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71.炎を踏みしめる黒土の戦士

 リオン帝国の最期は、帝国各地を治めていた諸王の反乱によるという。

 帝国各地で起きた反乱は、合流し、巨大な軍勢となって帝都を包囲した。

 帝国最後の皇帝リオーニアは魔界に魂を売り渡し、強大な魔物を多数呼び出し、反乱軍と戦わせた。

 魔物が全て倒された時、帝都は灰塵となり、皇帝も死に、反乱軍もほとんどが倒れていたという。

 この勝者なき終戦によって、帝国は終焉を迎えたのだという。


 炎竜人ウードはこの時呼び出された魔物の一つ。

 当時の書物にも名前が残る強大な魔物だ。

 ドラゴンの頭、退化した翼、巨人の胴体に、それに見合った手足。

 口からはドラゴンのブレスのように炎を吐き、巨体から繰り出す攻撃は金属防具も潰す。


 倒しかたは、記載されていない。


「そりゃそうだ。この秘宝庫で守護者として封印されていたんだからな」


 バルカーは呟く。

 あれは強い。

 間違いなく。

 それでも、師匠ギアなら倒せるだろう。

 だったら、俺だって抵抗できるはずだ。


「障壁魔法が使える者、火炎耐性があるものは前へ。その他攻撃職は敵攻撃後の間隙に展開せよ!」


 ポーザは冒険者たちに指示を出しつつ、自分の使役する魔物を召喚する。


炎竜人ウードが動き出したぞ」


 ドラゴンの目が爛々と輝き、魔力が集中していくのがわかる。


「攻撃予想“炎のブレス”、障壁展開!」


 数人の魔法使いたちが、障壁魔法を展開する。

 半透明の壁が次々に冒険者の前に展開していく。


 そこへ炎竜人ウードは口からは吐き出した炎を吹き掛けてくる。

 冒険者たちを狙ってきた炎は障壁に防がれる。

 が!

 見る間に障壁にひび割れがはしり、砕けていく。


「嘘でしょ!?三級冒険者の障壁がこんな簡単に!?」


 何枚も張られた障壁は、ほとんど炎の勢いを減衰できぬまま砕け散った。


「ッシャ、オラッ!!」


 バルカーは炎竜人ウードに接近、思い切り顔をぶん殴った。

 これにより、炎のブレスの向きがそれ、冒険者への攻撃が中断される。


「バルカー!」


「かってぇ!」


「グオオオオ!!」


 殴られた炎竜人ウードは、バルカーを殴り飛ばす。

 咄嗟に腕を交差させて致命傷を避けるが、両腕とも折れた。


「バルカーッ!誰か、治癒!」


「任せろ!」


 と、神官戦士職の冒険者が手慣れた詠唱で治癒魔法をバルカーへ放つ。

 淡く白い光がバルカーの腕へ届き、折れた骨をくっつけ、痛みを鎮静化させる。


「助かった」


「障壁は無意味!全員突っ込む!」


「応ッ!」


 障壁が一瞬で破れる以上、安全策はできなくなった。

 こうなったら、全員で殴りかかり、速攻で倒すしかない。

 ただ、犠牲は避けられない。

 何人死ぬか、最悪全員……。

 しかし、この怪物を放置することはできなかった。


「よお、ポーザ。あれは出せんの?でかい触手とかどどーんみたいな鯨とか」


「あー、ギリアでの……海王リヴァイア触手ハンドとか鯨王ケートスとか?」


「そうそう、それそれ」


 ギリアで戦闘の切り札になったポーザの操る強大な魔物。

 それが呼び出せれば炎竜人ウード相手でもなんとかなるかもしれない、とバルカーは期待したのだ。


「うん……実はね、あれくらい強いのは一回しか喚べないんだよね」


「あ、そうなんだ」


「もう一回呼ぶには、また会いに行って協力を頼まなきゃなんないんだよね」


「へー、けっこう面倒なんだな」


「そうなんだよ、ゴブさんみたいなよくいる奴ならすぐ補充できるんだけど、こないだみたいな強いのはなかなかね」


「なら、俺達の力だけでしのぐしかないか」


 何かを覚悟したかのように、バルカーはニッと笑った。



 戦士が一人、炎竜人ウードに殴られ吹き飛んだ。

 鎧がへこむほどの威力を受けたその戦士は、地面に激突して動かなくなった。

 これで前衛はバルカー含めて二人、後衛の魔法職も何人か下がっている。

 それなのに、炎竜人ウードにはたいしたダメージは与えられていない。


 序盤にバルカーを治癒してくれた神官戦士も瓦礫のどこかにいる。

 

