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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第二章 ガルディシア発展編】
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2_41.原油精製施設の見学

ファーノIV世は客船に乗った段階で既に圧倒的な存在に呑まれていた。


我々の世界ではあれ程に豪華な客船など無い。客室は陸上のホテルと何ら遜色無く、大した揺れも無い。船内は非常に綺麗で小さいが室内に浴槽もある。そして飲料用の水も出る。洗面所もある。そう水が使い放題なのだ。水が使い放題といえば、船の最上部にはプールがあるのだ。

船内も案内された部屋も常に煌々と明かりが点いている。


食事も保存食の類ではなく、きちんと調理された暖かい料理だ。そしてカジノがあり、物品を販売する店がある。まるでこれだけで小さな都市の様だ。これ程の大きさならさもありなん…


そして、ダイヤモンド・プリンセスは東京を右手に日本に接近してきた。遠く見える日本の風景は未だ詳細が見えなかったが、徐々に日本の港に近づいてきた。一行を乗せた大型客船ダイヤモンド・プリンセスは、横浜港の埠頭に到着した。


港の近くには、奇怪な形の建物がいくつも建っている。


「あの果物を半分に切り取ったような建築物は一体なんなのだ?それと、あの丸い建物は…??」


「あれはグランドインターコンチネンタルホテルですね。宿泊施設です。あと丸いのは観覧車ですね。あれは乗ってぐるぐると回る遊戯施設です。」


国王はまだまだ色々物珍しい物を全て聞きたかったが、港についた事で船を降りなければならない。これはまた後で聞いておこうと思った国王であるが、実の所その望みが叶ったのは遥か後だった。何故なら、次から次へと情報が入ってくるので、その情報を処理するだけでファーノIV世の頭はいっぱいだった。そのまま日本の案内でバスに乗車し、そしてバスに関する情報で、また頭が一杯になった。


「これほどの人数を乗せて、これほど快適に移動可能とは!」


国王の一行は横浜港に入ったのは、石油精製施設の見学を希望した国王に配慮し、関東最大級の精製施設であるE社の根岸製油所が近かった為だ。


根岸製油所は移転以来、装置の稼働率が20%以下に落ちており、その再開も見込めない状況に陥っていたが、今回のヴォートラン原油の件で、社内は希望に満ちた雰囲気に変わった。政府からの依頼で、国王一行を案内する事となった為、全員出社して待機状態にある。


国王ファーノIV世に確認した所、すぐに製油施設を見に行きたい、との事で根岸製油所にはその旨、連絡を入れてある。果たして国王一行は根岸製油所に到着した。


「ようこそいらっしゃいました、ヴォートラン国王陛下。私は本日の案内を務める、根岸製油所所長の田所と申します。ここは我がE社が誇る日本最大級の製油施設、根岸製油所です。この製油施設では、一日に約43,000キロリットルの原油を処理する事が可能となっております。」


国王は43,000キロリットルという量が既に想像出来ない。だが、どうやってそれだけの原油をここに運ぶのだ??多分そんな表情をしていたのだろう、先に田所が説明を始めた。


「原油は大型タンカーにて運ばれます。大型タンカーは、あちらの船着き場、原油受入桟橋に着けます。あの桟橋にはパイプがあり、船に繋ぐと…あそこの原油タンクに送り込まれます。」


田所が指差す先にはそれは大きな丸い筒が複数並んでいた。


「あの大きな筒…タンクと言うのか?そのタンクの中身は全て原油が詰まっておる、という事か?」


「左様に御座います。あのタンクの中身は全て原油で、それぞれの用途目的に応じて製品化される事を、あのタンクの中で待っているのです。

 そして原油の精製施設ですが、まずこちらの常圧蒸留装置で加熱を行い、加熱の温度によって原油を大まかに5つの成分に分けます。5つの成分とは、LPガス、ナフサ、灯油、軽油、残油ですね。主に乗用車に使用するのはナフサ留分の中のガソリンになります。次に航空機に使用する灯油留分のジェット燃料。軽油留分はトラック等の大型車両、船舶等に使用する残油留分の重油等、その使用目的と成分に沿った製造を行います。」


国王の傍には、ヴォートランの精油施設関連の技術者も帯同していた。

だが、この技術者エットーレは正直、何をしてどうなるとこれ程の施設となるのか理解を越えた状況になっていた。そもそもヴォートランの原油精製方法は、ごく簡単な蒸留器をもって採掘された原油を蒸留していたのだったが当然施設の規模と方法により製油される量は限られていた。

だが、この施設の規模…1日で5.3万キロリットルの処理も頷ける。そしてそんな事はファーノは当然知らないので無邪気に質問をする。


「どうだ、エットーレ。我が国と比べて如何程か?」


「いえ…あの…正直に申し上げても宜しいのでしょうか…?」


「何を躊躇しておる。正直に申せ。圧倒的なのは理解しておるぞ。」


「我々の精製施設では…ごく原始的な蒸留でしか行えてません。その為、燃料の品質に大変バラツキがあります。この品質の一定化が現在の我々の課題となっておりました。この施設は、それらの問題が全て解決しております。今まで、我々は何等かの不純物が混入して品質の一定化が為されないと認識しておりましたが、それを取り除く術がありませんでした。ところがニッポンのこの施設では…」


ちょうど田所所長はその辺りを説明しようとしていた。


「こちらのナフサ留分は、脱硫装置、水素化精製装置、接触改質装置、そしてアルキレーション装置を経由し、不純物を取り除いた製品化が行われます。この過程で硫黄分、窒素分、ベンゼン等が除かれます。」


「そうか。それが不純物の正体か。だが…我が国ではそれを取り除く技術が無い…。」


この独り言を聞いていたファーノは、再びエットーレに尋ねた。


「一つ聞こう、エットーレ。ニッポンは精製は全て任せてくれ、と言う。だが、余は我が国で精製可能な事を態々他国に任す事に不安だ。貴様の目から見て、この判断はどう思う?」


「陛下…正直申し上げまして、ここが何をしているかは理解出来ます。ですが…ですが、この施設は、概要を聞くだけでも圧倒的です。我々が行っている事の精度と生産力を100倍高めた様な設備です。いや、100倍では効かないのかもしれません。これらの技術力を学べる機会があれば良いのですが、学べないのであれば、何等かの担保をとった上でニッポンが言うように全て任せた方が品質の安定と、製品の安定供給が望めるでしょう。」


「製油施設だけでそれ程の差があるのか…だが、エットーレ。我々が燃料を欲しいと思った瞬間に直ぐに手には入らないぞ。ニッポンに依頼せぬ事には。これはどうする?」


「畏れ乍ら陛下。先ほどご覧になられたタンクとやら。あれが恐らく貯蔵施設となっておりましょう。恐らくは必要に応じて製造と出荷を行っており、安定した供給量を提供する為に、あのタンクで一定量を保管しているのです。あのタンクを我々の国に作って保存しておけば、いざという時にも対処可能となるのではないかと…」


「むぅ、なるほどな…」


国王ファーノは、全量を出荷し全てをニッポンに任せる方向で考えが変わり始めたのだった。勿論、前提となるのはヴォートラン国内に貯蔵施設を予め設置し、その中身が満ちてから、の事であった。

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