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83.勝てない時は胃袋をつかめ!

「ユグドーラス様!」


「デルタリオス様!」


 二人のもとにナギとポーザ、そして背負われたリヴィが合流する。


「おお、無事であったか」


「無事のようだな……いや、武道家の小僧はどうした?」


 デルタリオスの問いにポーザは首を横に振る。


「そうか……てっきり生きていると思ったが」


「どうしたのじゃ?武道家の小僧とは、まさかバルカーのことか?」


 ユグドーラスのいぶかしげな声にポーザが答える。


「はい。ドラゴンの炎に巻かれて……そのまま」


 絞り出す声、そして頬には涙が一筋流れて……。


「ふむ。……では、今、あの竜の前にいるのはなんじゃ?」


「え?」


 緋色の竜の前に、なんか雰囲気がいつもと違うバルカーが立っていた。

 その顔にはうっすらと笑み。


「あるえええ?」


 ポーザの舌が回りきらない。


 死んだよね?

 確かに死んだよね?

 ボク泣いたんだけど?

 ボクの涙返してくれないかな?


「しぶとい師匠にして、その弟子ありといったところじゃな」


 ユグドーラスがなんか良いことを言っている。


「おおおおい、みんなああああ、やろうぜええええ!」


 遠くからバルカーがこちらを呼んでいる。


「ふん。武道家に、戦士、魔法使いが三人に、魔物操士、それに暗黒騎士……戦力としては悪くない」


 デルタリオスがでかい斧を肩に担ぎ歩き出す。


「あ、それ、フレアの……」


 フレア、いやコロロスが残した竜翼の斧である。


「ドラゴン武器なんて、レア物捨てておけるかよ」


「そうですか……」


 レア物とか言っていた時のデルタリオスの顔は、今までで一番笑顔だった。

 そして、その武器を使いたくてウズウズしているように駆けていった。


「あやつは面倒くさがりのくせに、アイテムの収集にはこだわっておってなあ。普段の面倒そうな顔とはうってかわって、宝探トレハンしには何十時間も付き合わされたもんじゃて」


 懐かしそうに、ユグドーラスはそう言った。

 というか、どこか辛そうなのはその宝探しがよっぽど大変(苦痛)だったのだろう。


 確かになあ、とポーザは思った。

 以前いたパーティでも、そういうアイテムドロップ命の奴がいた。

 同じようなアイテムでも、なんとか値が違うとか、レアとかレジェンドとか、ユニークだとか、セット装備そろったとか、スキルの付きかたが気に入らないから売ろうとか、ものすごくこだわっていた。

