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79.道の途中にいたナメクジが急に暴れだした(という認識)

 ポーザの前に立っているのは、小鬼ゴブリンのゴブさんだけだった。

 自身の保有する魔物をけしかけたが、フレアはそれを一蹴した。

 最強格であった深遠烏賊王テンタクルス屍飲鷲フレスベルグが負けた時点で勝てる見込みは無かったのだ。

 あとのこっているのは妖精フェアリー戯精霊アナオンといったサポート系のものだけだ。


 連続で召喚し続けたポーザ自身も、魔力はほぼゼロで、魔力の使いすぎによって顔は青ざめている。


 バルカーだけでなく、デルタリオスもやられたのだ。

 こいつは英雄級冒険者を超えているのは間違いない。

 ポーザの力では太刀打ちできない相手だ。

 それでも今まで戦えたのは、ポーザと出会い、契約してくれた仲魔たちのおかげだった。

 そして、もう一つ、彼女を救い導いてくれた暗黒騎士の。


「リーダー……いや、ギアさん。ボク頑張ったよ、諦めずに戦った……最後まで!」


「もう呼び出すのは終わりか?ならば我が糧となれ」


 フレアの投擲した竜牙の槍が避けられない速さで迫る。

 ゴブさんは木の盾を構えているが、おそらく盾は壊され、ゴブさんは貫かれ、ポーザまで貫通する。

 でも、とポーザは諦めない。

 最後まで何かをなすべく、残り少ない魔力を練り続ける。


 キィィィィン。


 と甲高い音。

 そして、バギン、と竜牙の槍が砕け散る音がほぼ同時になった。


「うー、痛たた。こんな硬いの使わないでほしいなあ」


 ポーザの前には漆黒。

 見知ったのと似たような黒い鎧。

 だが、身体のラインは女性的だ。


 その手には黒い剣。

 それが、フレアの槍を弾き砕いたようだ。

 ひび一つはいっていない。


「なんだ、お前は?」


「名前を聞くときは、自分から名乗れ、トカゲ」


 彼女は、ポーザを見た。


「……あ、あの」


「あなた、隊長の匂いがする!」


「へ?」


「トカゲと言われるのは今日二回目だ。まあ、私はなんの動揺もしていないがな」


「良いからさっさと名乗れ、ナメクジ」


「ナメクジ!?」


 さすがにフレアも、ナメクジ呼ばわりはカチンと来たようだ。


「どうした?まさか、名前もないほどの雑魚ではないだろう?」


 黒い鎧の彼女はさらに挑発を続ける。

 フレアはいらいらしているのがわかる。


 そういえば、フレアのあんな表情は見たことがない。

 いつも余裕の笑みを浮かべているのが、メルティリアのフレアのはずだ。

 あれは、フレアじゃない?


「よかろう。私はコロロス。偉大なる竜にして、竜族の継承者。炎を食らう者」


「わかった雑魚で臆病で火遊び好きなコロロスだな?」


「……どうやら、本当に死にたいらしいな?」


 フレア?コロロス?の背に赤い炎が翼のようにほとばしり、そして二振りの斧となって現れる。

 さっき、屍飲鷲フレスベルグを斬った斧だ。

 そして、さらにフレア?コロロス?の前に二十本ほどの竜牙の槍が出現する。


 槍の石突きから爆炎が吹き出し、槍が射出されていく。

 この世界には無いがミサイルのような感じといえばわかりやすいかもしれない。


 それが二十本。


 あ、これはムリとポーザは悟った。

 ゴブさんも寄ってきた。


「我が剣は円を斬り、そは振り落ちる雨のごとく、巌流太刀術“雨燕あめつばめ”」


 黒い鎧の女騎士は、手にした剣をゆらりと振るう。

 瞬間、二十本の槍全てが叩き落とされる。

 そして、その全てが粉々に砕けていた。


「……!?……何をした」


「雨のごとく、この剣で全部斬った。それだけだけど?」


 さも当然のように、彼女は言った。


 いやいやいや、竜の牙でできた高速飛行する槍を全部斬るとかムリだから!


