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99.かつての敵と酒を飲む夜(特になにもない)

 ある意味、国王の独断ともいえる“ドアーズ”への謁見に、ニューリオニアはめちゃくちゃ混乱した。


 まず、勝手に謁見許可を出された宰相の周囲がドタバタし始めた。

 国王に謁見を求める誓願者は数多く、その日程の調整に日々、頭を悩ます宰相である。

 それが、もう予定を入れたから調整せよ、などと言われては悩む頭がさらにねじりあげられた気分になるのは仕方のないことだった。


 次に混乱したのは、王国騎士団である。

 近衛隊としての側面も持つ騎士団は、この新たな招待客の扱いに頭を悩ますことになる。

 十中八九、招待客ドアーズが国王に危害を加えることはない。

 それくらいは、いくらなんでも心得ているとは思っている。

 ただ、国王の人となりを考えると余計な、しなくてもいい、面倒な、挑発をする可能性がなきにしもあらずなのだ。

 この王のニューリオニアへの遷都によってどれだけ問題が起こったか。

 火消しに奔走していた王国騎士団だからこそ知っている。

 冒険者ギルド、海運ギルド、商工組合、ほかいろいろな団体を敵に回して、よく王国が保っていたといえるほどだ。

 逆に言えば、魔王軍がいたから国として残ったとも言える。

 まあ、遷都の原因もまた魔王軍だが。

 とにかく、騎士団は最上級の警戒をもって国王の警護に当たることにした。

 十中八九ないが、万が一がありえる。

 その万が一の時に、“あれ”を止められるのは団長と副団長だけなのだ。

 ちなみに本人たちは無理です、と言っていた。


 このように、様々な混乱を引き起こしながらドアーズのニューリオニア来訪が決まっていったのだった。



 ニューリオニア訪問を前に、リヴィとナギとメリジェーヌは苦い顔をしていた。

 ここは冒険者ギルド二階の講義室である。

 ギルドの資料室に併設された演台と長机が置かれたこの部屋は、ある一つの目的のため使われていた。

 それは、冒険者昇級試験(筆記)のためである。


 本来、冒険者のランクはこなした依頼の数、本人の魔法の技能、戦闘技能などで上昇していくものだ。

 なので、俺などは戦闘と魔法の分野、それに達成した依頼の難易度などで一級冒険者として認められている。

 数年前に、メルティリアがドラゴン討伐によって昇級すると言われていたのは、戦闘面と依頼の難易度が一級冒険者にふさわしいほど高かったからだ。

 最初から二級とかいうむちゃくちゃなことをされた俺とは違って、本当は昇級するのに年単位かかるもの。

 それくらいかかるのが普通。


 なのだが、ここで一つ問題が起こった。

 王宮への入場資格、である。

 王宮へは王族、貴族、騎士団、各ギルド長、のみの入場が許可されている。

 一般庶民は入ることができないのだ。


 ただし、冒険者の場合、三級以上であればギルド長の推薦で入場できる、となっている。


 ギルド長のユグは快く了承したが、問題は例の三人だ。

 一級の俺、二級のポーザ、三級のバルカーはいいのだが。

 四級のリヴィ、冒険者になったばかりで五級のナギとメリジェーヌは入場できないことになってしまった。

 しかし、国王からの招待を断ることはできないため、何らかの手段を取る必要に迫られたのだった。


「それで筆記試験での昇級か」


「仕方なかろう?あの国王も無茶を言う」


 俺は過去問と資料が一緒になった冊子をめくりながら、ユグと話していた。

 なかなか実践的な問題も多く、これを完全に記憶していれば三級冒険者くらいならやっていけそうではある。

 というか、冒険者でなくても兵法を学ぶならかなり勉強になる書物になっている。

 表紙には『大丈夫!ユグドーラスの参考書だよ!』と書いてある。

 本当に大丈夫か?


