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02話 出会い(ヒロイン主観による)

  



 「そう言えば、神戸さんが全部の部活に体験入部したってほんとかな?」


 後で聞いた話だが本人曰く、本当らしい。

 運動部に行けばその高い運動能力を買われ、文学部に行けばその類稀なる価値観を買われて上級生から勧誘を受けていた。

 特に熱心に神戸を勧誘していたのが文学部でこれはクラスの皆も知っている。神戸が試しに書いた小説を文学部の部長が気に入ったらしく、何度か一年の教室にまで勧誘に来ていた。

 一体神戸はどんなもんを書いたのか。

 まあしかし、終に神戸が何かしらの部活に入ることは無かった。

 

 勇は道端に落ちてた石を小学生のように蹴り歩いて楽しんでいる。


 「まあでも私達からしたらもう慣れたものよね、ハル。」


 「まあ、神戸唯の奇行がいちいち話題に登ったりしないくらいには慣れてたな。」


 本日は遠足という名の強制ウォーキングイベントの日だ。近くの神社までの十キロの道のりを大名行列のように全校生徒が列を為して練り歩くのだ。

 ちなみに三年生の一組から順にクラス単位で学校を発って、最後が一年八組となる。

 

 この行事は毎年、新年度が開始して二週間経った頃に行われる。しかし、特に新入生にとっては、そんな短期間でクラスの人間関係が出来上がる訳もなく、クラスという集団は学校を出た途端に崩れ去り、新たに出身中学毎の小集団が形成されるのは毎年の事らしい。

 クラスの親睦を図るための行事が台無しである。


 かく言う俺も、他に東中出身の生徒が同じクラスにいない広田あかねと歩いている。

 秀と勇は最初の方は併泳魚のように俺達の周りをあっちにうろうろこっちにうろうろ歩いていたのだが、途中でぬるっと会話に入ってきた後はこうして一緒に歩いていた。


 「ちょっと──、

 ちょっと、ハル!」


 「ん、何だ?」


 「さっきから呼んでるじゃん。」


 「すまん、ぼーっとしてた。」


 「なんかハル最近冷たいなぁ。」


 その一言に勇が素早く反応した。

 ラリアットを仕掛けるような勢いで俺の首を後ろに引き寄せ、俺に耳打ちする。


 「おい。せっかくあかねちゃんがお前みたいなのに話しかけてくれてるんだ、ちゃんと相手しやがれ。」


 ひどい言われ様だが客観的に見ればそう思えるのだろう。S級美少女とも言えるあかねに対して俺は冴えない帰宅部男子だ。

 自分でも釣り合いが取れているとは欠片も思わないがなんでそんな事を他人に言われなきゃならんのだ。


 「すまん、それでなんだって?」


 「どうして部活に入らなかったの。」


 「いや、まあ高校は部活はいいかなーって。中学の部活が十分キツかったし。」


 「ハルは中学の時何部だったの?」


 秀が素朴な疑問を


 「ソフトテニス。ちなみに神戸もソフトテニスだったぞ。」


 「神戸さん、ソフトテニスもうまかったのよ。」


 あかねが情報を補足してくれる。


 「へぇ、あの神戸さんが部活か、あんまり想像できないな。」


 まあ、中学の時は強制的に一人一つ入らされたからな。


 「広田さんは何部だったの?」


 勇が珍しく大人しい口調をしている。あかね相手は緊張するのだろうか。


 「私はバスケ部だったよ。ちなみに高校もバスケ部。学校で試合する時はぜひ応援に来てね。」


 勇と透がは食い気味で頷く。

 まあ、この二人も帰宅部なので時間ならいくらでもあるのだろう。


 

 さて、そんな取り留めもない話をしている内に目的地の神社に到着し、自由行動の時間が与えられた。俺達のクラスは担任の提案でクラス全員でお参りに行く運びとなった。 


 担任が代表として上から垂れた大きな紐を振ってカラカラと鈴を鳴らす。

 俺は周りのクラスメイトと同じようにこの神社特有の参拝法である二礼四拍手一礼をする。

 

 顔をあげた所で、隣で俺の方をまじまじと見ている西野梨々花と目が合った。

 西野さんから視線をそらす気配はない。俺の方が恥ずかしくなってすこし視線の先をずらす。


 「西野さん、俺の顔になんかついてる?」


 その言葉ではっとした西野さんは頭をさげる。


 「ごめん。いや、勇からハルくんは神様を信じてないって聞いてたから、普通に参拝してたのが意外で。」

 

 勇め、漏らしやがったな。まあ秘密にしろなんて行ってないから別にいいけど。

 

 「いいよいいよ。

 確かに俺は神様とかってあんまり信じてないんだ。奇跡も運命も人間の努力の結果だと思っている。

 まあ、しかしあれだよ。日本人って別に仏教徒じゃなくても家の仏壇には手を合わせるだろ。これもそれと同じようなもんだよ。」


 「なるほど、わかった。」


 ほんとに理解したのだろうか。しかしこんなに真っ直ぐな笑顔で返されるとそう指摘する訳にもいかない。


 勇がこの前うちのクラスで一番可愛いのは西野さんだと言っていたのだが今なら分からんでもない。確かにかわいい。


 さてこの会話をひっそりと聞いてるやつが他にもいた。神戸唯である。

 きっと俺の地獄は、間接的には、この会話から始まっていたのかもしれない。


 


