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52.錆の城攻略戦

「作戦はこうや」


 渦対策及びギリア解放作戦、の作戦会議がタリッサ主導で催された。

 場所はかつて、ギリア漁港と呼ばれた野営地にある民家の一室である。

 台所ともいう。

 タリッサ、俺たちドアーズ、ダヴィドたち鉄雷の海王、そしてギリア残留組、あわせて二十人ほどである。

 進行役のタリッサが、ギリア市街の地図を壁に張り、説明を始める。


「まず、錆を止める」


「簡単に言うが、その方法はあるのか?」


 誰よりも、錆に手こずり、苦しめられてきたダヴィドが言う。


 昨夜、ダヴィドがこうなった理由を俺は聞いた。


 ギリアに攻め込んできた海魔軍団は、ギリア市民、騎士、兵士、貴族、王族らを倒し、ついには王城の奥までやってきた。

 そこには、王子をはじめとした残された子供たちがいた。

 その中に、ダヴィドも、ハルベルクも、フフェルも、そしてナギもいた。

 襲ってきた海魔軍団の半魚人マーマンに、ナギは果敢に挑んだ。

 そして、ダヴィドたちは逃がされた。

 最後に見た光景は、ナギに突きつけられた青い矛と拡散していく錆だったのだという。

 そして、生き残った子供達は、命の恩人であるナギの救出とギリアの再興を誓って生きてきた。

 ダヴィドたち“鉄雷の海王”もそうだし、こうしてギリアに残っている人たちもそうらしい。

 ギリア解放は、彼らの悲願なのだ。

 そして、失敗は許されない。


「もちろん。ウチの開発したこのディフェンシブコートがある」


 これは腐食耐性のついた超薄型の膜を百枚以上積層させたコート状の道具アイテムである。

 もともと錆びにくい膜が錆を防ぎ、錆びてしまってもその膜をパージすれば新たな膜が錆に対処する。


「さすが勇者パーティのアイテムボックスだな」


「いやん、そんなにほめんといて」


「いや、誉めてないが」


 くねくねするタリッサに俺は冷たく答える。

 それで喜ぶのだから、わけがわからない。


「ただな、八枚しか用意でけへんかったん」


 この道具アイテムを作るために、タリッサが徹夜したことは知っている。

 こんな面倒そうなものを作るには相当試行錯誤しただろう。

 本人は絶対言わないが。


「なら、それを着て突入するのは俺たちとダヴィドたちだな」


 俺の言葉に全員が頷く。

 反対してもいいのだが。


「もちろんだ。この状況になったのはギア殿とタリッサさんが来てくれたおかげだ。反対する理由もない」


 ダヴィドの言葉にも、全員が頷く。


「だ、そうだ。他の奴らはどうする?」


「他の人たちにも仕事はあるで。前提として錆は金属にしか発生せえへんねん。けど、街はみんな錆びている。これはどういうことやと思う?」


「街が金属になってしまったということでしょうか?」


 生真面目にハルベルクが答える。


「発想は悪うないで。けどちゃう」


「では、錆びた金属が街を覆っているということか?」


「正解」


 答えたのはダヴィドだ。


「で、何をどうするのです?」


 フフェルが尋ねる。

 嫌そうな顔のポーザに、くっつきながら。

 日々距離が縮まっていくな。


「ばばーん、“デメテルの涙”!」


「出たな、タリッサの目シリーズ」


「ちなみにデメテルというのは古き旧き女神で、大地の女神であり、娘を失った悲しみのあまり世界に冬をもたらした神や」


 そんな神話は俺も知らないんだが、どこで覚えるのだろうか。


「効果は?」


「強力な酸の雨を一定範囲に降らす」


「また危険なものを」


「そして、この雨は錆を含めた金属を溶かす」


「!?」


 全員の理解が追い付いたとき、タリッサを見る目に敬意に変わる。

 今まで胡散臭い目で見ていたようだ。


 つまり、この道具で降った雨は錆を溶かすのだ。

 木や石といった建築材には影響することなく。


「城に突入したグループが錆の発生源を止める。そして街グループがこの道具で街を綺麗にする。ちなみにこれは新たな錆の発生も防ぐで」


