2_26.レーヌでの邂逅
特殊作戦団の居残り組フーベルトス中尉が命令を受け、乗り込んだ救出用の偽装漁船がレーヌに入港したのは26日だった。レーヌの辺りは戦争の気配も無く、港ではガルディシア人を排斥する様な状況も無かった。まず船員は漁船に積んだ魚を荷揚げして、市場に流した。
次に、街に出て情報を探った。
だがアルスランから来たガルディシア人の情報は何も無かった。つまり、彼らは未だここレーヌまでは来ていない。そこで3日待った上で彼らが来なかった場合、こちらからアルスラン方面に行くか、それとも駅馬車に手紙を託すか、の選択だろう。
特殊作戦団の潜入ルールとして、連絡が途絶えたら即時撤収、がある。これは連絡が途絶えた理由としては連絡員が捕まったか、殺されたか、の二択がほとんどだが、殺された場合は未だ良いとして、捕まった場合は情報が漏れた事が前提で考える。そうすると、現在潜んでいる場所や
名前等が漏れている、と思うべきだ。つまり、潜入場所に居続けて良い事は一つも無い。
彼ら偽装漁船の救出チームもそこら辺りは心得ている為、現時点で彼らがアルスランに居るとは思えなかった。そして彼らとガルディシアを結ぶ連絡要員としてホルツ特殊作戦団が居たが、既に壊滅している。という事はエルメ方面は警戒が厚い、という判断になる。彼らがまだ生きていて、脱出を狙うならレーヌだろう。今の時期はそこしか脱出ルートは無い、と考えてのレーヌ入港だ。
だが…流石に3日目も音沙汰が無い。
このままレーヌに居続けたら、逆にこっちが疑われる。この街は何時もの如く平穏だ。だが、いつ何時に警戒体制になるか分かったものではない。そこで一旦港を出て漁をした後に、もう一度戻る事とした。その下準備として、レーヌの街にある全ての宿に手紙を渡した。
「女将さん、俺の知り合いが近々ここに来る予定なんだ。お手数なんだが、そいつにこの手紙を渡してやってくんねえかな?何、アルスランから来る筈だから、来た時に渡してくれ。名前はブルー、だったかな。そんなような名前だ。頼めるかな? あ、礼は勿論出すぜ。」
「何だい、そんな面倒臭い事…ってあんた、手紙渡すだけでこんなにくれるのかい?よっしゃ、あたしに任せときな。」
「おう、頼むよ。」
手紙の中身は見られても良いように暗号文で書いた。
普通に読めば、ただの"元気か?"の挨拶みたいなもんだ。アルスランからの距離を考えれば、船を探す為の拠点として、この街で一泊位はするだろう。そこで手紙が渡れば良い。
そして、4日目の夜。
アルスランからの駅馬車がレーヌに到着した。既に救出船のフーベルトス中尉は、漁から戻り宿に泊まっていた。その宿に、彼を訪ねる者が来た。
「おう居たいた!フーベルトス!久しぶりだな!」
「あっ、ブルーロさん!お元気でしたか!久しぶりでした、会えましたね!他の方々は?」
「それがな。ちょっとあっちで話せるか?」
この宿は1階がカウンターがあるが、このカウンターは酒場と兼用で、夜には宿というよりは完全に酒場となっている。この酒場の隅のテーブルをブルーロは指差した。ブルーロは宿の女将に声を掛けて、奥のテーブルへと移動した。
「後からもう一人来るんで、席を用意してもらえるかい?」
「ああ、いいよ。勝手に椅子をもっていきな!」
「それとエールを2杯先にくれ。さて。どこから話したら良いかな…」
「ホルツ達の件は?」
「何があったのかは知らないが、連絡が来ない時点で捕縛されたと判断した。あいつらどうなったんだ?」
「エルメの騎兵に捕まって全員自害しました。」
「そうか…どっちにしろ、俺達も余り良い報告じゃない。今、ここに居るのは俺とオットーの二人だけだ。他は全員散り散りになった。生きているかどうかさえ分からん。」
「というと潜入がバレて追っ手が掛かっているとか?」
「多分…俺達が今ここに居るのも、偶然に助けられた。だが、あいつらにそれ程の幸運が訪れているかどうか…俺達がアルスランを脱出したのは24日夜だ。だが次の日から、森のバケモノに目を付けられちまって、只管森の中を逃げ回った。結果としてバケモノに4人喰われた。最後に喰われたのはフランツだったかな。その瞬間に皆バラバラに逃げた。あとはバラで逃げた先頭が俺達だけだった、って話よ。」
「え、バケモノ…っすか?」
「おうよ、あんなの見た事無いぞ。人から人に乗り移るんだ。乗り移られた奴は、そのバケモノになる。お、オットーが来たぞ。おい、こっちだ!!」
「どもどもお待たせしました。おっ、久しぶりですね、フ-ベルトスさん!お元気でしたか?」
「いや久しぶりだよ、オットー。元気そうで良かった。」
そのまま深夜まで三人は話し込んだ。今後の方針としては、既に追っ手がかかった以上、ここに滞在するのも危険、という判断で明日の朝イチでガルディシアに出航する事となった。