 別日、早速席替えが行われた。

 百均のカゴに入れられた四つ折の紙を主席順で引いた結果、俺は窓際後方二番目という好ポジションを獲得した。


 最後尾というのは響きはいいが教師が回ってくる事も多いか。実際の最適解は後方二番目だ、というのが九年間の義務教育期間で俺が導き出した結論だ。


そう、だからこれはかなりの幸運と言えるはず、なのだが………


 一体俺が何をしたというのだ。


 神戸唯の憮然とした視線が俺を背後から突き刺しているきがしてならない。しかし、ちらと振り返った時は確かにその憮然とした、退屈そうな視線でこちらを見ていたような気がしたのだ。


 最後尾だって悪い席じゃないだろうに、何がそんなに面白くないんだ。


 上げて落とすとはこの事を言うのだろう、最高の日が一転、最悪の日となった。




 俺が神戸唯と初めて会話らしい会話を交わしたのはこの数日後だったと思う。


 授業の中で前後の席でペアを作る事になり、俺のペアが唯となったのだ。

 先生はペア活動になっていなくても仕方ないと理解してくれていたのだろう、終始無言の俺達に何も言わなかった。

 しかし、周りが楽しく会話をしている中で自分達だけ何も言葉を交わさない状況というのは凡人の俺には少々厳しかった。

 だから自分の気を紛らわす程度のつもりで声をかけてしまった。


 「なあ、今日の朝の魔法陣はどんな効果があるんだ?」


 その瞬間、かっと唯の頬が朱に染まった。

 唯は鋭い目付きでこちらを睨み、俺の胸ぐらを掴んで強引に引き寄せた。


 「忘れなさい、今すぐ、忘れなさい!」


  きっ、と俺を睨み上げる。

 しかし俺を睨みあげるその瞳は次第に潤み、最後にはゆらゆらと光を反射した。


 この│瞬間とき、俺は不覚にも神戸唯をかわいいと思ってしまった。


 俺がぼうっと唯を見ていると、唯は掴んでいた手を、突き放すように離した。


 「あんたは知らないだろうけど、私は高校に入って変わったの。いい?絶対、誰にも言うんじゃないわよ。」


 中学のあんたも知ってるけどな、正直何も変わってないぞ。

 てかこいつ、やっぱり俺の事を認識してないな。


 「そうか、ところで俺の名前は知ってるのか?」


 すぅっと唯の視線が横にずれる。


 ぼそっと「……知らない。」と呟く。


 「出身中学は?」


 「知ってるわけないでしょ。」


 名前も知らない奴の出身中学なんて知ってるわけないだろって顔してやがる。


 「俺は東中学校出身だ。お前と一緒の東中だ。

 ちなみに小学校も一緒だからな。」


 その言葉に驚きでぱっと目を見開く。


 「はっ!?じゃあなに。あんた中学の時の私を知ってるの!?。

 もっと早く言いなさいよね。キャラ変えて相手して損したわ。」


 一体どこをどうキャラを変えてたんだ。


 「そんで、お前は中学の時とどう違うんだ。」


 唯の視線が俺から微妙にずれる。


 「………。」


 無視かよ。と思ったのだが、絶妙なタイミングで教師のペア活動終了の声が入った。

 そのせいで、唯が俺を無視したのか、それともペア活動の終わりを察知して会話を切ったのか、客観的には判断しかねる結果となった。




 このやり取りをした日から、土日を挟んで三日後。週明け初日に俺達はまた授業でペアを組む事になった。


 ペア活動中の教室で局所的に無言が続いている中、最初に口を開いたのは唯だった。


 「この前、私のどこが変わったのかって聞いたでしょ。」


 こいつがこの前の会話を覚えていただと。。

 あの時は別に無視した訳ではなかったのか。


 「私、高校に入ったら中学の時みたいな事はやめて、他に私が楽しいと思えるような事をやろうと思ったの。」


 おそらく「中学の時みたいな事」、というのは、古代遺跡で変な儀式をしたり、教室中に変なお札を貼ったり、神に反逆を試みたりすることを言っているのだろう。


 「それで、一通りに全部の部活に体験入部をして、市内にある社会人サークルにも足を運んでみたの。でも結局、面白いものなんて一つもなかったわ。

 それで高校に入ってから退屈で退屈で仕方なくて。この間は、つい綺麗な黒板を見て描きたくなっちゃったのよ。」


 最後はどこか自嘲的だった。

 

 「やっぱり、あなたもヒーローや魔法使いを信じてる、なんて馬鹿げてると思う?」


 その突拍子もない問に俺は逡巡する。


 「日本人のほとんどは『神様はいると思うか。』と聞かれると科学的根拠もないのに『いると思う。』と答えるんだそうた。でもそれを馬鹿げてるって笑う奴はいない。

 だったら、ヒーローや魔法使いを信じるのも馬鹿げてなんか無い、と俺は思うぞ。」


 唯は誰でもいいから「馬鹿げてなんかない」と言われたかったのだろう。

 今回は適当な理屈を│ねて欲しいの言葉をかけることにした。

 まあ別に唯が中学の頃のように戻っても、今までのように俺にはなんの害もないだろうしな。


 だが、この考えが間違っていたのだと言うことを俺はこれから幾度となく痛感することになる。


 


 その日を境に、神戸は何やら忙しそうに動き回るようになった。

 朝は俺が乗る電車より何本か(と言っても俺が乗るのより早い電車は二本しかないのだが)早い電車に乗って学校に行き、なのに教室に姿を現すのは朝礼ギリギリだったり。

 昼休みは始まるや否や教室を飛び出し、放課後は鞄を置いたまま姿を消すようになった。

 しかし、神戸は、だからといって中学の時のような問題行動を起こす訳でもなかった。


 そんな平和な日々が続き、四月の終わりを告げるGWが到来し、瞬く間に去っていった。





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