 ポーザの知る限り、そんなことができるのは一人だけだ。

 そして、目の前の彼女はその人物と妙に似かよっている。


 黒い鎧、黒い剣、知らない剣術。

 そして、ポーザから知り合いの匂いがすると言った。

 その答えは。


「あなた……暗黒騎士……なの?」


「そうだよ」


 と軽く答えた彼女は、目にも止まらぬ速さで前に出る。

 そこには竜の翼でできた斧を二つ持ったフレア?コロロス?がいる。


「速さではどうやらそちらに分があるようだ。ならば力ではどうだ?二本の斧の断撃は重いぞ!」


「流派的にさあ、二刀流って嫌いなんだよね。それに知ってる?蟷螂の斧って言葉」


「なに!?」


「力の無い者が自分より強い者に立ち向かうこと、要するに無謀ってことだね」


 ダン!と力強く彼女は大地を踏みしめた。

 そして、二度突きを放った。


 それが二回突きを放ったとポーザでもわかったのは、結果が歴然としていたからだ。


 フレア・コロロスが両手に持っている竜翼の斧が、二つとも刃の部分に大穴が開いていた。

 それを叩きつけたら、地面より先に斧が砕けてしまうほど大きな穴だ。


「な!?」


「巌流太刀術“疾風嘴はやてくちばし・二段”」


「な、なんなんだお前は!?」


「あ、そうだ。こっちの自己紹介してなかったね。私はアユーシ。魔界魔人領ベナレシア出身。魔王軍暗黒騎士隊二番隊所属の暗黒騎士です」


「魔王軍の暗黒騎士!?な、なんでこんなところに!」


「まあまあ、そう言わないでよ。私にだって事情があるんだって」


「じ、事情だと?」


「まあ、それはいいんだけどさ。知ってるかなあ、ウチの隊長って勇者と同じくらい強いんだけど、私もその次の次の次くらいに強いんだよね。それでさあ、君が私に勝てるとは思えないんだよねえ」


「な、に、を……」


 分かりやすく、フレア・コロロスは動揺した。

 暗黒騎士を名乗るアユーシの目。

 それが圧倒的な力の差を見抜いていることを、コロロスは知ったのだ。

 その目に見つめられると、コロロスの中に一つの感情が浮かぶ。

 恐い、怖い、畏い。

 これは、そう恐怖だ。


 恐怖?

 と、コロロスは自覚する。

 それは嘲った炎竜人ウードの感じたものと同じだ。

 勝てぬ相手におののく感情。

 恐れ、怖れ、畏れ、自分より上がいると認めた感情だ。


 そこでようやく、コロロスは思い出す。


 自分が何者であるかを。

 その斧を使う武技はデルタリオス。

 その槍を使う優美さはフレア。

 その炎は炎竜人ウードのものだ。

 なれば、コロロスとはなんだ。


 心折コロロスる者だ。


 カチッと頭の中で何かが噛み合うような感覚。


「感謝する、暗黒騎士アユーシ」


「ん?感謝されるいわれはないけど?」


「私は、私となった」


「何を言って?」


 ドン、とコロロスから圧力がかけられた。


「そう。感情、精神を操る竜。それこそがこの私だ。心折コロロスだ。恐怖を、憤怒を、憎悪を、悲哀を、歓喜を」


 コロロスの感じた恐怖は、恐怖を感じた自分自身への憎悪へと変わった。

 高まっていく憎悪は、コロロス、いやフレアに仕掛けられた魔法のトリガーを引く。

 感情を魔力に変換する魔法……いや、それは呪いだ。

 憎悪を深くすればするほど、魔力は高まっていく。


 暗黒騎士を超えるほどに。


 ちなみにその時、ポーザと小鬼ゴブリンのゴブさんは危険を感じて少し離れたところに逃げていた。

 あなたは暗黒騎士ですか、と聞いた次の瞬間あたりである。


「あんな戦いの中に入って見てられる勇気はボクにはないなあ」


 ポーザの言葉にゴブさんも、重々しく頷く。


 そうやって戦闘を見守っていたポーザのもとに、彼女たちが駆けつけた。

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