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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第二章 ガルディシア発展編】
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62.エウルレンの宿泊事情

クレメンス以下グリュンスゾート中隊は総勢で100名を超える。それ程の人数が宿泊出来る宿なぞ、エウルレンの街には無かった筈だ。だが、この街の北側周辺部に着いただけで既に町は発展していた。それはエウルレン西側が主な開発地域となっていた事から、そこから近い部分が再開発されている状況の為、北側と南側が発展している地域となっていた。そうとは知らぬクレメンスら一行は、賑やかな街道沿いを見て、野営の予定を変更して宿を取る事とした。ただ、人数が人数なので分散して宿泊する為に、最初に着いた宿の女将にどれほど宿があるのかを確認した。


「邪魔するぞ、女将。聞きたい事がある。」


「これは軍人さん、お疲れ様でございます。聞きたい事とは、何でございましょう?」


「暫く来ないうちに随分とエウルレンも発展したものだ。前とは全然風景が違うな。」


「ええ。そりゃもう伯爵様が何やら再開発だのと仰って見慣れぬ機械と人達で道路やら建物やらをどんどん建ててらっしゃるのですよ。新しく建てる住宅や道路の為にどんどん人が集まり、新しく建てた住宅に、どんどん人が入って、物売りもどんどん集まってきて、ここ数か月でこんな賑わいになったんですよ。」


宿屋の女将は上機嫌でクレメンスに語った。それはそうだ。誰だって景気が良い方が気分も懐も温かい。ご多分に漏れず、この宿も好景気に沸いている様子だ。


「ほう、再開発と。それでこれ程の賑わいなのか。ところで、この宿は何人泊まれる?」


「私共の部屋は7室で一部屋4名様までなので、最大28名程が宿泊可能となっております。」


やはり田舎の宿だけに、そんなモノか。であるならば同程度の宿を3つ4つ押さえておけば大丈夫だな…とクレメンスは思っていたのだが顔に出ていたのか、女将が畳みかけるように言った。


「軍人さん、もしかして大人数でしょうかね?それならば、ここよりもエウルレン中央に大きなホテルがございますよ。何でもニッポンの会社が建てたのだとか。そこなら大人数でもお泊り頂けると思いますよ。」

「大人数?我々は100人以上いるのだが。」


「ああ、それなら大丈夫ですよ。この通りを真っすぐ南に進むと中央の交差点がありますので、そこの角地に立つ大きな建物がそれです。行ってみて下さいな。」


いや、そんな馬鹿な。帝都であっても100名を超える人数を宿泊可能な建物なんぞ無いぞ。いや、そもそも帝都ザムセンは物見遊山で行くような場所では無いので、宿そのものがそれ程無いのだが…


「いや、ありがとう。行ってみる。」


ぞろぞろとクレメンスの集団は街道を南に進むと、果たして大きな5階建ての建物が見えてきた。5階建てだと!?こんな平民の街に5階建ての建物があり、しかもそれはホテルだと?なんだそれは。行ってみるしかあるまい…と早速クレメンスはホテルに入ろうとすると、直ぐにホテルの従業員が駆け付け、ドアを自ら開けた挙句に"いらっしゃいませ"と声をかけてきた。中に入ると非常に広々としたフロアの奥に受付があり、受付まで進むと、受付の女に声を掛けた。


「宿を頼みたいのだが、人数が少々多い。

 1週間程度なのだが宿泊可能だろうか?」


「はい、何名様でしょうか?」


「100名程。正確には、108名だ。」


何やら台帳のような物を確認し、受付の女は顔を上げた。


「はい、108名様、1週間の宿泊は大丈夫ですね。

 素泊まりの場合は1泊150マーク、もしくは400フィエルとなります。お食事付きとなりますと、先程の金額にそれぞれ15マーク、もしくは39.9フィエルの上乗せになります。お食事は如何なさいますか?」


「あ、ああ…しょ、食事付きで。」


クレメンスは軽く驚いていた。100名の宿泊が大丈夫なのか?しかも150マークだと?安い…おまけにエステリア王国の金でも宿泊が可能なのか。一体そんな需要があるのか??ここは一体何人宿泊可能なんだ…が、クレメンスは更に驚く事になる。


「お客様、馬でお越しですか?それとも馬車でお越しですか?馬でしたら、当ホテルの裏手左に馬止めと厩舎がありますので、そちらの方に御止め下さい。その際は係の物に番号札が渡されますので、お出かけの際には番号札を係りの者にお渡し下さし。馬車は右隣に駐馬車場がありますので、同じく係りの者に番号札を貰って下さい。」


「なんと!馬を泊められるだと?

