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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第二章 ガルディシア発展編】
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65.ル・シュテル領の査察-③

「自分はクレメンス准将である。これなるは第2軍グリュンスゾート大隊所属の者達である。我々は皇太子殿下の命により、ここル・シュテル領の査察に参ったものである。ル・シュテル伯爵は居られるか?」


「はい、伯爵様よりお通しするように申し付かっております。但し、全員はこちらの城の中に入りきれません。20名程度どうぞこちらへ。」



ル・シュテル伯爵の居城に着いた一同は、守衛によって人数を絞られた。20名程が武装解除もせずに守衛の案内で城門内に入った。もしも守衛から武装解除を求められたら拒否する積もりだったクレメンスは、何も言われずに城門内に案内された故に存外に思ったが、そのまま守衛の後に続いた。続いて城の扉に着くと、守衛から執事に案内が代わり、そのまま城内に案内された。そして、城内の内は異様な有様だった。


「こ、これは何だ!??」


一歩城内に踏み出すと、ガルディシア語による「歓迎!お疲れ様です!」のネオンが眩いばかりに輝いていた。


「こちらは、伯爵のご趣味でありまして。何やらニッポンとやらの国から仕入れた様々な物を並べているようなのですね。あの光輝く文字の類はネオンと申しまして、電気を使っている様です。それと、この部屋でキラキラ光っているのはLED電球による電飾だとか。年寄りには何が何だかさっぱり分りかねますが…」


「そ、そうなのか。この光は害は無いのだな?」


「はい。全く問題が御座いません。

 それと。伯爵様は只今、映画鑑賞をしておりますので…今居ります部屋は暗室となっております。足元にお気をつけ下さい。」


伯爵が映画鑑賞とやらをしている部屋の前まで案内されたクレメンスは、重厚な扉を前に執事がドアをノックし、叫んだ。」


「伯爵様、失礼致します。皇太子殿下の命によりル・シュテル領査察に参りました、クレメンス准将以下グリュンスゾート隊の皆さまがお越し下さいました。」


そう叫んで、ドアを開けた。ドアを開けた瞬間に、部屋の中から爆発音が激しく響き、銃撃の音が響き渡った。部屋の中は、爆発や銃撃の光がチカチカしている。


「なっ、こ、この音は何だ!!!敵襲か!!」


全員直ぐに腰を低くしつつ、室内に展開した。

そして、クレメンスが叫ぶ。


「ル・シュテル!!どこに居る!!これは何の攻撃だ!!」


「あー、これは気が付きませんで。どうも、ル・シュテルです。ニッポンから映画のブルーレイを借りてましてね。それを見ていたんですよ。今、明かりを付けますね。」


ル・シュテルはBDの再生を停止し、室内の明かりを点けた。


「いやー、ニッポンの方からのお勧めで。"ベンガジの秘密の兵士"って映画なんですがね。ニッポンがこちらに来る前の世界の戦闘のお話なんですがね。中々面白いですよ。ご覧になります?」


「こ、これは何なのだ。どういう手妻なのだ?一体何が起きていた?」


「そうか。写真はご存知ですよね?」


「ああ、勿論だ。我が国が開発した最新の現像装置によって写される物だ。あれは軍機であるのに、何故に伯爵が知っている?」


「ニッポンの親切な方から一式を譲って頂いたんですよ。その写真って白黒ですよね?ニッポンの技術は、総天然色でその写真を連続して撮影し、それを連続して再生可能な装置を作っているんですよ。これはその再生装置です。」


「な、なんだと!?ま、まさか…」


「そのまさかの技術を只今お見せしましょう。一旦部屋を暗くしますね。そこに席が並んでおいてあります。部屋の奥に白い布がかかっているのが見えるかと思います。そこに正対するように座って下さい。はい、皆さんお座りになりましたね。では上映します。」


伯爵は止めていたシーンから再開した。ちょうどナイトビジョンで暗闇に迫りくる敵兵のシーンだ。伯爵は、分かりやすく日本軍の装備と実力を彼らガルディシアの兵に見せつけ、どう戦っても敵わない事を映像で見せつけるつもりだった。映画のシーンはナイトビジョンの緑の世界で敵兵を引き付け、そして連射可能な銃で建物から狙撃してゆく。


伯爵自慢の7.1chは、この伯爵のホームシアタールームのあちこちに7個のスピーカーが接続されている。城という立地からどんな爆音を出しても、文句を言ってくる隣近所は居ない。そのスピーカーから飛び出る音と、120インチのスクリーン一杯に映し出される映像にクレメンスは圧倒されていた。その画面はまるで自分の目前で起きているかのようだ。後ろからも前からも音がする。伯爵は振り返ると、椅子に座ったクレメンス一行は目を真ん丸にして映像を見ていた。おもむろに伯爵は停止ボタンを押し、部屋の明かりを点けた。


「さて、これをニッポンでは映画と申します。言うなれば大がかりな芝居の娯楽作品ですね。どうですか、面白いでしょう?」


「あ、あれは芝居なのか?現実に行われた事ではないのか??」


「今流した映画は、過去日本の居た世界で起きた出来事を再現した物らしいですよ。」


「すると…現実を元にした芝居と言う事か…聞きたい事がある、伯爵!ニッポンとやらは、あの連射する銃を持っているのか?あの暗闇で見える眼鏡も持っているのか??どうなんだ!?」


「ははぁ、そこですか。せっかくの自慢のホームシアターなんですから、そっちを聞いて欲しかったですね。ええ、確かにあの類の銃をニッポンの軍人は持ってましたよ。形はちょっと違いましたが性能は変わらないみたいですね。眼鏡の方はどうなのかな、見た事は無いですが、無い事は無いでしょう。」


クレメンスは恐ろしさに震え上がっていた。彼も陸軍、そして情報局を渡り歩いている。そして彼の情報分析は評価が高い。高いが故に、彼我の戦力差が理解出来る。自分達の武器が全く役に立たない。あの発射速度と命中率。スコープの倍率とクリアなレンズ。遠距離通話可能と思われる通信装置。現実を元にしたお芝居だと?その現実がありえない程の能力と技術格差を物語っているぞ。どこまで本当の事なんだ…


「ニッポンから映画を借りるとですね、彼らの取り巻いていた環境や技術が見えてきます。とはいっても、我々がそれを理解して作る事は今の段階では出来ませんがね。でも、近づく事は可能だと思うんですよ。彼らに学び、そして吸収し、それを作る意思さえあれば。そんな訳で、私の領地は関税や租税に関しては一任されておりますので、ニッポンと交渉の上で色々な物を輸入しています。かなり便宜は図ってもらってます。そうして、ここマルソーから、そしてエウルレンへ。引いてはバラディア大陸全土へ、この学んだ事を広げ、より良い生活を求めていきたいと思っているんですよ、クレメンス准将。」


「いや、わ、我々も噂に聞くニッポンの技術をふんだんに取り入れつつあるル・シュテル伯爵領に大変興味がある。だが…だが、受け入れる準備が未だ出来てはいないようだ。今日は出直す。また、明日伺うが、宜しいか?」


「ええどうぞ。ニッポンのお茶とお菓子を用意してますね。」


こうしてル・シュテルのホームシアターに入った20名から、その夜の内にグリュンスゾート隊全体にニッポンの恐ろしい武器と、何故か映画というものの怖さが広まっていった。

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