2_30.トリッシーナの上空へ
高田達3名は国王から案内してもらった宿に宿泊していた。当然盗聴されている事前提で3人は話を始めた。
「そういえば、アポロの件はどうなったんですかね?」
「アポロですか?確か、水鳥から虫が飛んでる筈ですが…そろそろ分析が終わっている頃でしょうね。」
「有能なアポロだと良いんですけどねぇ…。そろそろアッチも空腹の限界ですからね。」
「水鳥に確認取りますか?」
「そうですね、確認取って頂けますか?コードBでお願いします。」
「了解です、少しお待ちください。」
鐘崎三佐はUS-2に無線で連絡をし、最初にコードBを告げた上で調査結果の詳細連絡を受けた。US-2からの連絡は非常に有望な物だった。API度0.4wt%以下の非常に硫黄分の少ない原油、との事だった。
「ほぅ…良質ですね…これは是非とも押したいと私は思いますよ。」
「まぁそれはマザーが判断しますから。」
当然ひそかに聞いている方は何がなんだか分からない。
だが、日本の未来がここの資源によって左右されうる内容だった。交渉の中で、何が一番交渉相手にとって肝となる部分なのか。この肝の部分を握られると、相手にイニシアティブを獲られるのだ。高田達はその部分を恐れるが故に、それらの情報が渡らない会話を心掛けた結果として、盗聴をしていたヴォートランの局員は、彼らの会話の中で重要な部分を理解出来なかった。
そして翌日。
再び、国王ファーノIV世との謁見の機会が来た。高田以下2名は、謁見の間にて再びファーノIV世に平伏する。ファーノIV世は既に心を決めていた。
「ニッポンの使者、タカダよ。余は貴殿の言う"共に栄える"という未来に期待したいと思う。余の思う未来に、貴国ニッポンがどのように関与するのか。また、貴国ニッポンの技術が我らにどのように寄与するのか。余は貴国の語る輝かしい未来に対して、我らがどのように関与出来うるのか誠の意味で実現したく思う。貴国にその準備があるか?」
そこで全権大使の篠原が答えた。
「高田ではありませんが、私篠原が回答致します。我ら日本国が、国として過去信義を違えた歴史は御座いません。私共が信用に足らないと判断するならば、今この場にてそのようにご決断して頂いても一行に私共としては構いません。その上で僭越ながら申し上げますが、我が国の準備は十分に整っております。」
「ほう、信義を違えた歴史が無いと。それは大変素晴らしい事だ。是非とも貴国の責任ある立場と何等かの会談を行いたい。それは可能であろうか、シノハラよ?」
「然るべき手順にて、必ずや我が国での会談をご用意いたします。然し乍ら我々の返答は誰であろうとも、些かも揺るぎません。」
「ふむ…いや、良い。そのような覚悟で挑む時点で貴殿等がどのような立ち位置で答えているのかは理解した。当然我々としても同様な覚悟で返答せねばなるまいて。」
「有難う御座います。まずは国交の樹立と、以降のインフラ整備や現在の技術情報が如何なる段階にあるのか、またその構造や製造技術等の開示を行って頂ければ、我々としても協力し易いものと思います。それら技術の開示を行う為の条約や守秘義務契約等を整えるのが宜しか、と存じます。」
「で、あるな。その辺りの細々とした事はこれに任せておる。エンリコ首相、聞いておったな。我が国はニッポンと国交を結ぶ。結ぶにあたり必要な条約やら何やらを、シノハラと協議せよ。可及的速やかに国交を結べ。何より最優先だ。ところであの飛行機械を操縦しておったのは貴殿か? 名はカネザキであったな。余も貴殿が操縦しておったアレに乗ってみたいのだが、それは可能か?」
「ご要望とあらば、何時でもご招待いたします。陛下がご希望なされるのであれば、今直ぐにでも。」
「ほう、それは素晴らしい。エンリコ、ここは任すぞ。余はカネザキと共にニッポンの飛行機械に乗ってくる。」
鐘崎三佐は、US-2乗員に何やら色々指令を出していた。そして日本人一行と御供の小姓を引き連れたファーノIV世は、港まで移動し、既に港に来ていたボートに乗り込み、US-2へと乗り込んだ。
「ほう、中々に大きくて広い物だな。これだけの機体を空に飛び立つに辺り、どの位の力が必要なのだ?」
「そうですね。簡略してざっくり申し上げますと馬一頭の力を1馬力と換算した場合…この翼に組み込んであります動力機一つが約4,600頭分となります。その動力機が4つ付いておりますので、ざっと18,400頭分を束ねた力が、この航空機には備わっております。」
「い、いちまんはっせん…」
「それでは離陸まで、この席でお待ち下さい。」
US-2の中を一通り見てまわりオレンジ色の席を案内されたファーノIV世は、座席に着きシートベルトを隊員に装着された。
「ここを押すとこのベルトは外れます。ベルトを外して良いかは機長が判断致します。機長の指示に必ず従ってください。」
そしてファーノIV世は、ヴォートラン人として初めて他国の航空機に乗り、王都トリッシーナの全景を上空から目視した。