2_48.内戦 エンナの戦い-③
ラチアーノ配下のアドラーノは日本への潜入を何度も目論み、その度事に、日本の哨戒ラインに引っ掛かり引き返すのを繰り返していたが、急遽王都トリッシーナへの潜入を命ぜられた。その目的は、王都トリッシーナの港に係留してある国王所属の戦闘艦艇の破壊工作だ。
しかしアドラーノが王都トリッシーナに入ろうとした時点で、既に厳戒態勢が敷かれており、流石のアドラーノも潜入に一苦労していた。王都トリッシーナは西端から湾となっており、湾の中央に港がある。この港から市場が広がっており、それはそのまま市街に連なり、東の王宮まで続いている。王宮の東側にも市街地は広がり、そのまま東のアクレイデ伯爵領に繋がる街道へと続く。
ラチアーノ達一行は行商人に化け、トリッシーナへ向かっていた。アクレイデ伯爵領の通過は然程問題が無かった。だが、アクレイデ伯爵領を過ぎた辺りから、国王軍兵士の姿をちらちらと見かける事が多くなり、臨時の検問所も作られていた。
しかもトリッシーナ直前の検問所にて、"王都は特別な許可が無ければ数日間入る事が出来ない"と言われたのだった。特別誰かを狙い撃ちにした検問では無く、単に王都へ入る事が全て封鎖される事態となっていたのは予想外だった。国王が帰国次第解除されるという。だが、それでは遅いのだ。
止むを得ずアドラーノは部隊を分け、少人数で海からの侵入に切り替え、港に直接潜入する部隊と反対の南側から侵入する部隊を編成し、夜を待って実行した。アドラーノは海から侵入し、港に着いた頃は朝となっていた。そこで一旦トリッシーナ西側の市街地に入り、予め仕込んでいた避難所に行き、装備を整えた。
その夜南側潜入部隊も無事合流し、全員でトリッシーナ港に停泊する国王所属の軍艦に爆薬を仕掛け、国王軍の艦艇は完全に破壊された。そして、厳戒態勢にあった国王軍近衛騎士団長のモンテヴァーゴによって全員が捕縛されそうになり自爆した。
この自爆によって、近衛騎士団はモンテヴァーゴを筆頭として何人かが死傷し、一時的に近衛騎士団は麻痺状態となっていた。そして、これはフィリポに有利に働いた。一時的に王都を預かる指揮官と、ニッポンとの連携が断たれたのだ。
既にエンナに向かっていた護衛艦まやの外に自衛隊艦艇は1隻しか居らず、それは輸送艦おおすみなのだ。国王ファーノIV世から依頼された、王都トリッシーナの守備には少々不安な状況であり、王都へと連絡を取り状況を確認しようとするが、モンテヴァーゴの近衛騎士団とは連絡が付かない。その為、王都トリッシーナにある自衛隊と騎士団の間でもタイムラグが生じた。
護衛艦まやへの指示は、日本政府とファーノ国王の間で協議されている間に、王都トリッシーナでの爆破テロが続報として入り、判断に迷う間遅延し続けた。結果として、エンナ島へは派遣された石油会社調査員の回収以外の行動は行えず、トリッシーナ防衛へと政府の判断は舵が切られ、護衛艦まやはヘリを回収し、トリッシーナに戻った。
結果としてフィリポが狙ったエンナ島は上陸部隊に制圧された。エンナ島にフィリポの艦隊が全て集結し、王都トリッシーナから程近い島に反乱軍が立てこもる状況となった。そして王都トリッシーナにはアドラーノの工作部隊しか首都自体を目標として居らず、集中した近衛騎士団と陸軍は犠牲を出しただけで意味は無かった。当然、首都に引き返した護衛艦や輸送艦も首都では何の役も立たない。
フィリポの舞台は揃った。
後は国王ファーノの帰国と、こちらの要求をするだけだ。ファーノの帰国はあと1週間はかかる筈だ。それまでに艦隊は攻撃態勢をとり、エンナに防御陣地を構築し、もしもの時の為に油田爆破用の爆薬を仕掛ける。
ここまではフィリポの計算通りだった。
あとは国王が要求を呑み、国王を退位させ、自らが国王としてニッポンとの交渉を行い、我々が先進技術を入手し…今後の計算と将来に夢想するフィリポの思考は、突然の轟音に現実に引き戻った。
「何か物凄い轟音が!!」
「なんだ!この音は何だ!???」
そこら中に鳴り響く轟音はするのに姿は見えない。
フィリポ艦隊の乗員は、耳を塞いでも聞こえてくる轟音に激しい混乱に陥っていた。
「この音は…ニッポンの飛行機械か!? これ程の轟音を放っているというのに何故姿が見えない? 探せ!!空を探せ!!!」
轟音に負けぬように大声を張り上げたフィリポであった。
探して見つかったとしても、何も出来ないのであったが、敵として接近する物があれば、探さずには居られない。だが、音はすれども姿は見えない…
千歳基地を飛び立った第二航空団所属の第201飛行隊のF-15DJは途中空中給油し、エンナ島に急行した。比較的高度は低めに飛んでいたが、地上からは見えない高さだ。目的は、日本がこの件に介入する意思を見せつける事と、後続のF-2が来るまでに低空を飛び、フィリポの艦隊を混乱させる事だった。その為、最終的には姿を見せなければ意味が無い。F-15DJは徐々に高度を落とした。