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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第二章 ガルディシア発展編】
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56.石炭火力発電所を作ろう

通信所への中国人襲撃の後に、難を逃れたゾルダーは通信所を後にし、高田やエンメルス達と別れ自宅に戻った。その襲撃後に起きた衝撃的な事実について考えていた。自分が葬ったと思っていた駆逐艦の乗員が全員日本に救助され、しかもガルディシアから日本に亡命扱いとなり、あろうことか自衛隊所属となっていた事。あの時、エンメルス曹長が自らの正体を明かしたのは、俺を殺す為だったのではないか?だが、タカダの手前、殺さずに済ませていた、というのは考えすぎだろうか。だが、どこにも助けを求める事が出来ない。何故ならば、帝国に助けを求めれば、帝国の資産たる最新鋭の駆逐艦を乗員もろとも沈めようとした事が露見する。いや、この情報の価値を考え、尚且つ二等国民たるエウグスト人共が乗艦する船が故に、乗員抹殺は罪に問われないだろうが、帝国の資産を勝手に沈めた事を責められるだろう。かといって、ニッポンに助けを求めれば、先にニッポンに亡命したエンメルス曹長が、どんな敵対行為をとるか分かったものではない。しかもだ。奴ら俺の知らないエウグスト人組織を構築していた。それは反ガルディシア組織であろう事は間違いないだろう。タカダは、いやニッポンは何を意図しているのか…


それはともかくとして、タカダから昨晩に聞いた今後のガルディシアへの設備投資関連の新たな情報を得た事で、当座の皇帝からの責めは若干軽くなるのではないか?とも思っていた。


日本はガルディシアに対し、政府開発援助による石炭火力発電所の設置を考え、許可さえ得られれば直ぐにでもガルディシア首都にほど近い石炭産出地域に設置したい意向である事、その石炭火力発電所で発電した電気をもって、大規模貯蔵施設をエウグスト領域、単刀直入に言うとル・シュテル伯爵領内に設置する、との計画を聞いた。大規模貯蔵施設は冷蔵・冷凍機械を導入するらしいのだが、これが相当に電気を喰うらしい。また、それらを繋ぐ幹線道路の整備も併せて行いたいとの事だ。幹線道路は、輸送以外にも都市間交通の利便性が大幅に高まる事で、軍事的な側面もある事で多少は皇帝の機嫌も良くなるだろう。そして幹線道路の整備と相まって、電力線を発電所からバラディア大陸の幾らかに送電したいとの事なので、今通信所で使用している機械と同様のものが、電気が送られる各地でも使用可能となるだろう。これらの報告を携えゾルダーは皇帝陛下の居るグルトベルグ城に登城した。


「陛下、現状の報告にあがりました。」


「ゾルダー、それは朗報であろうな。

 それ以外、余は聞きたくないぞ。」


昨晩の中国人の襲撃事件は既にレオポルド情報局長から聞いていたが、死者が出なかった事から皇帝は然程気にも留めていなかった。しかも、レオポルドとの協議の結果、どうにもこの中国人とやらが油断ならない信用ならない人物である、と判断していた。また、中国人のニッポンへの詰らん対抗意識か何かだろう、と。その為、地道な交渉も併せて行う為のセカンドプランとしてゾルダーのラインも保持していたい皇帝だった。


「はっ、幾つか新しい報告と陛下の許可を得たい案件がございます。まず、帝都ザムセンにほど近い石炭産出する鉱山の近くに石炭火力発電所を設置したい、との要望がニッポンから出ております。これはニッポンが行う政府開発援助から資金を供出し、完成後に長期低金利にて収益となる電気料金と物納を以って返済を行うというプランの提案です。これは我が国には絶大な利益となり得る話です。」


「何故だ。その電気とやらは、貴公とニッポン軍が作った通信所に使用しているアレの事か?それを石炭で行うというのか?それが我が国に何の益がある?」


「ニッポンのあらゆる機械や設備、また一般家庭の日常生活における様々な物は電気にて動きます。この電気を利用する事で、我が国の生産力や工業力が上がります。現在、我が国の製造現場で使われているものは石炭ですが、これと比較にならない効率と製造現場の作業安定性が我が国に齎されます。」


「ふむ、製造現場な。それはどういう理屈でそうなる?

 そして我々が得る物と失う物はなんだ?」


「はい、我々の製造の段階はニッポンで言う所の、工場制手工業と言われます。いわば製造工程を多くの人員を集めて分業し、製品を組立て、完成する。我々の此度の陸上戦艦で行われた製造手法です。ですが、日本では違う製造工程となります。それは、製造を行う機械を導入し、その機械が製造した部品を機械が組立て完成する工程です。その機械を動かすには電気が無くてはなりません。そして失う物は…今までの職人と言われる者達が必要無くなる事でしょう。」


「ま、まてゾルダー。余は混乱しているぞ。

 機械が作った部品を機械が組み立てる?どういう事だ?」


「予め、完成するまでの工程を分解し、それぞれ完成に至るまでの沢山の工程毎に、その工程を担当する機械がそれぞれの担当する部品を作り、バラバラの工程毎に作られた部品が機械により組み合わされて完成品となります。ここで特筆すべきは、あらゆる機械や製品には規格が定められており、その規格に沿った部品でないと完成品となりません、その判定も機械が行う事にあります。我が軍では、銃や砲、弾に至るまで工場制手工業にて製造されている為、統一の規格という物が存在しておりません。あるのは見本等を元にした目安のみなのです。」