 まあ中身としては、例えば分隊規模の小鬼ゴブリンの集団と遭遇した場合の対処についてなどが書かれている。

 自パーティは剣士、武道家、弓使い、障壁魔法の使える神官見習い。

 その状況で、どう事態を打開するかを求められている。

 俺が指揮するなら、剣士をワントップにし、武道家で撹乱、弓使いで剣士をサポートし、神官見習いが適宜、障壁と回復で被害拡大を防止、だな。

 剣士の実力にもよるが、十体くらいの小鬼ゴブリンならどうにかなるだろう。


 正解も同じだった。

 ちなみに正解の別パターンとして、森の奥から現れた魔王が全てを倒す、というのがあった。

 まったくわけのわからない答えだ。


 後からユグに聞いたら、実際にそのパターンになったことがあったらしい。

 どういう状況だったのか。

 その冒険者たちのその後が少し心配になったのは秘密だ。


 とまあ、そういう問題の詰め合わせを見て、リヴィたちは苦しそうに唸っているのだった。


「本当に大丈夫なんだろうな?」


 これで落第とかになったら、無理をさせた意味がなくなる。


「さてのう。……その時はその時じゃて」


「諦めるなよ?」


「諦めんよ。実際、いい機会ではある」


「ん?」


「リヴィの実力はすでに三級いちにんまえと見て間違いない。ナギ君も同様、メリジェーヌ殿についてはもう冒険者の枠に入れるのもおかしい」


「色々と同感だ」


「かといってあまりに早く昇級させるのも他の冒険者とのバランスを欠くゆえな」


「ギルド長は大変だ、という話か?」


「そうじゃとも。大変なんじゃ。自分の研究にいそしんでいたころが懐かしいわい」


「そのわりにはこんな参考書まで作ってノリノリじゃないか」


 ユグはにやりと笑うと、こう答えた。


「やるときめたら、楽しくやらねばのう」


 まあ、それも同感だ。


 とにかく、この参考書は俺の教えたことも大分含まれているから、今までのことを覚えていたら試験も余裕だろう。


 たぶん。


 勉強を続ける三人の邪魔になる(と目線でユグが言ってい)ので、俺は下に降りて、休憩所にいることにした。


 今日はバルカーとポーザは二人で簡単な依頼をこなしにいったので、一人である。


 こういう時は、妙な遭遇があるものだが……。


 その時、ギルドに入ってきた一人の男と目が合う。

 なんの変哲もない革鎧の戦士。

 武器も飾り気のない戦斧。

 強そうな気配もない。

 流れの冒険者、にしか見えない。

 実際、ギルドにたむろっている冒険者たちも気にも止めないし、受付の人たちもちらっと見たくらいで後は通常業務をしている。


 しかし。


 戦士は俺に近付いてきた。


 そして、声をかけてくる。


「俺のことを覚えているな?」


「ああ」


 と俺は答えた。



 受付にいたマチさんに外に出ることと、仲間たちの勉強の後は自由解散ということを伝言してもらうように頼む。


 俺と戦士は近くの酒場に向かった。

 

「飲めるんだろ?」


「こんな昼間っからはないな」


 戦士は、聞かれたくない話をする時に使われる酒場に入る。

 よく、そんなところ知ってるな。


「昔はよく使っていたからな」


「昔、ね」


 席に座ると麦酒が二杯出される。

 その他は頼まないと誰も入ってこない。

 そういう店だからだ。


「魔王城以来か?暗黒騎士」


「そうだな。“黒土”」


 戦士、いや勇者一行の“黒土”と呼ばれた男、デルタリオスはニヤリと笑った。

 結果的に勇者が魔王を倒したあの戦いで、魔王城に侵入したのは四人。

 勇者、魔法使い、武道家、そして戦士だ。

 そして、目の前のデルタリオスこそ、その戦士だ。


「なぜ、ここにいるとは聞かん。貴様が人間に害をなしていないことは知っているからな」


 グビリ、と麦酒をあおる。


「あんたはなんでここに?」


「本格的な冬が来る前に南に行こうと思っていてな。ユグドーラスに挨拶に来た」


 同じく勇者一行の白魔導師ユグドーラスと彼は知り合い、あるいは戦友というやつだろうか。

 仲は悪くないのだろう。


「で、俺に何か用なのか?」


「……特にないな。既知の顔を見かけたから声をかけてみた、だけだ」


「なんだ。あの時の決着でもつけに来たかと内心不安だったんだがな」


「……お前が初めてだった」


「あん?」


「勇者が勝てなかった相手は」


 デルタリオスはしみじみと酒をあおりながら言った。

 いつの間にか麦酒は飲み終わり、蒸留酒になっている。

 いつたのんだ?


「勝てなかった、とは?」


「お前に、だ。俺と勇者が冒険者の先輩後輩として出会ってから、勝てなかったのはお前だけだ」


「負けなかっただけだ」


「それでもだ」


 それきり、デルタリオスは何も言わず酒を飲み続けたのだった。


 夜遅く帰った俺は、心配していたリヴィに怒られたことは他のみんなには内緒だ。

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