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89.強き意志の炎の再生

「あー、やっぱりギアさんだ」


 第一声はリヴィである。


 リオン帝国の遺跡にあらわれたアンデッドらしき大型モンスターの調査に来たドアーズの面々は、そのモンスターと戦っている男を見て、ホッとするやら呆れるやらだった。


「まあ、そうですよね。あの方がドラゴン出現に来なければもっと別な何かと戦っていると考えるのが自然ですもの」


 ナギはやるべき仕事はすんだとばかりにくつろぎだした。


「ねー、バルカー。調査団の人に会いに行こうよ」


「だな。あれからどうなったんだろうな」


 ポーザとバルカーは遺跡を調査している人たちに話を聞きに行った。


「隊長だ!」


 協力者1である暗黒騎士アユーシは嬉しそうに、ギアの戦いを見ている。


「な、なんなのじゃ?なぜ、みんな戦闘態勢をやめるのじゃ?」


 一人やる気満々であった協力者2ことメリジェーヌは、ドアーズの行動に愕然とした。


「まあまあ、メリーさん。座って休憩しましょうよ」


 リヴィがどこからかお茶セットを取り出し、準備する。


「休憩って……!?……その茶菓子はもしや?」


「もちろん、ニコズキッチンの紅茶風味クッキーですよ」


「わ、わらわの分は!?」


「いっぱいありますから」


 メリジェーヌも座った。


 寝ぼけ状態を脱したリヴィは、メリジェーヌのピッツブレットを食べたことを(記憶はなかったが)謝罪した。

 そして、なぜかメリジェーヌから友達になってくれ、と頼まれた。

 ので、友達になった。

 実を言うとまともな友達がニコくらいしかいなかったリヴィにとって、友達が増えたというのはとても嬉しいことだった。

 今回も、友の危機を救うのはわらわの仕事!とメリジェーヌもここまで来たのだった。



 そういった観客をよそに、俺は超巨大化したエンドレスと対峙していた。

 全てを出し尽くしたエンドレスは、その姿を保つことができなくなり、墓場にいたゴーストやゾンビなどのアンデッドを吸収し巨大なスケルトンに変貌したのだ。

 その巨大化したエンドレスは半球の墓地の天井を突き破り、地上へとその姿を現したのだった。

 その場所は西の村から離れた旧リオン帝国の遺跡だった。


 そういや、ポーザとバルカーがそこに護衛依頼を受けに行っていたのではなかったか、と思い出した。

 まあ、シビアだがそれを気にしていられない状況だ。

 それに、バルカーとポーザならどうにかできると信頼している。


 目の前のエンドレスはスケルトンだ。

 骨格は人間のものだが、脆弱な構造をカバーするように普通の人間にはないパーツが増えている。

 これは、取り込まれた竜の影響かもしれない。

 エンドレスの空虚な眼窩に青白い鬼火が灯る。

 魔力をそのまま、駆動する力にしているのだ。

 変換を挟まないので、効率がよい。

 それは、強いということだ。


「よし、行くか」


 地面を蹴って跳躍する。

 エンドレスの頭の位置まで飛び上がる。

 エンドレスと目があう。


 エンドレスとそして、フレアの魂に別れを告げる。


 殴る。


 グラリとエンドレスはのけぞる。

 その鬼火の目が燃え上がった。


 その骨の右腕が唸りをあげて俺を狙う。

 空中の俺は、その腕をかわさず踏みしめる。


 さらに跳躍。


 頭に近づき、勢いをこめて回し蹴り。

 だが、その足は左手に防がれ、掴まれる。


 もう片方の足に力を込めて踏みつける。


 ベギリ、と音をたててエンドレスの左手の指の骨が折れる。

 すると、支えるものの無くなった俺は落ちる。


 落ちながらも、俺は丸太ほどの太さのあばら骨をつかみ、隙間を通り抜けた。

 こうなると、エンドレスには俺を攻撃する手段がない。


 まあ、自分の身を傷つけるのを厭わなければ、だが。


 エンドレスは俺がいる左胸を殴った。

 硬い拳の骨が、あばら骨を突き破って俺を襲う。

 臓物も肉も皮もないために、拳は俺に直撃し、背骨に叩きつけられた。


 ダメージは軽いが、エンドレスが己の身すら犠牲にしてまでも俺を倒したいことがわかった。


 拳を押し退けて、上へ跳躍。

 背骨とあばら骨を跳ね渡りながら上を目指す。

 奴の核がどこにあるのか見当もつかないが、少なくとも心臓のある左胸でないことは確かだ。

 俺を殴ったことで証明されている。


 ならば頭の中か、と喉から口の中を通って頭蓋の中に。

 そこには二つの鬼火が灯っている。


