表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第二章 ガルディシア発展編】
149/327

73.エウルレンの発展

皇太子ドラクスルは、エウルレンから戻ってきたロタール大尉の報告を受けていた。曰く、ル・シュテルに叛意は無いとの事だ。そしてエウルレンの現状はニッポンによる投資により信じられない発展を続けているという。だが、肝心のクレメンス准将は、未だエウルレンで調査を続けているという事だ。


「以上がエウルレンでの報告となります。」


「もう良い。下がれ。」


違う、俺がやって欲しかった事はそういう事ではない。苦々しい顔でロタールの報告を聞き終えた。可能であればエウルレンの利権をル・シュテルに難癖をつけて奪う位の成果を上げて然るべきではないか。クレメンスは一体何をしているのだ。…だが、待てよ。現状で皇帝陛下の肝いりでエウルレン発展を目指しているのなら、そこに俺が横やりを入れるのは不味いという判断か?皇帝が倒れれば何れ俺の物となろうに、慎重な奴だ。だが、そういう判断なら納得出来る。それが故の継続調査という事か…?ドラクスルはクレメンスの行動を好意的に解釈したが、それが誤りだった事を後に知った時には後の祭りだったのだが、ドラクスルのエウルレンへの野望は一旦引く事となった。


そして…

ガルディシア皇帝もエウルレンへのニッポンの偏重した投資に我慢がならなかった。何故、帝都を後回しにする?何故、帝都を優先しない?一体どうなっておるのか!現時点でニッポンからの帝都へのインフラに関する投資は殆ど存在しない。僅かにニッポン製ガルディシア向け商品サンプルの類が少量入ってくるだけで、それもル・シュテル領からだ。つまりは帝都ザムセンへの直接投資は今の所存在しない。そんな時に、皇太子ドラクスルのエウルレン査察の情報が帝都に齎され、皇帝は居ても立っても居られなくなった。だが、自分がすぐにエウルレンに行く事なぞ出来ない。自分の息子の後に査察など鼎の軽重が問われる。しかもル・シュテルの領土になんぞ以ての外だ。だが、担当のゾルダーは既にエウルレンに火力発電所の見学に行っているという。そして、例の亡命者達は、現在のガルディシアでの環境では銃を作るのは無理だときた。どいつもこいつも全く使えない。


更にはだ。ニッポンの存在により、エステリア王国への侵攻作戦が完全に停止してしまった。こちらが敵対しなければ何もしてこないが、仮に何等かの敵対や侵略を匂わせた行動をとった瞬間にはニッポン軍が警告に来るのだ。つまりガルディシアの国是たる拡張主義を行う事が出来ず、さりとて今まで余りにも戦争行動に傾いた政策を行い過ぎた結果として、周辺国との交易手段も絶えて久しい。つまり、戦争を封じられた場合、交易により活路を見出す事が出来ない。しかも周辺諸国の中でガルディシアのみが産出する資源は無い。逆に周辺国にのみ存在し、ガルディシアが入手出来ない資源がある時点で、ガルディシアは詰んでいる。その為、ガルディシアが活路を外に見出すのは当然であった。そう、ニッポンさえ居なければ。そして逆に対外的な輸出入が可能な国は、そのニッポンしか無いのだ。皇帝はこのジレンマに苦しんでいた。何れにせよ、このままル・シュテルの領地にのみニッポンがどんどん投資を続けるのは気に入らない。なんとかそれらの投資を全てガルディシア側に振り向ける事は出来ないだろうか…


そもそも例の亡命者達も"今の環境で"と言っていたのだ。

それはつまり、ニッポンの投資により銃器を作る機械が我が国に来たならば、おのずと作る事が可能となるに違いない。その為にも投資を我が地域に。それが駄目であれば、ある程度ル・シュテル領地を発展させた上で、強制的な接収を行うに吝かではない。…そうだ、それだ。豚は太らせてから喰うに限る。やつらニッポン人が我々への投資を出し渋るなら、ル・シュテルの領地を接収してしまえば良いのだ。それに文句を言うのなら、それは内政干渉とやらだろう。そうすると…暫くはル・シュテルは放置しておくか。或る程度、育った所で全て我が物にすればよいとするならば、暫く触らぬ事が肝要だ。

こうしてガルディシアの二大勢力は、双方が暫くエウルレン放置の方向に舵を切った。


そしてエウルレンでは、電力供給を開始に伴い食品検査施設も稼働を開始し、ガルディシア産の食料輸出が開始する事となった。この食品検査施設は、同建物内に検査技術習得の為の教育施設も作られ、ガルディシア人(エウグスト人)を雇用し、教育を始めた。だが、これは日本人との基礎学力の違いから、暫く日本人がその業務を代行し続けた。


ル・シュテル伯爵は自分の領地内のみに限定した運転免許を作る事を日本に依頼し、また道路交通法に関しては日本の法律をそのまま運用する事とした。そして自動車運転の為の教育施設として自動車教習所をエウルレンに誘致した。日本では運転適性年齢人口の減少と共に教習所の統合や廃止と非常に先行きが不透明な状況が、ここエウルレンでは一転して活況に沸いた。何せ全員免許を持っていないのだ。その為、免許取得を希望する者が教習所に押し寄せ、入校まで3か月待ちという状況になった。やはり、ここも基礎学力の違いから入学したエウグスト人が卒業までに随分と大幅に時間がかかった事から、伯爵はそもそも教育施設の設置を痛感し、日本と共に教育施設関連の設置に動く事となった。


そして瞬く間にエウルレンを中核とするル・シュテルの領地は、日本とエウグストを混ぜ合わせたような不思議な都市へと変貌した。但し、その他の地域と決定的に違う所がある。ル・シュテルの領内は全て電化され、車両専用道路と共に、他の道も舗装化され、一部に日本の公共交通機関が協力して公的運搬の路線が動き始めた。つまりバスが運行を開始し始めたのだ。また、石炭鉱山と火力発電所は直通の専用運搬列車が動き、潤沢な原料を火力発電所に供給し続けた。これらの噂を聞きつけたエウグストの人達は、エウルレンに遊びに来た際に、日本から輸入した物を販売する商店等で日本産の何かを買う事がステイタスになっていった。


そしてガルディシアの二大勢力は同時にエウルレンに対し、行動を開始した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