1_11.生存者発見
佐渡島西側市街地 午後2時
化学防護服に身を包んだ状況把握チームの5名は絶望と死の気配の中で探索を続けていた。ガス検出用の検知管が用意出来なかった為、応急に用立てられた鳥籠の小さな鳥が、彼らの検知装置となっていた。
住宅地方面から港に向かう途中には生存者は一人も居なかった。部屋の中で倒れている者、家からどこかに逃げようとして道端で倒れている者、家族全員が車の中で揃って亡くなられた者、等々…。共通している事は、皆一様に恐怖に歪んだ顔をしていた事、そして化学兵器特有の外傷等は見当たらなかった事だった。そして、建物や道路への被害は全く見られなかった。
「石原2尉、これは神経ガスでしょうか…?」
「ううむ、どうだろう…可能性はあるかもな。ただ、神経ガスに暴露されたら特有の状態になるんだけどな。今まで見てきた遺体は、その状態にない。」
「特有の状態って…?」
「漏らすんだよ、全部。大も小も。まぁ、鳥も生きてるし残留する毒物は無さそうだが。」
「だと助かります。防護服、暑いし視界悪いし早く脱ぎたいですね。」
「気持ちは分かるが、もう少し確証掴むまでは脱げんぞ。即効性の病原菌とかの生物兵器って可能性もあるからな。」
(そんな話は聞いた事無いけどな…即効性の病原菌とか。)
石原2等空尉は自ら言った言葉を心の中で否定した。
無論彼らは、非科学的な存在による理不尽な死である事を知らなかった。現在自分達が理解している何等かの方法による結果である事は疑ってはいなかった。だがしかし、どんな行為によってこれほど大量の殺人が行われたのか、その手段が全く想像出来なかったのである。
「石原2等空尉、生存者を発見しました!こちらの民家に生存者の高齢の女性が居ます。
大分弱っていますが、生きています!!」
「よし、基地に生存者を搬送する。一旦、状況把握チームは基地に撤収する!基地に生存者発見と医療チームの準備を連絡しろ!」
状況把握チーム5名と発見された高齢の女性は、73式小型トラック2台に分乗して基地に帰還した。
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危機管理センター 午後2時
「総理、暴風雨の影響が全国的に出始めています。」
「全国で発生した旅客機の緊急着陸の際に、数機の事故発生しております。現在の所、死者は出ておりません。」
「全国の警察や役所の類が、国民からの問い合わせでパンク状態です。」
だよなぁ…こっちも何も分からないもの。国民にしたら、より一層分からないよなぁ。おまけに訳も分からない大量死だものなぁ…俺の政権もこりゃ近いうちに終わるよなぁ…
「佐渡島から続報は無いのか?」
飯島総理はため息をつきつつ、聞いた。
「たった今、佐渡島分屯基地より入電しました!生存者1名発見、状況はBC兵器に非ず、と。え、住人大量死の原因は……はい…は?え?? もう一度お願いします。…はい。…はい、了解しました。
……総理、基地司令の情報をそのまま伝えます。"住人の大量死の原因は超自然的存在によるもの"、との事です。」
「…何? ちょ、超自然的存在、って何??」
「具体的には、死神みたいな黒い影のようなモノがやって来て、自らを"ドゥルグルの不死の大魔導士"と名乗った、と。この大魔導士とやらは近づいただけで、人が死ぬ、との事です。唯一の生存者からの聞き取り調査の結果です。報告、以上です。」
「絶対なんかの薬やってるだろ!生存者の薬物チェックは済ませたのか?」
厚労大臣は叫んだ。
しかし、防衛大臣と国交大臣は苦い顔をしていた。彼らの手元にある情報は、一つの現実を把握しつつある。しかしこれを公表をすれば自分達の正気を疑われる。ここは地球では無いのだ、と。