「よし、行くか」


 とバルカーは前に出る。

 強敵を前に、気負った様子がない。


「おい」


 もう一人残った戦士がバルカーを止める。


「なんすか」


「もうちっと頭を使えや」


 その普通の鎧をつけた壮年の冒険者は静かな目でバルカーを見た。


「頭?」


「あれに正面から行っても無駄死にするだけだぞ?」


「でも、行かなきゃ……ん……あんた、リオニアスの冒険者じゃない、よな?」


 その戦士には見覚えがなかった。


「だからどうした?」


 バルカーは不意に違和感を覚えた。

 目の前の変哲もない戦士が、“黄金”ティオリールや“碧木”ラウ・シンハイと同じように見えた。

 とてつもない強者に。


「確か……勇者一行に……戦士が、確か“黒土”デルタリオス」


「ふん。見る目はないわけではないか」


 デルタリオス?はバトルアックスを肩に担いだ。


「え、え?」


「援護せい。後衛も奴の目をそらすくらいできるであろう?」


 ダン、とデルタリオスは前に出た。

 炎竜人ウードも触発されたように前に出る。

 そこから炎のブレス!


「“火炎符呪ファイアエンチャント”」


 デルタリオスは火炎耐性の魔法を足にかけ、飛び上がり炎のブレスの上を駆け登った。


「は!?」


「うそ、ああいうやり方あり?」


「ふん、斧武技“破竹断”」


 デルタリオスの腕の筋肉が盛り上がり、斧を握る拳に力が込められる。

 炎のブレスを火炎耐性の反発力でデルタリオスは跳躍し、空中から狙いを定めて炎竜人ウードの頭部へ叩きつけた。

 半竜の怪物は、頭部への一撃で昏倒する。

 だが、頭部自体には傷は見えない。


「やはりドラゴンの装甲は亜種であっても堅いかよ。しかし、もう一度叩き込むだけよ」


 地上に降り立ち、デルタリオスは再度力を込める。


「斧武技“断樹斬”」


 踏み込んだ地面が割れ砕けるほどの力が込められた斧が、炎竜人ウードの頭部を再び襲う。

 二度の強攻撃によって、ドラゴンの頭部が割れた。

 そこから斧が勢いよく、怪物を縦に両断した。


 炎竜人ウードは信じられない、という顔をした。

 縦に割れていく己を見て。

 やがて絶望の視線を向けて、最期には眼球が濁り、表情は消えた。

 全身の赤い色も抜け落ちたように消え、黒い地肌が見えて、ボロリと崩れ落ちた。


「ふん、魔王軍の魔将に比べりゃたいしたことねぇな」


「す、スッゲェ!」


「おい、多分冒険者連中はみんな生きてるから救出すんぞ」


「は、はい!」


 デルタリオスの見立てどおり、冒険者はみんな一命をとりとめていた。

 ポーザの呼び出した妖精フェアリーが神官戦士や治癒魔法使いを治すと、今度は治された方が立ち上がり、治療を開始する。


 最終的に死者は発掘隊のリーダーだけとなった。

 冒険者も前衛が一人、もう冒険者としてはやっていけない程のダメージを受けていた。

 だが、命は助かっている。


「まずは一段落だ」


 デルタリオスが発掘隊のキャンプの焚き火の前に座り込んでそう言った。

 バルカーとポーザも焚き火にあたる。

 そろそろ冬が近い。

 あたりも寒くなってきたのを感じる。


「本当に“黒土”のデルタリオス様なんですか?」


 バルカーの問いに面倒そうな顔を向けて、デルタリオスは答える。


「ああ、そうだな。一応、そうだ」


「なんで気配殺して、ここの護衛に紛れていたんです?」


「たまたまさ。通りがかったらおもしろそうだったからな」


「本当は?」


「若い冒険者の頑張り具合をみたかったのだ」


「頑張り……ですか?」


「合格者は、おめぇだけだ」


「俺?」


「あの魔物使いの嬢ちゃんは二級相応の力は持っている。もう少し、立ち回りが良ければ一級に推薦するのもアリやもしれん」


「あの戦いの中でそこまで見ていたのか……」


「おう、お前ら、どうだった?血沸き肉踊ったか?それとも絶望に苛まれたか」


「いや、別に」


 戦いの最中でも笑えるような根性は、さすがにバルカーは持っていなかった。


「それでいい。戦いの最中でも常に冷静さを失うなよ」


 デルタリオスの言葉にバルカーは頷くのだった。

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