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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第二章 ガルディシア発展編】
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71.クレメンスの質問

「未だ、クレメンスはエウグストに戻らないのか?」


「未だエウルレンをうろうろしている。ル・シュテル曰く"利権に食い込みたい"らしいが、本当の所はどうか分からん。」


「そうか…せっかく電気が通ったというのに工場を動かせんな。グリュンスゾート中隊が引き上げたと思ったら、一人だけ残りやがって。…技術指導のニッポン人はどうしてる?」


「伯爵のゴーサインが出ないので、ニッポン人用の宿泊所でずっと待機だ。」


「そうか…。クレメンスの野郎、早い所帰ればいいのに。」


クレメンスがエウルレンに泊まり始めて既に1週間が経過していた。そして今日は南、今日は東と毎日エウルレン周辺をあちこち見回っていた。その為、銃を密造するプレス工場の周辺に潜み、監視と警戒を続けていたエウグスト人によって構成された第二レイヤーチームは全く身動きが取れない状態となっていた。迂闊に手配書が回っている奴が出歩いてうっかりクレメンスと出会った場合、確実に捜査の手が伸びる。当のクレメンスは、何やら色々と調べた事をメモして回っている。その様子を第三レイヤーのチームがクレメンスを遠巻きに監視しているが、何をしているか分からない。そして、クレメンスは再びル・シュテルに会いに来た。


「どうも、また来ましたよ伯爵。」


「あら、困りましたね。私はこれから用事があるのですが…」


「何、それほど手間はかけません。2、3質問に答えて頂ければ。」


「そうですか。それなら少々お付き合いしましょう。なんです?」


「そうですね…まず、港の道路等に使われていた素材。それはここガルディシア産の物で全て賄えるのでしょうか?それともニッポンからの輸入が必要なのでしょうか?」


「それは私は答えられませんな。何故ならその材質を知らないからです。今度、ニッポンの技術者に聞いてみましょう。」


「そうですか…次に、あの輸送用の大型車は我々でも購入可能なのですか?また、あれの運転方法は教えて頂けるのでしょうか?」


「輸送用の大型…ああ、トラックですね?購入は出来ないと思いますよ。あれらは全てニッポンからの貸し出し品なのですよ。以前、私も購入の打診をしたのですが、ニッポン政府としては今回のトラック貸し出しは特別許可であり、恒久的な物ではないそうです。理由としては、まずガルディシアで車両に関する法整備が成されていない事、次に車両の運転技術を覚える教育が成されていない事、最後に国民一人一人に車両に関する教育が成されていない事、ここの三つを上げていましたね。つまり、何も知らない君達に運転させるのは怖い、という事ではないでしょうかね?」


「それはなかなかハードルが高いですな…その三つがここに揃うのは何時頃を考えておいでですか?」


「まぁ、一般的な国民が道路を利用するより先に、別の交通機関が稼働し始めると思いますよ。蒸気ではない電化された軌道車とか。それと今はトラックで石炭を運んでいますが、将来的にはその軌道車で運ぶ予定です。その後に、あの街道は自動車専用道路となります。その頃でしょうかね。車両の教育機関等とか法律は。ただ、私の領内ではそれで良いのですが、ガルディシア全土となると、何時になる事やら。」


「ほう、その位になりそうと。それでは最後の質問なのですが…どうでしょう、あれから考えて頂けたでしょうかね?私もこの事業計画に一枚噛みたい。正確に言うと、ニッポンと何等かの形で携わりたい。伯爵、どうかニッポンとの件、私も加えて欲しい。」


クレメンスが数日開けて自分の所に来たのは、考える猶予を与えたという意味か?だが、第二レイヤーの面々から齎された彼の情報によって誠に油断ならない人物像が浮かび上がっている。そもそも、クレメンスは元々陸軍に居たのだが、対エウグスト戦で中央戦線に位置し、いち早くル・シュテル降伏の情報を手に入れた事で敵への側面攻撃を提唱し、結果としてエウグスト左翼と中央軍の崩壊を導引した事で皇太子の目に留まり、そこからダルボート戦前に皇太子の軍に引き抜かれ、情報参謀として参戦した。常に情報を先取りし、その情報が齎す意味や結果を分析し、皇太子の軍は勝利を重ね、ドラクスルの勝利の裏にはクレメンスありという評価となったのだ。つまり、今得ている情報は、彼が自分の主を変えても良い程のレベルだ、ということを意味している。重ねて言うなら、ル・シュテルに対してガルディシアに未来は無いとも言外に語ってしまっている。だからこそル・シュテルに喰い付いて、なんとかこの話に入り込みたい。


「その件なんですがね、准将。やはり、あれだけの話を聞かされたら、私の立場では皇帝陛下に報告せざるを得ないんですよね。つい昨日に、皇帝直属の情報局に所属するゾルダーという方がお見えになってますので、あとで3人で会いませんかね?ああ、あなたの事は既にゾルダーさんには話してありますので。」


…え?


それは…まさか情報局だと?皇帝直属の機関だ。しかもあそこの局長レオポルドは、エウグスト人の反乱組織を、様々な秘密調査や潜入捜査を行った挙句に2か月程の掃討作戦で全滅に追い込んだやり手だ。そこのゾルダーと言えば…海軍から転籍して直ぐにNo.2に収まって、ずっとニッポンを担当している奴だ。もしかして、もしかすると、これは相当やばい橋になったか?しかももう、そのゾルダーに話しているという事は、今この場でル・シュテルを殺しても、俺が疑われるのは必然だ。これは…まずい…


「あれ、どうしたんですか、青い顔をして。

 大丈夫、ゾルダーさんはきっと理解してくれますよ。

 事前の情報はほとんどお話しておりますので。」


…これは、もはや詰んだか…?


クレメンスは、自分がとても焦っていた事を今更ながらに自覚した。これは逸ってしまってとんだドジを踏んだ。ここからどうやって挽回する?あの会話を持ち出されたら、一般論で逃げ切れるか。ともあれ、どんな奴かも分からんのに対策を立てようも無い。ここは腹を括って会うしか無いだろうな。


「伯爵、私も楽しみにしている。何時頃になりますか?」


「貴殿の都合さえ宜しければ今夜にでも。」


今夜か…嫌な事は速い方が良いだろう。

クレメンスは了承した。

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