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87.地下墓地にて

 教会の中は、神の印が壊され瓦礫に突っ込まれていた。

 礼拝する場所には大穴が空いており、地下へと続いている。


 地下墓地カタコンベのようだ。

 死者と墓地。

 これほどお似合いのところはない。


 歩いていくうちに、この地下墓地が予想以上に多くの亡骸が埋葬されていることがわかる。

 元々、ここには地下墓地があり、その上に墓地をふさぐようにアルザトルス教会が建てられたのかもしれない。

 もっと予測するなら、墓地がダンジョン化し、そこから死者が這い上がってくるのを防ぐための教会なのかもしれない。


 ああ、と俺は気付く。

 ユスタフの屍衆の領地がここまで拡がったわけではないのだ、と。

 魔王軍の侵攻で、ここが捨てられ、教会の守りが無くなったために墓地から死者が這い出て、そして屍衆と合流したのだ。


 つまり、この村にいたアンデッドはほとんど人間界の死者なのだ。

 だいたい、魔界の死者は納得して死んでいくから、死後も意思を残すパターンは少ない。

 人間界の死者は、強く想いを残すため、こうやってアンデッドになると人間のように振る舞うのだ。

 その最大の結果が廃都ボロスの死者の国の、死者の生活だった。

 ここも同じだ。

 死者の、死者による、死者のための村だったのだ。


『我らは輪廻より解き放たれた者、終わりなき者』


 地下墓地のそこらから、歌うような声。


「ひっ、何か聞こえますよ」


 デンターが思ったより怖がりだということがわかった。


「そりゃあ、死人だって歌うだろうさ」


 喉が無くても、肺がなくても、魔力で空気を震わせることができるのならば意思あるものは歌える。

 その歌が趣味の悪い歌詞でなければ、何十もの声のハーモニーは心をふるわせる。


「歌は気に入ってもらえましたかな?」


 黒ローブのスケルトンが、ドクロの顔で笑う。

 パーツの動かしかたのせいか、生身よりもはっきりと感情が伝わるような笑みだった。


「せっかく教会の下にいるんだ、聖歌か何かを歌ったらどうなんだ?」


「ははは、ご冗談がうまい。我らをここに封じ込めたアルザトルスの歌など魂が消え失せても歌いますまい」


「ところで、お前たちはユスタフの配下ではないのか?屍衆の所属なら撤退命令が出ているはずだぞ?」


 魔王軍という言葉を出さずに、その確認をする。

 まだ、デンターには話していない。

 俺が魔人 (のハーフ)で魔王軍にいたことは。


「ご冗談がお好きなようでござますな。ユスタフ殿は確かに優れた御仁ではありましたが、所詮は余所者。我ら“輪廻より解き放たれた者”とは違います」


 魔王軍に所属したつもりはない、か。

 名前を知っているということは協力関係ではあったようだ。

 兵力の現地登用は、屍衆だけがなし得ていたが、その形もいろいろあったようだ。


 しばらく歩くと、天然の洞窟を整備したような半球状の空間に出た。

 入口からはおおよそ、一キロメートルは歩かされただろう。

 どれだけ広大な墓地なんだ?