 まあ、アイテムに関しては費やした時間イコール強さだから、そいつの行動は強くなりたいなら間違ってはいない。

 戦闘をこなすことで経験値もあがるし。

 ただ、それに付き合わされるメンバーは大変そうだった。

 おそらく、ユグドーラスも同じだったのだろう。


「ねえねえ、おじいさんたち」


 アユーシが興味深そうに、ユグドーラスを見ている。


「なんじゃね、暗黒騎士のお嬢さん」


「“白月”のユグドーラスと“黒土”のデルタリオス、だよね?」


「そうじゃよ」


 ユグドーラスのセリフの終わり際、アユーシは剣を振った。

 だが、その刃はユグドーラスの前に展開されていた障壁に防がれる。


「うん。ほんとだね」


「満足いったかね?」


「もちろん!お詫びといったらなんだけど、あの竜倒すの手伝うね」


 バッとその身をひるがえし、アユーシも竜の元へ向かった。


「な、なんですの、今のは」


 お嬢様育ちのナギには、今のアユーシの行動も、それを笑って許すユグドーラスのことも理解できなかった。


「共に戦う仲間として、わしらがふさわしいかを見極めたのよ」


「い、一歩間違えれば、どっちかが死んでいたかもしれませんのに?」


「その時は、死んだほうが悪い、ということなんじゃろうな」


 私には理解できない世界ですわ、とナギは呟いた。

 そして、背負ったリヴィを物陰に下ろした。


「リヴィエールちゃんのこと、よろしくお願いします」


「うむ」


 そして、“電光石火”を使って、彼女も戦場へ向かっていった。


「お主らの好いとるあの男こそ、そういう力が全ての世界で上位にいた者なんじゃがのう」


「確かに、あの暗黒騎士の娘、リーダーのことめっちゃ大好きっぽかったですもんね」


「リヴィエールたちも苦労するのう」


「じゃ、ボクもぼちぼち行きます。サポートしかできないけど」


「リヴィエールに障壁を組んでから、わしも行こう。あれほどの獲物、勇者らと旅していた時でもなかなか無かったゆえな」


「ユグドーラス様が楽しそう」


 ポーザも、そしてユグドーラスも戦場へ向かった。



 戦場。

 しかし、そこは奇妙な静寂に満ちていた。


 ただ竜が久しぶりの目覚めに浸っているためだ。


「やらんのか?」


 とデルタリオスがバルカーに聞く。


「たぶん、やるんですけど。なんかそんな感じじゃないというか」


『ひい、ふう、みい……むっつ。わらわを相手に六人で足りるかのう。もう少し、待っておってもよいのじゃよ?』


「数だけおっても、役には立たん」


『うむ、戦士よ、うぬの言うとおりよの。では、やるか』


「ちと待たれよ」


 やる気になりかけた竜を、ユグドーラスが止めた。


『なんじゃ?』


「せっかく言葉通じる我ら、貴殿のことをうかがいたいと思いましてな」


 竜が不思議そうに首をかしげる。


『わらわのことを?』


「さよう。わしらは魔界のことはとんと疎くて、貴殿がなにゆえここにおるのか、何が目的なのかわかりませぬ。それを聞かぬうちに斬ったはったするのはどうにも野蛮ではなかろうか、と」


『魔も人も竜も相争う世界でおかしなことを言う翁よのう。まあよい、わらわも久方ぶりに起きた。無為に争うのも折角の時間の無駄じゃ、ここは一つ人との対話というものを試みようかのう』


「感謝いたします。では最初に、貴殿は何者でありましょうや?」


 なんだか空気が妙になってきた、とナギは思った。

 さっきまで命をかけて戦う、といった雰囲気だったのに楽しいおしゃべりの時間が来た感じになっていたのだ。


「気が抜けた。俺は寝るぞ」


 寝るというか、竜翼の斧を愛でたくてしかたないようなデルタリオスは戦列を離れた。

 どうやら、敵との会話を試みるユグドーラスに呆れたようだ。


『わらわの名はメリジェーヌ。五百年ほど前に死んだ竜じゃ』


「五百年前……それはつまり、転生ということでしょうか」


『いや、わらわは生前、七体の子供ストックを創造しておった。それらには精霊の力を利用した不死性とわらわの魂の有り様、そして記憶の保存場所へのアクセス権を与えた』


「なんとも……用心深いというか」


『執着がひどいというてもよいぞ。それで、人間の男子に取りついた竜がたまたまわらわの子供ストックの一つを食らうてな。その竜の蓄えた力を起動する力にして、わらわは復活したということじゃ』


「なるほど、それではそのメリジェーヌ殿の目的はなんぞや?」


『魔界と人間界の征服!とでも言えば、うぬらと楽しき戦いができるやもしれぬが、実際のところ死にたくなかった、というのが正しいのかもしれぬ』


「死にたくないがゆえに、周到に生き返る準備をした、と」


『さよう』


「で、あれば我らが戦う理由はありますまい」


『ほう?なにゆえじゃ?』


「我らと戦えば、最悪貴殿は死にます」


『そのような大言は面白くないのう』


「我ら全員で挑んでも、傷を一つ負わせることしかできないかもしれません」


『で、あろうな』


「ですが、その傷が原因で命を落とすことになるやもしれません」


『ふう、む』


 メリジェーヌは少し考える。

 せっかく生き返ったのだ。

 戦うよりも良いものが手にはいるかもしれぬ。


「まずは何かお召し上がりになりますか?」


『む、確かに腹が減ったよのう。旨いものが食べられるのかのう?』


 メリジェーヌが食いついたのを見て、ユグドーラスはポーザに耳打ちした。

 ニコに美味しいものを用意させておけ、と。

 ポーザは力強く頷いた。

 勝てない敵は胃袋をつかめ!とは最も正しい戦術である。


 デルタリオスは寝た。


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