 街グループに分類されたギリア人たちがおそるおそる“デメテルの涙”を受け取る。


「よし、どうやら。作戦はわかったようだな。ダヴィド行けるか?」


 俺の言葉に孔雀石マラカイト色の髪をした剣士は答えた。


「ああ。行くぞ」


 三年間、ギリアを侵食した錆を止めるため。

 ついに解放作戦が開始された。


 突入グループはドアーズ、鉄雷の海王、そしてタリッサの八人だ。


「寝なくていいのか?」


「うん、なんのこと?」


 目の下のくまは化粧で隠しているが、タリッサが寝ていないことは知っている。


「いいならいいが、足を引っ張るなよ」


「心配してくれるん?」


「いいや、失敗を案じているだけだ」


「大丈夫やって、二日や三日寝ないで魔王軍あんたらと戦い続けたこともあるし」


「ん?テルエナの虫翅軍団インセクトレギオンとの戦いの時か?」


「よう知ってるやん」


 魔王軍の公式記録で、“藍水”が参戦した数少ない戦いだ。

 テルエナという国を攻めていた虫翅軍団が敗退した時の戦いで、魔王軍はテルエナの支配を失った。

 虫翅軍団は、広範囲の泡魔法で大量に戦力を失い、それが原因で敗北した。


「もしかして、あの時もなんかの目シリーズを使ったな?」


「ようわかったやん、虫が苦手とする泡を発生させる“アフロディーテの虹彩”をぶん投げたったで」


 予想通りだった。


 そんな話をしていると、ディフェンシブコートの端がパリパリと茶色い錆に染まり始める。


「始まったか。まずは錆姫ナギの間まで駆けるぞ」


 先日は逃げ延びた錆の城を今度は進行していく。


「敵がいないのが救いだな」


 とダヴィドが呟いた瞬間。

 俺たちの足元に、矛が幾本も投げつけられる。

 その程度の攻撃で怪我をするほどにレベルは低くないが、驚いたことは確かだ。


「馬鹿な、敵が!?」


 何度もここを攻略していたであろうハルベルクが一番驚いている。

 今まで敵なんか出なかった。


「接敵!半魚人マーマン十体!」


 リヴィが冷静に接敵報告を行う。

 偶発的な戦闘では敵戦力の把握が第一だ、と口を酸っぱくして教えた成果である。


「了解、バルカー前進。ポーザ援護、リヴィは後方から魔法攻撃、俺は前に出るぞ」


 パーティメンバーへ指示をして、前に出る。

 ダヴィドも同じように指示を出している。


 連携の取れたパーティ戦闘はあっという間に終結する。

 もちろん、半魚人マーマンの全滅である。


「これは錆の記憶で生み出されたものだな」


「せやな」


「ということは、ここから先抵抗が激しくなる可能性が高い。油断せずに進むぞ」


 コートは既に三枚パージされている。

 余裕はあるが、潤沢ではない。

 先に進むしかない。


 その先でも半魚人マーマンや海棲魔獣らの襲撃が続いた。


 そして。

 部屋一つをその巨躯で占拠する巨大烏賊クラーケンが現れる。

 コートは二十枚は消し飛んでいる。


「ダヴィド様、行って下さい。ここは私とフフェルで止めます」


「何を!」


 ハルベルクの提案にダヴィドが戸惑う。


「全員でやれば倒せます。けど、この先にあの半魚人マーマンが出てくると考えるとできる限り戦力は温存しておきたい」


 ハルベルクの言葉にタリッサも頷く。

 錆姫のもとにたどり着く前に消耗しきってしまっては意味ないのだ。


「しかし、それは」


「ダヴィド様、私たちはあなたに託すのです。残された者より、進む方が辛いと実感してください」


「フフェル……」

 

 ややあって、ダヴィドは頷く。


「よし、行くぞ。フフェル。二代目鉄騎将と雷鳴の魔女の力、今や示さん!」


「相変わらず暑いなあ」


「二人とも死ぬなよ」


 ダヴィドの言葉に、二人は頷き駆けた。

 先制攻撃によってこじ開けられた隙間を六人が駆け抜ける。


 怒り狂う巨大烏賊クラーケンは残った二人を威嚇した

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