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98.日常から事件の予感

「接敵、黒野牛ブラックホーン。討伐目標です!」


 リヴィの声が雪原にひびく。


「よっしゃ、行くぞ!」


 バルカーが飛び出し、黒野牛ブラックホーンの注意を引く。

 前までは、そのまま殴りかかり、リヴィとかの魔法に巻き込まれるパターンだったが、連携を覚えつつある。


「私が足を止めますわ」


 ナギがそう言って魔法を発動。

 放ったのは“電撃鞭サンダーウィップ”。

 さほど攻撃力のない電撃系魔法だが、水分のある環境ではどこでも効果を発揮できる。

 なによりも、電撃系の付加効果である麻痺がつけられるのが大きい。

 俺の“暗黒ブラックアウト”と同じように使い勝手のいい魔法だ。


 目論見どおり、バルカーに誘導され“電撃鞭サンダーウィップ”の着弾点に足を踏み入れた黒野牛ブラックホーンは鋭い電撃に襲われ、体を硬直させる。


「今だ!」


 俺の号令に、メリジェーヌが突進。

 巨大な角を持つ牛の頭を殴り付ける。

 麻痺の効果から抜け出そうとしていた黒野牛ブラックホーンは殴られたショックでまた動きを止めた。


 意外なことにメリジェーヌは前衛アタッカーだった。

 本人いわく、魔法も使えるがこのあふれでる竜の力を使わずにしてなんとする、とのことだった。


火球ファイアボール!」


 使おうと思っただけで火球の魔法が使えるリヴィは、同時に四つの火球を発動し、それぞれ別の軌道をとりながら黒野牛ブラックホーンへ直撃させた。

 リヴィには火球の最高威力である火球ノヴァスフィアの使用を止めさせた。

 あれは威力が強すぎて、ドラゴンとかにしか有効にならない。

 消耗も激しいしな。

 それよりも、弱い威力でも複数展開したり、何かと組み合わせて効果的な使い方をした方がいいと考えたのだ。


「行け、ゴブさん!」


 ポーザが呼び出した小鬼ゴブリンを突撃させる。

 満身創痍の黒野牛ブラックホーンはせめて、小鬼ゴブリンだけでも倒さん、と突進してくる。


「これが獣の限界だよね」


 ポーザは突撃する黒野牛ブラックホーンの横を取ると、自身の持つ魔物操士の力を軽く発動する。

 本来なら魔物と対話し、仲魔に加わってほしいとお願いするための力だが、それを極弱で使うとどうなるか?