皇帝は思い当たる事があった。

新式銃が配備されたての頃、お披露目を行う為に新式銃が配備された部隊が射撃を行うセレモニーが催された事があったが、何丁かに1丁の割合で弾詰まりを起こし、何百丁に1丁の割合で暴発事故が発生していた。後の詳しい調査で、弾が規定より大きい物が一定数混入していたとか、砲身の品質が著しく低い工房があったとか、そういった類の事だ。だが、それの改善は、職人が直接指導する事以外に改善は見られ無かった。つまり、武器弾薬の品質保証が製造する職人に委ねられている事になる。この職人の能力が低ければ…


「ゾルダー。つまりだ。

 その機械とやらで作る製品は品質が同一であり、品質のブレが存在しないという事か?例えば、新式銃の暴発事故のような類は無くなると?」


「左様に御座います。

 この機械が導入された暁には。

 然し乍ら、それを動かすには電気が必要なのです。

 そして、その工場は膨大な電気を使用するのです。

 その為に火力発電所の設置が必要なのです。」


「ふむ…その設置は全てニッポンが行うのだな?

 それらの設置の費用に関して政府開発援助とはなんだ?」


「火力発電所の設置に関しては、有償の政府開発援助となります。有償とは設置費用を我が国がニッポンに支払う必要があります。ですが有償部分の返済に関しては物納が可能です。つまり、我が国は発電所を手に入れ、ニッポンは代金の代わりに食料を手にいれます。そして返済分の物納が終了した後には、我が国から輸出する食料はニッポンから代金が支払われます。」


「なんだ、我が国にすぐに金が入る訳では無いではないか。

 だが、まぁほぼ無償で作られるのと同じだな。」


「左様に御座います。

 また、電気があれば、もう一つ設置可能な物があります。

 それは輸出用の食料を保管する大規模貯蔵施設です。

 こちらをご覧ください。」


ゾルダーは日本から貰った貯蔵施設のパンフレットを取り出した。この貯蔵施設は何種類かの温度帯に分かれた貯蔵倉庫が複数合わさった物であり、それぞれ-50度以下、-2度~-50度(5段階)、+10度以下、常温と温度帯が分かれていた。それぞれの温度帯には食料に合わせた保管が可能であり、水産物、畜産物、農産物、そして今までガルディシアでは存在しなかった冷凍食品の保存が可能となる施設だ。


「この貯蔵施設にはどのような意味があるのだ?」


「この施設がある事で、通年通して我々は活動が安定します。

 我々は秋に収穫を迎えますが、それを保存し冬から春にかけては保存してあった食料か、どこからか輸入した食料を仕入れる事でもしくは魚や動物を狩る事で食料を得ます。取れ過ぎても捨てるだけです。輸出も必ずしも成功する訳ではありません。そして、近年の戦争によって食料の入手はエウグストの生産に左右されます。」


「うむ、確かにそうだ。エウグストが不作であれば我々は困窮し、場合によっては近隣への侵略をもって食料の確保に動く場合もあった。だが、その貯蔵施設とやらがあれば、それが解決すると?」


「ニッポンの規格によれば、肉や魚であっても1年の保存が可能となります。また、食品の種類によっては1年以上の保存も可能、との事です。」


「い、一年以上だと!?馬鹿な!!

 それがその保存方法だと可能だという事か?」


「それが先程の貯蔵施設の温度帯にて管理されているとの事です。例えば、長期保存の為に肉をマイナス30度以下で保存した場合、そのままの温度状態で1年程貯蔵してても、1年後にそれを食べる事が可能とか。つまり、これの意味する所は、我が国の食料供給の安定化であります。そして、その温度管理をする施設は、大規模な冷却設備が必要となりますが、やはりこれは電気で動きます。」


「ふーむ…どこに作りたいのだ?」


「ニッポンが提案したのは、輸出する港に隣接した場所が良いと。以前ご報告致しました食品を検査する施設と隣接して設置した場合、これらの輸出関連が非常にスムーズに行くのではないか?と。」


「という事はル・シュテル領か。

 そこは気に入らんな…」


「陛下、そこは仕方が無いかと。

 何れ輸出を行う港の整備にル・シュテル領のマルソー港は既に整備が始まっております。この港にほど近い場所が効率も良い事になります。ニッポン側からの提案では、この港を繋ぐ幹線道路を帝都ザムセンまで整備したい、との提案も受けております。これは食料を運ぶ為のニッポンの基準に沿ったアスファルト道路とやらを整備し、その上で物流関連のシステムを導入したいとの事も併せて提案を。こちらはニッポン側が全額負担で整備する旨、承っております。」


「そのアスファルト道路とやら、貴公は見たか?」


「はい、ニッポンに拿捕された際に一番最初に確認したのが、正にアスファルト道路です。これは、全く道路につなぎ目が無く滑らかな道路です。我が国で例えるなら、街道に埋めた一番平らな石を想像して頂ければよいかと思います。その平らな部分が道路の全てです。道路の幅、最初から最後までその平らな部分が続きます。」


「そうか…それほどか…

 わかった、まず火力発電所だな。それはどこだ。どこに作る?貴公はどこを考えておる?」


「ザムセンと東方都市ヴァントの中間地点にある、ガダー鉱山近隣が宜しいかと。あの辺りは交通の便もよく、且つ鉱山から産出する石炭は良質です。産出した石炭をすぐに電気に変えるには、途中の経路をなるべく短くした方が宜しいかと。ただ、これはニッポン側とも協議が必要ですので、候補とするに留めます。ただ、調査の為にニッポン人が入る事も併せて許可を頂きたいと思います。」


「ふむ、それは仕方があるまい。

 通行証を発行しておく故、後で取りに参れ。」


こうしてゾルダーは日本人がガルディシア国内で自由に歩き回っても問題が無い通行証を手に入れる事が出来たのだった。

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