2_34.沸き立つ官邸
総理官邸 西暦2025年5月30日
ヴォートランからの報告を見た総理官邸は湧きたった。
かなり良質の原油が産出している、との篠原からの連絡だった。しかもヴォートランにある小島に在来型原油が相当量存在する、との事で究極可採埋蔵量を詳しい調査を行った上で確定させたい、と報告してきた。
日本政府としては、ヴォートランに精製施設を設置するより、原油を取り出した後には直ぐに日本に輸送し、精製した上でヴォートランへ輸出する方法を選びたい。そうなれば、ガソリンを始めとする石油関連商品を売りつける事も出来る。しかも、精製技術を出さない事により独占的に商売をする事が出来るのだ。元々日本は原材料を輸入し、それに付加価値をつけて輸出する、いわば王道回帰なのだ。これはどんな事があってもヴォートランを篭絡せねばなるまい。
そこで、ヴォートランに大規模な使節団を送り込む打診をした。
また、ヴォートランで採掘された原油を元に発電施設が設置可能かどうか、篠原経由でファーノIV世に確認をとった所、どちらも許可が下りた為、可及的速やかに設置を行えるように機材を満載した輸送艦と要人輸送用として民間から豪華客船を借り上げ、これらの船の護衛として艦隊を派遣し、この艦隊には総理の飯島が同行したのだった。
総理は傍らの防衛副大臣の鈴木に話しかけた。
「初めての異世界の国への旅だな。初めての異世界の国といえば…その他の地域の情報収集はどこまで進んだかな?」
「現状で東の方ばかりに目を向けがちなんですが…西側にも調査を進めております。西側には、例の骨の島がありますが、この島も調査を進めており、この島に大量のグアノ鉱床系のリン鉱石が大量にあるそうです。」
「グアノ…ていうと、あれか?鳥の糞とかか? そうすると、その島に住んでいる? 近くに陸地がある?」
「はい、更に西に比較的大きな島があります。その島を更に西に行くとヴォートラン程度の大きさの島があります。そして、その更に西側に大陸サイズの陸地がありますね。大陸サイズの陸地の南側に、それよりも大きな大陸が存在します。」
「その西側の大陸や島には、何等かの文明は存在するのかな? 存在するとして、こちらに来ないのは何故なんだろうか…もしかして、未だ嵐が吹き荒れていると思っているのか?」
「その辺りも何れ調査により明らかになると思います。ただ、海図も無く地形も分からず、燃料の消費を押さえねばならない状況下において、調べるだけで燃料を消費する事を中々決定出来ず…今回のヴォートラン油田が潤沢で、我々の使用にも寄与する事になれば、大規模に調査を行えるようになるかもしれません。」
「そうだな。人工衛星も全て上がりきっては居らず、調べられる範囲も限られているからなぁ…」
「東側に関しては、モートリア大陸は相当大きいですね。エステリア王国がモートリアに占める割合は10%以下です。モートリア大陸は、南にバラディア大陸と同程度の陸地があり、更に南に降りるとモートリア大陸と同程度の大陸が存在します。」
「結構あるな…恐らく、この世界の殆どは未だ弱肉強食の域にある。油断をすると途端に喰われるこの世界の中で、我々の法と秩序に基づく平和と安定の世界に我々が変えていけば良いのだ。だがその為には、或る程度の力の誇示も必要だ。それも力を発揮する燃料が無ければ、ただの鉄の箱だ。」
「まぁ、そういった物以外にも我々が提供出来る物は多いでしょう。今回、民間の商工会関係とか同行しなくても宜しかったんですか?」
「今回はまだな。
まだ何が起きるか分からんのに、民間は同行させられんよ。そういえば、王弟派のほうはどうなっている?」
「突然の国王側への訪問に関して、強烈に抗議を唱えていますね。曰く"我が王弟フィリポに対する背信行為だ"、と。」
「具体的な行動を起こしそうかな?今回の会談で、国王とその辺りを話し合った上で、色々面倒臭い後始末をせねばならんかもしれんな…」
「ただ、王弟派が国王ファーノに報告した内容が内容でしたので。辺境の三流国がヴォートランに恩を売る為の救助を行ったようだ、と国王に報告していたので、日本の存在をその程度の認識でいた、という事だそうです。」
「それは情報と利益の独占、あわよくば国権の奪取、か。」
「恐らくは。つまり王弟派はそういう危険性があると判明しただけでも日本にとっては利益なのかもしれません。」
「危険性がある、といえば。ほら、例の…北朝鮮で使っているようなパワーボートがガルディシアに向かった件、あれってその後どうなったの?」
「今の所、中国大使館関係者と北朝鮮関係者と見られる数名がリストに上がっています。ただ、出国は容易でも入国が難しいと思いますので出ていったら、出ていったままか、と。仮に再度入国しようものなら、直ぐに拿捕を行います。」
「うむ、了解した。その辺りは宜しく頼む。さて、俺は風呂でも入ってくるかな。」
飯島総理は護衛艦の風呂に入りにいった。