 答えは魔物の注意を一瞬引く、だけになる。


 その一瞬に、俺は踏み込む。

 太刀を鞘走らせ、黒野牛ブラックホーンの首を両断する。


 刀身についた血を払い、鞘に納める。


「生命反応は?」


「ありません、討伐完了です!」


 リヴィの声に、仲間たちから歓声があがる。


「よし、討伐報告用に角を切り取っていこう」


 リオニアスからニューリオニアに至る街道には、こういう野良モンスターがよく現れる。

 ニューリオニア側で街道警備隊をよこしてくれればいいのだが、ほとんど来ない。

 なので、俺たち冒険者の出番となる。


 それにしても、春ころは小鬼ゴブリンを倒して報酬の銀貨をどう割り振るか悩んでいたパーティがずいぶんと成長した。


 最初は俺とリヴィとバルカーだけだったのが、ポーザが加わり、ナギがこちらへ来て、メリジェーヌも加入した。

 入ってきたのがいずれも実力者だというのが大きいかもな。


「リーダー、討伐証明の切り取りしたよ!」


 ポーザが手際よく報告する。

 彼女は二級冒険者の資格持ちで、王国騎士団(裏)に入るまではフリーの冒険者だっただけあって、そういう知識は豊富だ。

 実力はあれど冒険者としては素人の俺たちには心強い。


「埋葬用の穴はどうだ?」


「大丈夫だぜ、師匠」


 雪の下に大きな穴をあけ、そこに黒野牛ブラックホーンの亡骸を埋める。

 どんなモンスターでもちゃんと弔うことで、不死アンデッド化を防げる。

 強いモンスターがアンデッドになることの危険性は、この間の事件で確認ずみだ。

 皆で手を合わせ、埋葬を終える。


「よし、帰るか」


「はーい」


 バルカーが先頭に立ち、それをポーザが追いかける。

 ナギとメリジェーヌがちょっとだけ距離をおいて歩き、俺とリヴィが最後尾だ。

 これがいつの間にか確立された“ドアーズ”の並び順だ。

 深い意味はないが、それぞれのそれぞれへの好感度が現れているようで興味深い。


 雪原を後にし、リオニアスへ向かう。

 これが“ドアーズ”の日常の風景だった。



 依頼遂行報告を行うと、受付嬢のマチさんが笑顔を向けて話しかけてきた。

 やはり、受付嬢は笑顔が素晴らしい女性のほうがいいな。

 荒んだ生活の冒険者でも心がなごむ。


「というわけで、ニューリオニアからドアーズの皆さんに招待状が届いています」


「招待状?」


「はい。国王陛下からですね」


「……何の用なんだ?」


「……普通、王室や貴族からの招待状は恭しく受け取って、厳かに中身を確かめるものですけどね」


「俺は王室や貴族に恩を受けた記憶はないからな」


 むしろ、迷惑をかけられたような気もするが。

 マチは苦笑いを浮かべて同意する。


「確かに、リオニアスの人でニューリオニアに恩を感じている人は少ないかもですね」


「だろう?」


 俺は受け取った書状を開く。


『ドアーズの活躍に国王陛下が歓心を示している。そのため陛下への謁見が許可されたので王宮へ参上するように。ロベルト・ベルルオーニ(簡略)』


「ロベルト・ベルルオーニ?」


「差出人はベルルオーニ伯爵ですか?妙ですね」


「このベルルオーニ伯爵がどうかしたのか?」


「普通この手の招待状って、宰相室から出るんですよね。国王陛下の謁見なんて、宰相の権限なんですから。でも、このベルルオーニ伯爵は王室の家宰で、それ以上の権限なんかないはずなんですけどね」


 妙に王室事情に詳しいマチ。

 というか、こういう知識がなければニューリオニアと仲のよくないリオニアスの冒険者ギルドで働くことができないのかもしれない。


「王様の私的な執事でしかないベルルオーニ伯爵が、独断で動く……はずはないな」


「ですね。ということは……」


「国王殿が俺たちを呼びつけたい、ということか」


「そういうことでしょうね」


 王様が政治の実権を握る宰相を通さずに、俺たちを呼びつける。

 それは、何かキナ臭いものを感じてしまう。


「いかないって選択肢は……?……ないか」


 マチをはじめとした受付嬢たちや、ギルド職員の信じられないものを見るような表情に、どうやら王様から呼びつけられていかない、というのはかなり非常識なことだと判断。

 その方針は忘れることにする。


 面倒なことになってきたな。


 国王からの呼び出し。

 うっすらとかいまみえる国王と宰相の距離感。


 ただこういう面倒なことは放っておくとさらに面倒になって手がつけられなくなる。

 関わってしまったら、面倒が解決するまで関与しないと面倒が増えていくのでやるしかない。


 それに、もしこれが魔王様からの呼び出しだったら、俺はノータイムで謁見しに行くはずだ。

 なるほど、相手の立場になって考えるというのは大切だな。

 俺が魔王様を尊敬するように、リオニア国民も国王を尊敬しているのかもしれない。

 それなら、俺の態度にみんなが唖然としたのもわかる気がする。


「わかった。招待されよう」


「よかったです。ギアさん、たまに考え方わからないところがありますから」


 とホッとした様子でマチさんが言った。


 ということで、俺たち“ドアーズ”はニューリオニアの王宮に招待されることになった。

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