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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第二章 ガルディシア発展編】
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57.ル・シュテルの居城で

通行証を入手し、既に話は終わった物と思っていたゾルダーは皇帝に不意打ちを受けた。


「それとつかぬ事を聞くが…ゾルダーよ。

 昨晩何か変わった事は無かったか?」


ゾルダーは昨晩の中国人による夜襲の件を思い出した。もう、あの話が皇帝に伝わっているのか?早すぎる…いや、あの中国人とやらの対応は情報局長のレオポルド預かりだ。だとすると、レオポルド経由で伝わったか。それならば納得だ。この話の流れなら何とでも言い訳可能だろう。


「昨晩ですか?ええ、何やら煩い動物が数匹襲ってきたのですが、返り討ちにしましたよ。ただ、むやみやたらと殺生するのも、と思いまして倒したまま放置していたのですが。何かありましたでしょうか?」


「煩い動物、な。ふははははっ、いや下がって良し。」


皇帝はレオポルドからの報告に関して、"あの連中はともかく喚いて煩い"とも報告に受けていたのだ。そこにゾルダーさえもが同様の表現をした事に、あの中国人達が皇帝の自分に対して売り込みをしてきた日の事を思い出していた。そして、その感想は"煩い"の一言だった。人が口から泡を吹きながら、何かを説明する姿など、今まで一度も経験した事が無かったからだ。あれが特殊なのだろうか。それともあの民族は皆そのように振る舞うのだろうか。後者であれば、国としての付き合いは難しいだろう。ニッポンが国内にあの連中を放置しているのも、相手にするだけ馬鹿らしいという事か。だが、あの手の輩は時に恐ろしく有能な虐殺者となり得るが故に面倒にならないうちに全員国外追放か、もしくは何か別の手段を実行すれば良いのに、と思う皇帝であった。


ゾルダーがグルトベルグ城の帰りに情報局に顔を出すと、当然にレオポルドが待っていた。レオポルドはゾルダーを見るなり、こう言った。


「ゾルダー少将。海軍出身は伊達では無いですな。

 私は貴殿を少し見直しましたよ。」


「おはようございます、レオポルド局長。

 見直す?はて、何をでしょう?」


「いやいや、あなた一人では無いでしょう。

 何時の間にそんな部隊を作っていたのですか?」


そんな部隊と来たか。

恐らく状況証拠だけで鎌をかけてるに違いない。

だが、情報局長の立場としては、自分が預かる組織内に自分の知らない部隊が居るのは良しとしないのは納得だ。当然の探りだろうし、ここで誤魔化すのも後々まで面倒な事になりそうだ。


「その海軍の伝手ですね。退役した連中ですよ。」


「ほほぅ、そうなんですか。なかなか優秀だと思いますよ。今度私にも貸して下さい。」


「局長は自前の使ったら良いじゃないですか。

 色々後で奢ったりして高くつくんですよ、連中。」


そうだ、とても高くつく。

俺の弱みを握り、ニッポン軍の手先となっている亡命エウグスト人達だ。しかも駆逐艦マルモラから全員引き上げたなら20人以上がニッポン軍と同様の武装を装備している上に、何か特殊な訓練までしていた様だった。何せ、無音で包囲した連中を無力化しているのだ。奴らをガルディシアの外の連中に口外した途端に、どこからともなくやってきて俺を殺し、情報の漏れた先も殺すだろう。思わず目出し帽を外した瞬間のエンメルス曹長の殺気の籠った目を思い出して身震いした。


「お。風邪ですか?

 今日はもう帰った方がよろしいのでは?

 昨晩も相当遅かったようですし。」


「お言葉に甘えて本日は先に上がらせてもらいますね。

 それでは失礼します、レオポルド局長。」


レオポルドの、勘違いか何なのかは良く分からないが帰れと言われたのは良い提案だった。実の所、本日の皇帝の反応と領域内自由通行許可証の件は、すぐにタナカに伝えたい。通信機を使おうにも、周囲に人が居るならば、余計な事をうっかり話してしまった場合のフォローも面倒臭い。が、故に自宅に帰って通信したいゾルダーだった。そしてゾルダーは自宅に帰り、通信機を取り出してタカダを呼び出した。


そしてレオポルドは、ゾルダーのその謎の部隊を自前の部隊を使って確かめようとしていたのだったが、無線機を使われてしまうと、直接音声を聞き取らない限り内容が分からない。しかもレオポルドの部隊にとって不運な事に、ゾルダーは襲われた日の夜に通信機用の小型インカムを高田から渡されていた為、この日は全く収穫が無かった。


