正面で制圧され続けている間に、第三、第四騎兵師団がエウルレン市を包囲するように両側を突進し続けた。しかし両脇の防衛線の向こうに控えるのは、更に凶悪な存在だった。それぞれの騎兵師団は、4台の10式戦車と遭遇した。