おしえて クルリン〜鉄棒の練習をするお姉ちゃんを応援する小さなアイちゃんの素敵なファンタジー
カナカナ カナカナ カナカナ
どこかでひぐらしがないています。夕やけに赤くそまった空を、鳥たちが のんびり とんでいきます。
・・・・いち にの それっ・・・
・・・いち にいの それっ・・・
しーんとしずまりかえった公園に、女の子の声がびびいていました。
kiko kiko kiko
そこに、小さな女の子がやってきました。
ようちえんにかよっている アイちゃんです。
もうすぐ、夜ごはんができるので、三輪車にのって、おねえちゃんのケイちゃんをよびにきたのです。
「ケイちゃん、ごはんだよ」
鉄ぼうの そばまできていいました。
「ちょっとまって。いち にの それっ!」
ケイちゃんは息をきらしながら、足をふりあげました。
さかあがりの練習です。学校からかえってきてから、おやつも食べずに、ずっとしているのです。
「ねえ、かえろう」
だんだん暗くなる空を見あげながら、アイちゃんはいいました。
「ほんと、もうちょっとなの。いち にの それっ!」
ケイちゃんは また足をふりあげました。
ゴチン!
いきおいあまって すねをぶつけてしまいました。
いたそう・・
アイちゃんは、うめぼしを食べた時のように、顔をしわしわにしました。
「もう、やめよう」
「だめ、三年生でできないの、わたしだけなんだもの」
ケイちゃんの目には、なみだがうかんでいます。でも、鉄ぼうから、手をはなそうとはしません。
そしてまた 「それっ!」
だめです。足は高くあがるのに、どうしても、おしりが鉄ぼうをこえられません。
アイちゃんは、胸がくるしくなってきました。ケイちゃんの はあはあという息が うつってしまったようです。
kiko kiko
三輪車をすこしバックさせました。
「どうやったら、ケイちゃん、うまくできるんだろう」
おでこをツンツンつついたり、耳たぶをピタピタはじいたり、ほっぺをムギューとひっぱって考えました。
でも・・・どうしても いい方法は思いつきません。
「おねがい 神さま、おしえて」
しかたなく、神社のある山のほうにむかって、おいのりをしました。
と、そのとき
「ニャー、じれったいニャー」
どこからか、かすれた声がしました。
首をまわしてあちこち見ると、すべりだいの上にネコがいっぴきいました。ねむたそうにあくびをしています。
「いま、しゃべったのって、あなた?」
「そうニャと思ったから、聞いたんニャロ?」
たしかに、そのとおりでした。
でも、ネコがおしゃべりするなんて!
これはひょっとして、神さまがくれたチャンスかもしれません。
「ねえ、おしえて。どうやったら、さかあがりできるの?」
まじめな顔をして、ききました。
「そんニャン、かんたんニャ、クルリとまわるものに きけばいいニャー」
「え?クルリとまわるものに きくですって」
首をひねったアイちゃんでしたが、やがて頭のなかで、ピンポーンと音がなり、小さな電球が ピカリとひかりました。
「そうよ!それそれ。ありがとう、ネコさん」
「おれいは いらないニャー」
ネコは、すたっと地面にとびおりると、どこかに歩いていきました。
kiko kiko kiko
「そんで えーと・・・クルリとまわるものは、どこにあるかな」
アイちゃんは 公園をひとまわりする道にでました。
「あった あった」
見つけたのは、パン屋さんの屋根の上の風見鶏です。ときどき、気もちよさそうにクリンとまわっています。
「でも、おしゃべりしてくれるかな」
すこし まよったあとで、思いきって聞きました。
「おしえて、風見鶏さん、どうやったら そんなふうにまわれるの」
「クルッ クルッ 力をぬいて風にのって クルッ クルッ」
まるで、ハトのなきごえのような声でした。
「うんわかった、力をぬいて風にのってね。ありがとう」
「なにかあったら、また、ききにクルクル」
風見鶏は、ビュッとふいてきた風にいきおいよくまわり、むこうをむいて おしりをふりました。
