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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第二章 ガルディシア発展編】
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59.日本残置部隊の最後

グルトベルグ城の一室には異国人がほぼ軟禁状態で滞在していた。日本から密出国でガルディシアに入った中国・朝鮮人達である。彼らは、日本に居る仲間と連絡を取る手段を得る為に、ゾルダーの通信所を襲ったが、皇帝にも蔑ろにされた情報局員が一人だけ詰めている、という話とは裏腹に周囲には特殊部隊と思しき者達によってあっという間に制圧され無力化された挙句に朝まで転がされて、ガルディシア人に発見されるという大失態を犯したのだった。自らの情報収集不足を棚に上げ、"情報局員が一人だけ"という情報を齎された1点を以て、情報局局長のレオポルドを非難し続けていたが、それに対する答えは軟禁だった。曰く、『お前等が今ここで生きていけるのは、銃の製造情報を持っているからだ。その利用価値があるうちに1丁でもガルディシア産の銃を作ってみたらどうだ?』と平坦な言い方で一室に押し込められた。


連絡方法を確保せねば、この未開の土地では生産が出来ない。なんなら完成品だけでも日本から密輸出来ないか?プレス機械だけでも、それらしい物は作れる。だが、その機械も無い。もっと言うなら電気が無い。ここまで何も無い所だとは思わなかった。おまけに通信所を襲ったのは失敗だった。考えてみたら、国に唯一の通信施設なのだ。警備が無い訳がない。これなら正攻法で通信施設を貸してくれと言った方がまだ良かったかもしれないが、あんな事があればもう貸しては貰えないだろう。この密出国は片道切符になるかもしれないな…


潜入した中国人を送り出した日本に居る中国人チームは、既に公安によって全員が特定され監視状態となっていた。所謂固定を含む電話回線も、ネットワーク通信やメール内容も全てキャリア会社やプロバイダが協力し筒抜けとなっていたのだ。もし仮にガルディシアから通信施設を奪取して、日本に連絡したが最後、日本に残ったチームは全滅していた筈だ。だが、通信手段が無い事が彼らを生き永らえていた。それが故に、自分達日本のチームはある程度監視はされつつも、未だ行動の自由がある物と錯覚していた。


つまりガルディシアに密入国した中国人達も日本に残った中国人達も、この時点では等しく詰んでいたのである。だが、密入国したチームのリーダー(暗剣1号と名乗っていた)は、ガルディシアに対する日本の資本投下計画を聞いた事によって希望が出てきたのである。それは、ガルディシアに設置する石炭火力発電所1号建設計画である。この情報をレオポルドから得た暗剣1号は、やっきになって日本に残るチームリーダー(黄河3号と名乗っていた)との連絡手段の確保に動いた。それはゾルダーから各種情報を得たグラーフェンが、ゾルダーへの協力を約束してから3日目の事である。


「すると発電施設の建設よりも道路の整備が先、という事ですね?言われてみれば、確かに道路を整備しないと、建設資材も運べませんからね。それと火力発電所建設用地の視察に関しては、既に陛下の許可は得ておりますので、日にちと人数さえ確定して頂ければ。」


「いえ、ゾルダーさん。火力発電所の資材に関しては直接帝都ザムセンの港に届けたいのですが、それは可能ですかね?これが出来たなら、相当早く帝都を電化出来ますし、将来的には鉄道を入れる事も可能ですよ。こちらの鉄道各社が、ガルディシアへの鉄道導入に相当売り込んで来てまして。」


「鉄道ですか。あの凄い速度で大量の人を乗せて走る奴ですよね。それ自体は陛下もご興味を持たれるかとは思いますが、帝都ザムセンに直接資材を運んで入港は少々難しいか、と。確認してみますが。」


「そこが決まるか決まらないかで、こちらの計算だと工期が4か月程違います。もし4か月早く出来たなら、ゾルダーさん。また偉くなっちゃいますよねぇ。」


「ははは、タカダさん、いや冗談ばっかり、」


その時、通信所のドアが行き成り凄い音と共に開いた。開くと共に、何人かがぞろぞろ通信施設内に雪崩込んできた。中には何人か見た顔が居る。何時ぞやの中国人達か…


「情報局のゾルダーだな!通信施設を1時間程貸してほしい!」


「君達は何者だ。何故、押し入るような真似をした。正規の手順に従えば、何時でもこの施設は利用可能であるのに、君達は!」


最後まで言い終える前に、インカムから声がした。


(ゾルダーさん、ゾルダーさん。こちらで通信傍受するので明け渡して大丈夫ですよ。命あっての物種です。相手を刺激せずに、上手い事逃げて下さい。例の応援を呼びますか?)


「はっ、いや必要無い。言う必要も無いだろう。

 いいだろう、勝手に使いたまえ!」


(必要無いですか、了解です。死なないで下さいね。通信終わり。)


ゾルダーはそのまま通信設備を中国人達に引き渡した。

中国人達は念願の日本との通信が叶った事で舞い上がり、ゾルダーへの関心を失った。全員が通信機に群がり、あるURLを叩いてパスワード付き画面が表示され、そこにログインする事で黄河3号との連絡が遂に回復したのだった。夢中になっている彼らを後目に、ゾルダーは通信室を脱出した。


脱出した瞬間に、グラーフェン中佐の手の者と思われる者が数人出てきて、驚いた顔をしてこちらを見ていた。


「あれ、ゾルダー少将殿、大丈夫だったのですか?」


「ああ、彼らは通信機だけが使いたかったらしく、私への興味は直ぐに失ったようなのでそっと抜けてきたよ。君達は、グラーフェンが派遣した者達か?」


「そうです、お互い顔を知らない方が良いかと思って挨拶もせず申し訳ありません。海軍所属のハンマーシュタイン大尉以下3名です。大丈夫なら、撤収しますが…」


「ああ、そうしてくれたまえ。多分今日はもう何も無いだろうから。」


「了解であります、失礼します!」


彼らはゾルダーに敬礼して去っていった。ゾルダーは、今までのはやはり中国人からの監視だったのかな、と思いつつ帰路についた。


--

「はい、公安部外事第三課。」


「内調の高田です。大岩さん、居ます?」


「居ります、少しお待ちください。

 課長ー、内調の高田さんですよ。」


「ご無沙汰しております、高田さん、どうしました?」


「久しぶりですねぇ。

 ええと、例の黄河3号…でしたっけ?

 未だ監視継続してます?あ、してる。

 ええと、ガルディシアから通信入ってます。

 そう黄河3号宛。ええ、IPアドレスは…」


そして…

暗剣1号は黄河3号の日本での活動に終止符を打った

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