結局の所、タカダに石炭火力発電所の立地に関して確認した所、詳細な石炭の産出場所と、道路を敷設するルート、送電線の配置や変電施設の配置、等々諸々の事を決めなければ、簡単にここだ、とはならない事が判明した。その為、各種技術スタッフをガルディシアに派遣して調査を行う必要があるというのだ。その為の通行許可証を発行する許可は得たが、その派遣スタッフが何人になるのかは分からない。その為、タナカの方で、その辺りの人数を取りまとめて作業スケジュールが決まり次第、再度連絡する事となった。


発電施設が出来、道路が整備され、輸出が可能となれば…一先ずは、今この危機に瀕したガルディシアも一息つける筈だ。気になるのは揚陸される場所が現状で全てマルソー港という事だ。皇帝もそこは不服に思っていたが、なんとかザムセンに直接送られる事は出来ないだろうか…いや、無理だな。帝都に直接他国の船が入るのは皇帝が許可を出さないだろう。やはりマルソーしかないのか…


その頃、マルソーを預かるル・シュテルの居城では…


「ご無沙汰しております、伯爵。」


「おお、久しぶりだね、タカダさん。今日は何用かな?また、何かニッポン面白い物を持ってきたのかな?そういえば面白い物と言えば!タカダさんの友達から貰ったブルーレイ、全部見てしまったのだが。何か新しいコンテンツは無いのかな?」


「はははは、すっかりニッポンの文化に慣れてますねぇ。近々大規模な船団を組んでこちらに来る予定なので、その時までに色々ご用意しておきますよ。何かご希望のジャンルとかありますかね?」

 

「そうだね…。あの映画は面白かったな。プライベートライアン。それとブラックホークダウンかな。召使たちは、海岸に上陸するシーンをたまたま見てしまい、裏で吐いていた様だよ。はっはっは。」


「戦争映画ですか。また趣味が悪いですねぇ。ただ、スペクタクルなのは同意しますけどね、そこは正しいですよ。」


「何を言う。貴国の居た世界の戦いの様なのだろう?大変勉強になるよ。あのような戦い方をする軍とは、我々が相手にならないのは必然だ。あ、そうそう。海戦物の映画と、空を飛ぶ奴が主役の映画はあるのかね?」


「友人に伝えて用意させましょう。友人もその手の趣味の悪い物を山ほど持っていますので。あ、そうそう忘れる所でした。これ、如何ですか?面白い物だと思いますよ。今は動きません。ですが、油を入れると動きます。一人乗りで時速60km位出ますよ。」


タカダは以前に通信設備設置の際に、こっそりと色々な装備やら何やらを隠しておいた。その中の一つにオフロードバイクがあった。隠密活動用に排気量の小さい4ストロークエンジンに特性の消音マフラーを付けている。ただ、ゾルダーの居る通信所からル・シュテルの所まで200kmの移動は流石に厳しい。そこでザムセンから一番近い隠し場所に行き、そこに隠してあるバイクを取り出して夜中のうちにル・シュテル領まで移動したのだった。そこでル・シュテルの城近くで朝まで待っての訪問だった。周囲の人間はル・シュテルの城に入るニッポン人が、また奇天烈な物を持ち込んできた、としか見られない。


「ほう、油ですか…それはここらで手に入りますか?」


「今、その交渉をしてましてですねぇ。

 うまくいけば、そのバイク…ああ、それバイクって言うんですよね。そのバイクは乗り放題になりますよ。大体近い乗り物は…馬ですかねぇ。とても楽しい乗り物なので、入手可能になれば、真っ先に伯に連絡しますよ。」


「そうしてもらえるとありがたい。馬と聞いて、興味が出てきたよ。ところで本題は別なんだろう?」


「伯爵、流石鋭いですねぇ。

 先程までガルディシアの交渉担当と打ち合わせしていたのですが、近々ザムセンに発電施設を作る事になったんですよね。そして、伯爵の領地内のニッポンの建設予定地の中に電力が通り次第、食品貯蔵倉庫を作ります。ここは凄いですよ。マイナス50度以下まで凍らす事が可能な施設ですからね。」


「ふーん、それは以前聞いた話ではないか?施設を作る事自体は話題に上っていたし、私も設置に了承したと思うのだが…」


「記憶力も宜しいのは素晴らしい事ですよ。そう、以前お話した事が近々実現します。そして、その施設はどこに繋がるかというと…ガルディシア全域に道路を整備したく思っています。手始めはザムセンとここマルソー港、その間の道路の経路を伯爵に選んで決めて頂きたい。あらゆる可能性を考慮した上で。」


「ははぁ、あらゆる可能性ね。それは楽しみな言葉だ。」


ル・シュテルは真顔になった。

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