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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第二章 ガルディシア発展編】
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53.内戦 エンナの戦い-⑧

一時休戦を結んだその夜。

フェリペは簡易宿泊所を指揮所としていたが、ここはエアコンの室温設定が22℃に固定されていた為、何をする事も無く一定の温度の環境が自動的に提供されていた。そんな事は知る事も無いが、温風が噴き出る機械が上部に備え付けられているのは理解していたので、そういうニッポンの道具なのだ、と納得していた。


「このニッポンの建物は中々に快適だな。

 それ程しっかりとした作りでは無いのにな。

 それにあの湯を沸かす板はどういう仕組みなのであろうか。つまみを捻るだけでお湯が沸くとか、随分と便利なシロモノもあったものだ。

 して、相手の指揮官はどうであった、タウリアーナ。」


「指揮官は王国陸軍のラケーレ大尉でした。

 あの地図を見て大分動揺しておりました。

 自分では判断が付かぬ、と。」


フェリペは、あの地図を見て反逆だとは言ったが、勿論そんな事を信じて言った訳ではない。あのニッポンの能力があれば容易く作り上げてしまうだろう。だが、この目的は時間稼ぎと士気喪失にあった。仮に包囲している王国陸軍が、あの情報に触れてほんの少しでも疑問に思えば、彼らの士気は必ず下がる。自分達が行っているのは、正しい事なのか?と。


「事実か否かは重要ではない。

 重要なのは、あれでどれだけの時間が稼げるか、だ。

 判断が付かぬのなら、相応の時間を浪費しよう。

 それまでの間に国王と交渉出来れば良い。」


「ですが、国王との連絡は相当時間がかかるのでは?

 今現在、ニッポンに居るという事は…」


「1週間だ。それまでに交渉が出来なければ…

 我々はここを爆破し玉砕だ。

 タウリアーナ、その時はすまんな。」


「殿下…油田への爆薬は準備が完了しております。

 何時でもご命令あらば直ぐに実行可能です。」


「うむ。少し寝る。」


その頃、包囲をしている王国陸軍のラケーレ大尉は食事ついでに輸送艦おおすみに招待されていた。太田二尉は、先程の話題に出ていた地図の件で、おおすみ艦長の所沢一佐に事情を説明し、ラケーレ大尉をCICに入れた。


「ラケーレ大尉、我々の地図はこれです。

 ディスプレイと言います。」


狭い部屋の中に自ら発光している板が貼り付けてあった。この板には地形が表示されており内容が刻々と変っている。


「この光点は、往復するヘリコプターのCH-47Jチヌークです。そして現在我々はこの島の沖合2kmのここにある光点に居ます。友軍は緑の点で表示されており、島中央部分を包囲しているのが友軍です。この輪の中にいる赤い光点が、フェリペ軍となります。我々は紙を使わずに、このディスプレイに表示されたもので作戦を行います。ですので、余り紙は必要としないんですよ。ご理解頂けましたでしょうか?」


言っている内容は理解出来たラケーレだが、どういう仕組みでこう表示されているのかがさっぱり分からなかった。だが、確かに我々の陣地はこういう形で人が配備されており、見た所フェリペ軍の配置も把握している限りは同じ内容だ。仮にこの技術を手に入れられたなら、この島を売り払っても釣りが来る、そう国王が考えてもおかしくはない。しかもニッポン軍は、エンナ島領有の意図は無いという。アレはフェリペ軍の苦し紛れの欺瞞工作だったのだろうか?とするならば…ここは一つニッポンを信じてみよう。それに夜間に作戦を実行するという事だ。それならば、明日昼以降は攻撃を控えていた方が良い結果が得られるだろう。何せ、全部見えてると言っても過言では無いのだ。そこを我々が介入した場合、知らないが故に悪戯に被害が拡大する恐れがある。その発生する被害は全て我々の軍になるだろうが…


「オオタ二尉、無理言って済まなかった。

 理解した。明日は貴軍の行動への補佐に重点を置く。

 まずは夜戦に関する詳細を煮詰めたい。」


「ありがとうございます、ラケーレ大尉、

 まずは飯を食べましょう。詳細はそれからです。」


そして夜が明け、休戦時間は終了した。

だが、包囲をしていた王国陸軍は一発も撃たない。それを不思議に思うも、フェリペ軍も撃たない。奇妙な緊張状態が始まっていた。当然お互いの弾薬に限りもあり、無駄に撃ちたくないのは両軍に共通していたが、明らかに王国陸軍は戦意が感じられない。


「彼奴等、撃ってこないな。

 どう思う、タウリアーナ?」


「もしかしてなのですが…

 昨日の例の件が兵の間に広まっているのでは?」


「自分達に正義がある事に疑いが生じている、と。」


「可能性はあります。もし、そうであれば寝返りが可能かどうか探りを入れるのも吝かではありません。ただ、先程休戦が終わったばかりなので、今暫く様子を見た上で、夕方に再度ラケーレ大尉に当たってみます。」


「そうだな、頼む。仮にそうであれば今より楽になる。

 打てる手は全て打っておきたい。」


「承知致しました。」


果たしてほとんど弾を撃たないままに夕方を迎え、再度休戦旗を掲げたタウリアーナは昨日出向いた場所まで再度向かった。そして今度は目隠し無しでラケーレ大尉の壕まで案内された。案内された壕の中にラケーレ大尉は居なかった。代理の少尉がラケーレ大尉不在を詫びた上で、休戦は同意できない、ラケーレ大尉不在の為、自分では決められない、だが我々は今夜一発も撃たない、と言ってきた。


「ラケーレ大尉はちなみにどちらに行ったのですか?」


「そ、それは言えません…」


多分この少尉は本当に何も知らないのだろう。しかも自分に決断する権利があるかどうか、ラケーレ大尉からの指揮権移譲されていないので判断が付かないのだ。もしかして、ラケーレ大尉はあの話から逃げた可能性もあるな。囲んでいる王国陸軍も今夜は一発も撃たない、と言っているのは士気が下がっている証拠かもしれんな。


「いや結構ですよ少尉。ラケーレ大尉が戻りましたら再考するようお伝え下さい。そもそも我々は同国人同士、撃ち合う道理もありません。可能であれば、共に…いや、それではこれで。」


タウリアーナが去った後、豪の奥からラケーレ大尉と太田二尉が出てきて、少尉の対応を褒めた。前線の弛緩した空気とは裏腹に、緊張した面持ちでラケーレと太田は打ち合わせを始めた。

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