2_27.ヴォートラン国王への接触
「全く人使いが荒いですよねぇ…。」
既に馴染みとなったUS-2の鐘崎三佐に、内調の高田は愚痴った。鐘崎三佐も、本来の任務とは言えないこの任務に同様の気持ちを持ってはいたが、空港も無いこの世界でのUS-2の価値は急上昇している事も理解しているので、或る程度は仕方が無いと諦めていたので、鐘崎三佐は高田の方を向き、苦笑いで答えた。
US-2は日本の北方1,500km先にあるヴォートラン王国に向かっている。
外務省の篠原を全権大使とし、サポートチームとして高田が同行しているのだった。それまでヴォートランに対しては、北ロドリア海海戦での救助活動を契機として王弟フィリポを窓口としてきた。だが、政府から国王ファーノIV世との交渉を行え、との方針変更命令が出たのだ。そして裏側にあるのはヴォートランにある原油の確認と確保だ。
どうやら、かなり初期型とみられる飛行機らしき物が上空偵察から確認出来たヴォートランに対して航空技術の提供をダシにする方針らしい。そして島西方の諸島群に、その原油精製施設があるようだとの事。その為、今回ヴォートランの首都に行き、ファーノIV世に対する謁見要求と
共に、機に積んであるドローンにて精製施設まで確認を行う腹だ。悠長な事を言っている暇は無かった。何せ、あと4か月程度で燃料切れの未来が待っている。
勿論、フィリポには話を通していない。この電撃的な国王への訪問は、恐らく勢力が弱まった王弟派に対して激烈な反応を巻き起こすだろう予感に、高田は肩を竦めた。
US-2はヴォートラン王国の東端から海岸線に沿って西側に飛んだ。そして、西端周辺で大きく旋回しつつ再度地形を確認した。上空から見るに、西端に大きな都市やら港がある部分があった。
「あの辺りが首都ですかね、高田さん?」
「ここまで大きい街は、東端のフィリポさんの場所以外無いですね。という事は、おそらくこちらがファーノ国王さんの所でしょうかね。あの大きな城が恐らくファーノ国王の居城でしょう。それでは、あの辺りの海に降りましょうか。」
果たしてその大きな城はファーノIV世の居城であったが、その城の中は蜂の巣をつついた様な騒ぎとなっていた。
「あれは飛行機械ではないか!!我が軍の開発した物か?」
「いえ、陛下。我が軍の物ではありません。」
「あんな飛行機械は見た事が無いぞ…一体どこの物だ?」
「あの機体の胴体に書かれた赤い丸の識別マークは、例のロドリア海戦で噂になったニッポン国の物ではないか、と…」
ああ、アレか。救助活動とやらをしていたという国の船か。
だが…フィリポの報告では大した国でも無い辺境の蛮族の国で、救助を行う事により我が国やエステリアに恩を売りたいのだろう、という話だ。その為、然程気にもしておらずフィリポに全権を任せていたのだが…あんな飛行機械があるとは…我々の物よりも明らかに数段上ではないか!
「み、港に降りたぞ!!アレは海に浮かぶ事が出来るのか!!誰か、急ぎ港に派遣せよ!!あの飛行機械の者達をここに連れてて参れ!」
ヴォートラン王国の首都トリッシーナの港に降り立った一行は、直ぐに王宮からやって来た騎士団に取り囲まれた。
「貴様等何奴だ!何用あってこの王都に来た!」
「私共は日本国から参りました。私は日本国外務省全権大使の篠原と申します。是非、国王ファーノIV世様との御目道理を願いたく推参致しました。お取次ぎ願えますでしょうか?」
「む。確かにニッポン国なのだな。承知した。国王から貴殿等を王宮に連れてくるよう命令されている。私は近衛騎士団長のモンテヴァーゴである。我々に同行してもらおう。」
外務省篠原と内調高田、それに自衛隊の鐘崎三佐が城に向かっている間US-2の中では、ドローンの準備が進められていた。先程旋回しなから地形を確認し、島々の中でも採掘と精製施設がある島を既に特定していたので、そこまでのコースを設定していたのだ。ドローンは島の近くまでは定めたコースで飛んで行き、目標の場所で手動運転に切り替えて、見たい場所を細かく見る予定だ。採掘の規模、投入している人員、精製施設のレベル等々。出来うるならば、埋蔵量まで調べたい所だが、ドローンでは無理だ。今、出来る事をやるしかない。
王宮では、ファーノIV世の前に、日本国外交団の一団が平伏していた。
「さて、貴殿らはニッポン国から来たという。我がヴォートランは、ニッポン国との交渉は我が弟フィリポに任せておった筈だが、何故に我ら王国の首都に来た。その訳は?」
高田は平伏しながら答える。
「我々日本国は王弟フィリポ様と交渉をしておりました。我々の調査活動により貴国にも飛行技術がある事を確認しました。ところが王弟フィリポ様に確認しようにも、どうやらご存知無い様子でした。我々は貴国に提供出来る様々な技術があります。それをご存知無い方に提供するよりも、有意義にご活用頂ける方に、この情報を届けたく思い、ここに参った次第に御座います。」
「なんと!あれら飛行機械の技術提供をしてくれると?…無論タダではあるまい?」
高田はにこやかに答え始めた。