 100頭も居るが大丈夫なのか!?」


「はい、大丈夫です。飼葉は有料となっておりますが、水は無料です。係りの者に申し付ければ飼葉を指定の時間に厩舎にお届けしますので、ご要望の際には係りの者に申し付け下さい。それでは、お部屋の方にご案内いたします。」


クレメンスは面食らいつつ部屋まで案内された。今はまだ自分と少数の部下だけがここに居るだけだが、恐らく全員が面食らう事だろう。一体どうなってんだ…


「こちらがお部屋になります。お客様は団体様なので、このフロアと上のフロアを貸し切りに致しますね。こちらがお部屋の鍵になります。必ずお持ち下さい。このドアはオートロックとなっておりますので、ドアが閉まると自動で鍵がかかります。それではお部屋の中のご案内を致します。」


「オートロック?自動??勝手に閉まるのか…いや、お部屋の紹介などいらんぞ。どうせベッドしか無いだろうが。」


「初めてご宿泊されるお客様は皆様そう仰います。このホテルは他のホテルと多少違いますので、ご説明させて下さい。」


怪訝な顔をしているクレメンスを後目に、ホテルの従業員は説明を続けた。


「こちら、部屋に入りまして右手にトイレとバスが御座います。トイレはこのレバーを引くと自動的に水が流れる仕組みとなっております。トイレには備え付けのペーパーが御座いますので、使用後はこちらのペーパーをご使用下さい。バスは現在日中の間は、このレバーを引くとお湯が出ます。それ以外の時間帯は水しか出ませんのでご注意下さい。将来的には24時間のお湯を供給する予定ですが、現在はまだ時間制限が御座います。」


へ、部屋一つに風呂とトイレだと??しかもお湯も自動で出る??試しにレバーを引いてみると、勢いよく水が出てきた。真ん中に別のレバーがあったので、これも引いてみようとした瞬間に、従業員に止められた。


「こちらのレバーはバスとシャワーの切り替えレバーとなります。このホースの先にある所から水が勢いよく出ます。バスに浸かるお時間が無い時には、こちらもご利用頂けると幸いです。」


と言いつつ従業員はレバーを引くと、シャワーという物から勢いよく水が出てきた。しかも、赤いレバーも引いていたからなのか、ちょうど良い温度の湯が出てきている。このホテルは屋上に大規模な太陽光発電システムを入れ、それなりの電力は自前で賄える上に、貯水タンクを陽光で加熱し、最小限のエネルギーでお湯を各部屋に送り来んでいる。勿論従業員達は詳しい事は分からず、そういう物だと理解している。だが、クレメンスはどういう仕組みでこうなっているのかさっぱり分からない。そのまま部屋の奥まで案内されると綺麗なセミダブルのベッドが二つ置いてある。このベッドも見た事が無い程上質の物だ。


「この広い部屋に二人か。少な過ぎないか?

 皆の部屋の数は大丈夫か?」


「108名の皆様、全員この部屋と同じサイズで54部屋ご用意してございます。あと残りの皆さまは何時頃にいらっしゃいますでしょうか?」


「いや…今、呼びに行かせる。」


…この部屋と同サイズで54部屋だと?

この発展は異常だ。絶対何か裏があるに違いない。このホテル一つでさえ、帝都ザムセンでもエウグスト市でも見た事が無いレベルだ。しかも、部屋の設備が異常に凄い。レバーを引くとお湯が出る?各部屋にトイレがある?しかもペーパーの品質が凄い。あれほど薄く紙を加工出来るだと?これは全部ニッポンの仕業なのか?一体全体どうなってんだ…いや、まず残りの連中をこのホテルに入れよう。今回の査察に関しては殿下より100万マークの軍資金を頂いているから金に関しては大丈夫だが…報告する事が多過ぎる予感がするぞ…といいつつベッドに横たわると、今まで寝た事も無い寝心地である事が判明した。ベッドもかよ…


クレメンスは、部下に命じて街道に残してきたグリュンスゾート中隊の全員をホテルに呼んだ。


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