フラれた
今日、彼女にフられた。
理由は、簡単だ。今まで月収32万とそこそこ稼いでいた俺が、無職になったからだ。
金の切れ目が縁の切れ目とはよく言ったもので、今まで私が管理すると言って持っていた200万の貯金を、根こそぎ持っていかれてしまった。この野郎、これから俺は手元にある2万円で職を探さなきゃならんのだぞ。
とはいえ俺はキャリアも経験もある、花も恥らう27歳。エンジニアとしての経験でまだまだやっていけるはずだ…金のことしか考えてない女のことなど、今は忘れよう。
忘れよう。
忘れ………うう…………
とりあえず、一発手淫をした。後味は最悪だが、若干すっきりした気持ちで、転職サイトを眺める。
俺が勤めていた会社は、ゲーム会社の下請けの下請けみたいなところだ。このご時世なら儲かるはずなのだが、上が崩れると全てが崩れるというか、元請けのディレクターが出した企画のセンスがてんでダメで、その被害を俺達下請けが被った形になる。そして俺達のしがない下請け会社のプログラマーの人員削減という形になり、俺もそれに巻き込まれた形だ。
えー、プログラマー募集、プログラマー募集っと…お、ここ良さそうだぞ。年収600万可能…ただ、入ってみないことにはわからないな。経験ありってことをアピールしないとな。
うーん…
とりあえず、5社くらいにあたりをつけて、応募した。
後日、2社からいい感じの返事が来て、俺は面接の準備に追われることとなった。履歴書を書くのも5年ぶりくらいだ。思えば、プログラマーをやっていた時は案件が詰まっていたときは死ぬほど忙しかったが、そうでもないときは適当なプログラムを組んで遊んでいても誰も文句は言わなかったので、気楽なものであった。この就活が終われば俺は、また高等遊民としての生活を……まあ、人生の半分くらいはエンジョイできる。そう思うと、やる気が出てきた。
俺は履歴書と面接で聞かれるであろう質問の答えの準備を一通り終えると、一番の趣味である格ゲーを起動する。新作の、"スキル"という飛び道具や武器を駆使して戦う、カスタム式の自分だけのファイターを戦わせる、やりがいがありそうなやつだ。俺"達"はその「スキリングファイター VS」をずっと楽しみにしていて、彼女とも一緒に遊ぼうって、約束して、たんだけど、な…約束、してたんだけどな…
やる前から悪い思い出が詰まってて、このゲームの印象が勝手に最悪になっている。俺はゲームを作る側なので、理不尽な理由でゲームを嫌いになられるとキレそうになるのだ。俺はそんな風にはなってはならない。
……よし。スキルの構成は決まっている。飛び道具で、ネチネチ攻撃してやるやつだ。
そういうキャラは、相手が嫌がる。ストレス発散に丁度いい。俺はまず「スキルポイント」を稼ぐため、一人用の「ストーリーモード」を、始めるのだった。
作業感があってつまらないが……これも、ストレス発散のためだ。頑張ろう。
そうしてその夜は、そのストーリーモードをやるだけで2時になっていたので、明日の面接に備え俺は寝ることにした。
ハァ……この就活という苦労が終われば、俺はこの格ゲーで無双……とまではいかないけど、顔も知らないやつにネチネチ嫌がらせをすることができる。人が苦しんでるさまを見るのは、やっぱり格ゲーで一番楽しい瞬間だ。アピールを連打してやって、相手の動きがめちゃくちゃになったときなど最高だ。
俺は彼女にフラれた日が人生最悪の日で、これからは良くなっていく一方だということを願いながら、ベッドに体を預けた。