「力をぬくのが大切なのね。でも、こっちのひくいところに、風なんてふいてない。ようし、ほかのものにも きいてみようっと」
kiko kiko kiko
アイちゃんは、また さがしはじめました。
「えーと、クルリとまわるものはと・・あった」
床屋さんのドアのまえで、大きなつつがまわっていました。赤と青の線が、空にむかっておいかけっこしているみたいです。
「えーと、名まえはわからないけど、おしえて。どうやったら、そんなふうにまわれるの」
「カタコトコト、ぼくの名まえはサインポールだコトコト。ぼくはモーターのしんにからだをくっつけて、まわっているのだコトコト」
それは、ダンボール箱を こつこつとたたいたような声をだしました。
「うんわかった、モーターのしんにからだをくっつけてね。ありがとう」
「おやすいコト・・」
とちゅうまで話したサインポールでしたが、店から出てきたチョビひげの床屋さんに、スイッチをきられてコトリととまりました。
「モーターのしんに、からだをくっつけるのが大切なのね。
でも、鉄ぼうにモーターなんてついてない。ほかのものにもきいてみようっと」
kiko kiko kiko
アイちゃんは、また、さがしはじめました。
「えーと、クルリとまわるものはと・・・」
首をのばして、あちこちさがしました。でも、もう どこにもありません。
がっかりして下を見ると、
「あったあった、こんなところに」
足をうごかしながら、じぶんがのっている三輪車のタイヤにききました。
「おしえて、タイヤさん。どうやったらそんなふうにまわれるの」
「キコキコ、ちかくのものに はじめにキコキコ。
ぼくらは、アイちゃんがリズムよくこいでくれるから まわれるんだキコキコ」
三つのタイヤが、なかよくきしみながら、こたえました。
「うんわかった、リズムよくね。ありがとう」
「いつでも、えんりょせずに、ぼくらにキコキコ」
「リズムよくが大切なのね。
それに 力をぬいて、からだをくっつけて・・。なんだか、わかったみたい」
kiko! kiko!
kiko! kiko!
アイちゃんは ふんふんとうなずきながら、鉄ぼうのそばにもどってきました。
「あのね、ケイちゃん」
みんなからきいたことを、おしえてあげようとしたときでした、
クルリン!
目のまえで、ケイちゃんのからだがまわりました。おしりは鉄ぼうをこえて、またこっちをむいています。
「できた!」
小さくさけんだケイちゃんは、大きく息をすってから、もういちど、
「いち、にの、それっ!」
クルリン またできました。
クルリン クルリン・・
きちんとリズムをつけて、力をぬいて、鉄ぼうにからだをくっつけてまわっています。
「わたし、さかあがり、できるようになった」
鉄ぼうから手をはなして、アイちゃんのところに かけよってきました。
「キコッ キコッて、三輪車をこぐ音がきこえたら、きゅうにできるようになったの」
いいながら、ケイちゃんは、ぎゅっとアイちゃんをだきしめました。
「あのね、わたし、神さまにおねがいして、みんなにきいたの、えーと、あへ おはー」
アイちゃんは説明しようとしましたが、うまくできませんでした。
だいすきなおねえちゃんに、チュッチュッとキスをされて、くすぐったくて、くすぐったくて・・・
「おなかへっちゃった。夜ごはん、なに?」
「うーんと、スパゲッティ」
やっと、キスをやめてくれたケイちゃんに、アイちゃんはこたえました。
「それって、アイちゃんのだいこうぶつじゃない。じゃあ、はやくかえらなくちゃ」
「うん!」
三輪車のうしろに かた足をのせたケイちゃんが、ずんっと地面をけりました。
「うわー、はやい」
三輪車は、いきおいよく走りはじめました。
公園をでた道のさきに、エプロンをはずしたお母さんが見えました。
アイちゃんは思いきり手をふりました。
「あのね、ケイちゃん さかあがり できたんだよ!それはね・・」
・・耳をすませば いつも だれかさんとつながっている・・
空にぽっかりとうかんだ まるい月が、女の子たちの えがおをうつしながら、そっとつぶやきました。
おわり