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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第二章 ガルディシア発展編】
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75.回避の努力

ゾルダーからの電話をとった高田は直ぐに本題に切り込んだ。


「こちらでは衛星で色々な物を監視しているのですが、エウグスト市から大量の人の移動を感知しています。恐らくエウグスト市からル・シュテル伯爵領まで10日前後で到着するものと予想しています。ゾルダーさん、この件ですか?」


日本の高田に電話をしたゾルダーだったが、日本は既にこの事態を把握していた。しかも到着予定日まで把握している。クレメンスの情報はこれで裏付けられた訳だが、帝都の動きはどうなのか?


「それですが、タカダさん。ここ帝都ザムセンでも陛下が軍を出す動きをしています。ル・シュテル伯爵領を接収する積りで動こうとした矢先に、皇太子の軍が動いたという状況です。ただ、皇太子の軍は10日程で到着との事ですが、皇帝の第一軍は3日程度でエウルレンに着くでしょう。寧ろ、こちらの方を先に手を打たないと、エウルレンは最悪壊滅します。」


「それは日本政府としても大変困った事態です。何せ、エウルレンへは先行投資の意味合いが強い。今の所、持ち出しの方が多いんですよね。それを回収しない事には、我々の今後も困った事になる訳で。」


それはそうだ。火力発電所、港の整備、大規模集積場、舗装道路の敷設、通電施設の整備、様々な車両の供与、各種教育施設等など数え上げたらキリがない。それらの投資を戦火で灰塵にしてしまうのを放置するのはどんな金持ち国家でも無理な話だ。


「私もそう思いまして…可能であればニッポンが介入して頂ければと。」


「そうですね…ちょうど食料の輸出も軌道に乗った事ですし、これが阻害される事は所謂国家の生命線を脅かす行為と言えなくもないですね。実はこの動きを察知した時から、我が国での閣議ではル・シュテル領内への治安維持と財産保護を理由に部隊を派遣する事で決定します。そして、この件に関して帝都には我が国の外務副大臣を航空機にて既に派遣しております。彼はかなり対話を重視する派閥に属している方なので、皇帝の対応を任せても大丈夫だとは思いますので、帝国陸軍の第一軍、でしたっけ?それは何とかなると思いますよ。」


「とすると、皇太子の第二軍は…?」


「ちょうど伯爵領に入る辺りで点在している北側の商館がありますでしょう。一応、あそこは日本のセーフハウス扱いで設置された物ですので、あれらを拠点に侵攻を食い止める事が出来ると思います。ただ、数日しか持ちません。ゾルダーさん、エウルレンに入って指揮取りますか?一応、エウルレンの第二セクターの方々に指揮を任せようと思っていたのですが。」


「いや、私は帝都を動けないのです…皇帝がこの動きを始めてから、私には監視が付いています。」


「なるほど。ゾルダーさんへの応援は必要ないですか?」


「今の所、動かずにいる限りは大丈夫かと。」


「そうですか…それでは伯爵領の防衛に関しては、どのレベルで抵抗したら良いですかね?数日持久のレベルでしたら、現在の生産品のみで対抗は可能だとは思うのですが。ただ、本気で防戦をするのであれば、我々の武器が必要です。しかしル・シュテル伯爵領地内で日本の武器での対抗は後々非常に不味い事になりますので、現地の兵器レベルでの抵抗しか出来ません。その為、数日持久レベルなんですよね。」


要は伯爵領境界線域で、皇太子の第二軍侵攻を押さえる程の"現地エウグスト人レベル"の戦力は伯爵領には無いのだ。ニッポン軍の戦力を用いた場合はその限りではない。例の恐ろしい連射速度の銃や信じられない射程と精度の砲を出す事になり、しかもそれを伯爵領でエウグスト側自身が使用した場合、伯爵とニッポンとの関係が彼らが疑った通りとなってしまう。つまり相手側に大義名分を与える事となる。それはニッポンとしては避けたいだろう。


「そうですか…我々の銃と砲のレベルで拠点防御はそれほど持久出来そうも無いですね。拠点にどのくらいの人が居り備蓄がどの程度あるかにも依りますが…多分、簡単に迂回されて包囲無力化されるでしょう。境界線域での抵抗はせずに引き入れてから対応した方が宜しいかもしれません。」


「うーん…これ言っていいかな。今、ヘリコプターを搭載可能な船を何隻か用意してガルディシアに派遣する事も検討しています。恐らくはヘリ部隊だけで、第二軍を相手出来るでしょう。一応、伯爵の領内だけでの活動になりますが。それと、第1レイヤー部隊を、そのヘリコプターの移動と共にそちらに派遣します。第二、第三レイヤーはエウルレン防衛に回してください。マルソー港は、護衛艦あさひがマルソー港近海に居ますので、そのままマルソーに入ってもらいます。恐らくそれでマルソー港は大丈夫でしょう。」


「なるほど、貴国の例のアレですね。それは心強い。」


「それとゾルダーさんには、先程送ったメールに添付した内容をプリントアウトして皇帝陛下に提示して下さい。そして"日本政府は重大な懸念を強めている"とお伝えください。また、"日本国への資産に対し、何等かの危害が発生した場合は、当然の事乍ら我が国の資産防衛を積極的に行う用意がある"とも。

 それと、ル・シュテル伯爵の救出も同時に行いたいので、そちらの情報があれば教えて頂きたいのです。」


「分かりました、まずは帝都に来るニッポンの外務副大臣の対応ですね?それは何時頃に着くのでしょうか?」


「あれ、言ってませんでしたっけ?もうそろそろ帝都上空だと思います。皇帝は会って頂けますかね?」


「それでは直ぐにプリントアウトして皇帝の所に持っていかないと不味いですね、一旦切ります。また、後程。」


ゾルダーは回線を切った後に、メールをチェックし添付されているファイルを開封して印刷を開始した。添付されていたファイルは上空から写した写真の数々があった。この写真の精巧さたるや、どの程度の上空からかは分からないが、ガルディシア全土から始まり、兵が手に持った水筒を口にするところまでズームされた何枚もの段階の写真だった。そしてそれから読み取れる情報は、軍の規模、移動方向、装備等であった。これを既にこの段階で知っている連中相手に戦争なんぞやってはいけない。改めて、ゾルダーはニッポンの情報収集能力の片鱗を垣間見て戦慄した。


そしてプリントアウトしたファイルの束を抱えて、ゲルトベルグ城に走った。

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