大切な人がどうでもよくなって、関心の無かった人が大切な人になった
俺達はID入力の待機のため、画面とにらめっこをする。五分ほどの雑談の後、「は〜いでは皆さん、対戦よろしくお願いします!」というようなことを言って、画面にIDが表示された。「対戦」の言葉が真由美の口から発せられるまで、シオリちゃんは暇だったのか真由美のツインテールヘアーに黒いマスクをつけた目つきの悪い顔立ちをスケッチしていた。うーん、五分で描いたと思えないくらい人相の悪さと性格のクソさがよく表現できているな。9億点とさせて頂きます。
作戦通り、画面には「えるえるvsまゆりん」という表示がされた。まあ物理的に方向キーは一人だとこんな早く動かないからな。チートとか使ってない限りは俺達が入室し続けることだろう。
「それではえるえるさん、対戦よろしくお願いします!わぁ!かわいいキャラですねぇ〜」
まゆりんとやらはこいつのえげつなさを理解できていないようだ。もう俺はこいつに負け越してるぞ。配信での勝率が七割くらいのお前が勝てるわけねえだろ。
試合が始まると、計画通りえるえるは左後方にハイジャンプし、くまさんを展開する。それを追ったまゆりんが普通にくまさんに被弾した。ああ、普通はそうなるのか。飛び道具だと思わないもんな、あれ。
結局まゆりんはえるえるの展開する穴熊を崩すことができず、本体のかわいいもこもこしたキャラに指一本振れることもできずに敗北した。そういえばアイツの相手は普通にプリセット使ったインファイターか、よくてネット上で強いって言われてた配布データだったもんな。硬派格ゲー脳になって、頭でっかちになってしまったのかもしれん。
「負けちゃいましたね、まあこれは仕方ない、と。仕方ないんです、はい。勝率99.9%がここに来るのはですね、初狩りもいいところですよ…あんな個性的な子の相手って、誰が出来るんですかね。調整前のぶっ壊れたみゅーさんみたいですね、あれ」
そういえば相手に勝率が表示されるシステムだったな。隠しておくんだった。
まゆりんは自分の敗因を分析することなく、次のバトルに移ろうとした。そうはさせねえぞ。俺達はIDが表示された瞬間、また練習した通りに二人がかりでIDを入力する。
またしては、えるえるvsまゆりんという文字が画面に踊る。
「あ、あれ~?同じ人は一つの配信で一回までって、言わな、書きませんでしたっけ?」
言ってもないし書いてもないぞ。お前の配信、挑戦者が途切れたり途切れなかったりするからそういうルール無いんだろうが。これが同時接続10000人を越えるヨウツーバーとかなら、念入りに部屋を作るんだろうが…
「あの、これもう一回やるんですか?なんかこう、ネット対戦でもも~うちょっと強い人、居た気がするんですけど…」
「まだまゆりんは本調子じゃないんだろう。気を抜くなよ」
そうしてまゆりんは自分の敗因を分析していなかったからか、さっきと全く同じような負け方をした。途中からまゆりんは全てを諦めたような動きになり、くまさんが連続ヒットすることでコンボを繋いでいた。画面の上のイケメン君は、宙に浮き上がりながらみるみる体力ゲージを削られていく。くまさんがあんな元気そうに暴れてる所初めて見たぞ。お前それでよく格ゲーメインなんて言ってられるな。
「う~ん、つまんない勝負でした。レオジさん、今度はお互い全然違うキャラ作って、それで対戦して…ひゃあ!?」
ガシァアアアァン!!
配信用のPCに、まゆりんのコントローラーが命中したらしい。お前沸点低すぎだろ。配信の音が途切れ途切れになり、棒立ちのイケメンの立ち絵が画面の上で出番を待っている。
いや、お前それ、俺が買ったノートPCと俺が買ったマイクと俺が買ったキャプチャソフトだろ。ゲーム本体とソフトも、俺の200万から出して買ったんだろう。ハァ…手切れ金としては高すぎる。
「…つまんない勝負に巻き込んで、すまんな。よし、俺の本体も持ってくるから、二人でもう1キャラ、どっちが強くていいデザインになるか、勝負だ!」
「はい!望むところです」
俺は真由美に対して完全に幻滅したことで、むしろ完全に忘れ去ることが出来た。そして、俺には目の前の超絶美少女がいる。偶然、本当に偶然出来た関係を、大事にしよう。この関係は、すごく壊れやすいものなんだ。絶対そうだ。
…守って、やらなきゃな。そのためには、就活、頑張らねえと。ブラック企業に入っちまったが最後、シオリちゃんとの時間はほとんどなくなってしまう。
俺は先立つ就活への不安を消し去るように、シオリちゃんとのキャラメイクに没頭した…
一応これで完結の予定でした。気が向いたら続きを書こうと思います。
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