 ほとんど迷わずに二つの鬼火を破壊する。


 火が消えたとたんに、エンドレスは苦しみ始めた。

 頭を抑えて、ゴロゴロと転がる。

 その衝撃で、俺も投げ出され、外へと放り出された。


「ぐうううおおおおおお!?」


 叫びというよりは洞窟を風が通り抜けるような音だ。

 そして、ビキビキとエンドレスの骨の体が軋み始める。


 骨全体にひび割れが走り、青白い光が漏れでる。


 光、その青白いそれは魔力だ。

 強い意思によって魔力は物質化する。

 五百年の間に積み重なり、濃縮された強い意思。

 しかし、たくさんの死者の集合体であるエンドレスには、たくさんの意思がある。

 それは魔力の噴出によって、無秩序に物質化していく。


 全身に角が、牙が、翼が、鱗が、翼が、触手が、爪が、皮膚が、革が、様々な器官が現れ、競合しあい、消えていく。

 それはある意味、進化の戯画化だった。


 やがて、一番強い意思がエンドレスの体を再構成する。


 進化の中でその肉体は普通の人間のサイズにまで縮んでいた。

 そう、肉体だ。

 スケルトンではなく。

 赤と黒の髪色を持つ若い男。

 端正なその顔には笑み。

 さきほど、別れを告げたはずの男の顔。

 それは、俺の方を見て口を開いた。


「久しぶりだな」


「……ああ、そうだな」


 立ち上がった姿は、以前のものとほぼ同じだ。


「やはり、人の体はいい」


「で、中身は誰だ?」


「フレア……と言いたいところだが、ドラゴンのコロロスも混じっている。ついでにエンドレスだった集合人格も、な」


「じゃあ、めんどいからフレアだな」


「お前とこの姿で戦うとなれば、その名がふさわしいかもしれん」


 フレアは竜牙の槍を取り出す。

 今度は真っ白だ。


「知ってると思うが昨日から寝てないんだ。さっさとやるぞ」


「生者は不便だな」


 その言葉から、奴が死者のままなのがわかった。

 拳に魔力を込めて、魔法を発動する。


暗黒拳ダークネスナックル


 フレアが動き出す前に殴りかかる。

 一瞬対応が遅れるが、一流の冒険者だった経験はまだフレアに残っている。

 槍を器用に動かして、俺の拳を受け止める。


「動きが読めるぞ、暗黒騎士」


「エンドレスの時は悔しがっていたくせにな」


「その記憶は確かにある。体の使い方をよくわかってなかったのだろうな」


「今は違うというわけか」


「ああ。俺はこの肉体を100%扱える」


 フレアは槍を突く構えをとる。

 魔力が奴の手から槍へと移り、槍は青白く燃え上がるように輝く。


 その槍が滑らかな動きで、そして発射される。

 当たれば凄まじい威力だろう。

 だが、奴の知らない点が二つある。


 一つは、魔人の血を引く俺には純粋な魔力の攻撃は効きづらいこと。

 もう一つは、かつて戦った時よりも鎧が強化されていることだ。


 暗黒鱗鎧アビススケイルは槍の直撃を受けて、無傷だった。


「前の鎧と違うな?」


「そりゃあ、半年も間があけばな」


 俺の拳はフレアに届かないが、フレアの槍も俺に効かない。


 そして、フレアの顔に苦いものが混じる。


「貴様」


「おう、気付いたか」


 フレアの攻撃は効かないが、俺の拳はいつか当たる。

 当たれば、フレアは負ける。


「俺は、俺が甦ったのは負けるためじゃない!」


 フレアの槍を繰り出す速さが上がる。

 それと共に威力も上昇していく。


「お前……?」


「我が腕に込められし巨人の拳“攻撃力上昇”」


「我が肉に込められし巨神の指先“攻撃力大上昇”」


「人なる界を超え、今や我が全身は戦神の槌なり“攻撃力最大上昇”」


 三連続の攻撃力上昇魔法によって、フレアの攻撃力は俺の暗黒鱗鎧アビススケイルを超えて、直接俺にダメージが届き始めていた。


「凄まじい執念だよ。もし、前のままだったら、負けていたかもしれない」


 フレアは槍を突きだす。

 跳ねあがった力が以前とは比べ物にならない威力の槍なのは 確かだ。


 それでも、俺だっていろいろある。

 簡単に負けてやるわけにはいかない。


 俺の抜刀術の神速に勝るとも劣らない速さの突き。

 それをギリギリで見切って回避、そのまま前に出る。

 槍の軌道を縫うように接近、のびきった態勢のフレアは反応できていない。

 ダン、と地面を思い切り踏み込み、その威力をそのまま拳にまで届かせ、俺は一気にフレアの脇腹をえぐった。



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