 もう、ただの墓場ではなく、何かの遺跡であると俺は確信していた。

 そして、この広い空間だ。

 壁には細長い穴。

 よく見ると、穴の中には布にくるまれた細長いものが入っている。

 大きさ的には亡骸だろう。

 ここは、この地下墓地の最も大きな墓ということか。


「お連れいたしました」


 球の中心にあたる場所には、立派な背もたれつきの椅子が一つ置いてあり、そこには何かが座していた。

 人間の男のようだが、呼吸をしていない。

 つまり、こいつもアンデッドか。


「よく来たな。魔人の継承者」


「やはり、関係者か」


「ま、魔人の継承者?どういうことです、ギア殿」


「デンター。本格的にヤバいかもしれん。いつでと逃げられるようにしておけ」


「は、はい……」


 疑問は抱けども、それ以上の追及はできず、またできる雰囲気でもなかったため、デンターは半球の墓地を出て隠れた。


「不死の継承者とやら、だな?」


「ああ、ついでに竜の継承者、でもある」


「なに?」


 座っていた者は立ち上がった。

 そして、上半身を覆っていた外套を剥ぎ取り、投げ捨てる。


 赤と黒の髪。

 かつては生気にあふれていた顔は、血も表情も抜け落ちた真っ白なものだった。


「私は終わりなき者、エンドレス」


「それは……中身の名前だな?」


「外側の名は、そう、確かフレアだかコロロスと言ったか」


 俺の認識では、フレアはリオニアス襲撃のあと、捕縛されニューリオニアの牢に繋がれていたはずだった。

 それ以上は何も聞いていない。


 が、予想はできる。


 奴は脱獄したのだ。

 そして、元からあったか、再会したのか、ドラゴンの力を手に入れた。

 そのドラゴンが竜の継承者だったのだろう。

 コロロスというのは、その竜の名前だろうか。

 で、フレアは何かと戦い敗れた。

 そして、たまたまこの地に流れ着き、瀕死の状態でエンドレスとやらに取り憑かれた、といったところか。


「難儀な男だな」


 生前のフレアとは戦いあうしかない間柄だったが、わかりあう余地がなかったとは言えない。

 どこかで手を取り合うこともできたかもしれない。


 しかし、奴は死に、幽霊に取り憑かれた。

 今は、その魂の冥福を祈るだけだ。


「さあ、ではやろうではないか。この世界の者が魔王となるという最高の展開に向けてな」


「確かにな。お前らが勝てば魔王の座はこの世界の者に継承されるわけか」


 でも、それは何か違う気がする。

 侵略者である俺たちが言うのもなんだが、魔王軍というのは誇り高き軍隊だ。

 そして、その統率者たる魔王陛下のことを誰しもが敬愛していた。

 バルドルバや暗黒騎士一番隊の騎士たちが命令無視をしてまで、各自で動いたのは少しでも早く魔王の城から勇者たちを追い払いたかったからだ。

 その行動は間違っていたが、それにいたる想いは間違ってはいなかったと今では思う。

 その魔王という地位を、簡単に取れると思っているところが気に入らない。

 ああ、そうか。

 俺は、魔王様以外が魔王になるのが気に入らないのだ。


 ならば、それは止める動機になりうる。


 自身が魔王たらんとするのではなく、魔人の魔王であったかの御方を敬愛するがゆえに、他の継承者を倒す。


「さあ、行くぞ。人と竜と不死の力をあわせ持つ、最強の継承者エンドレス・フレア・コロロス!今こそ、進軍せり!」


「来たれ、我が暗黒の鱗、深淵“暗黒鱗鎧アビススケイル”」


 一瞬で、俺は鱗持つ暗黒の鎧をまとう。

 最強?

 片腹痛い。

 今までで一番の強敵だった海魔将ガルグイユですら、傷一つつけられなかった暗黒鱗鎧アビススケイルだぞ?


 軽く跳躍し、空中で一回転し、踵落とし。

 エンドレス(以下略)の頭に踵が直撃する。

 攻撃の勢いごと、エンドレスは頭から地面に突っ込む。


「が、は、え?」


 エンドレスが起き上がる前に着地し、かがみこみ、下回し蹴りでエンドレスの足を刈る。

 足を取られて、バランスを崩し、エンドレスは頭から地面に激突。

 起き上がろうとする、エンドレスの顔を鷲掴みにし、地面に叩きつける。


「うわあ、あれは痛いぞ」


 と、デンターが呟いているが気にしない。


 ゴロゴロと地面を転がり、エンドレスは俺から距離をとる。

 追い詰めることもできるが、ここは様子を見る。

 下手に窮地に追い込むと鼠でも猫を噛むことがあるからだ。


「な、なぜだ?なぜ、まったく反応できない!?この体は一流の冒険者のもの、魔力は竜のもの、精神は不死のものなんだぞ!?」


「そんなことは決まってる」


 俺の言葉に、エンドレスは注目する。


「なんだと?」


「俺の方が強いからだ」


 エンドレスはついに無表情を崩した。

 それは実に悔しそうな顔で、そういえば生前のフレアも似たような顔をしていたと俺は思い出したのだった。

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