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51.憎悪のために、我は血を流し戦い続ける

 ダヴィドは電光のごとく突進してきた。


「滅せ、暗黒の騎士よ!」


 俺はダヴィドと正面から衝突する。

 わずかに俺の方が押し負ける。

 ダヴィドはバッと距離をとり、再度突進の姿勢を取る。


 硬い重い速い。

 剣では傷つかないだろうな。

 こういうときは。


暗黒ブラックアウト


 対象をダヴィド、効果はキツめに。

 放たれた暗黒の魔法はダヴィドに直撃する。


「ぐっ!?目が見えない!おのれ、卑怯な!お前たちはいつもそうだ!卑怯な方法で、ルールを無視して、騙し討ちをする!」


 ステータス異常攻撃が、ダヴィドの逆鱗に触れたらしい。

 戦いの最中に卑怯もクソもないとは思うんだがなあ。


「ダヴィド……お前はどうしたいんだ?」


 思わず口にした問い。

 それはダヴィドをさらに激昂させる。


「どうしたい?だと、決まってる。返せ、お前たちが奪った全てを!父を、母を、友を、乳母を、家臣を、城を、国を、民を!貴様ら魔王軍が奪った俺の幸せを返せッ!!」


 怒りが怒りを呼び、ダヴィドは叫ぶ。

 返せ、と奪ったものを全て元に戻せと。

 怒りが頂点に達し、その瞬間、俺の“暗黒ブラックアウト”が効果時間終了前に立ち消えた。

 強制的にキャンセルされたようだ。


 というよりは、別のステータス異常で上書きされたというべきか。

 狂暴化バーサーク

 怒りに支配され、肉体のリミッターを取っ払った状態。

 数ヶ月前に戦った“メルティリア”のフレアが強制的にこの状態にされたのを覚えている。

 全能力が上昇し、話が通じなくなる。


 突進、よりはもう発射と言った方がいい速度でダヴィドは突っ込んでくる。

 それを、脚を踏ん張って受け止める。

 大型の魔獣に体当たりされたような衝撃が俺を襲う。

 ヤマタ島のダンジョンで戦ったボスである名前付ネームド多頭蛇ヒュドラのナンダの頭突きを思い出すような突進だ。

 筋肉がミシミシと音をたてる。

 押し負けそうになるが、勢いを止めることに成功する。


 獣のようなうなり声をあげてダヴィドが剣を振るう。

 風を切る音にあわせて、俺も剣を振るう。

 両者の剣は衝突し、しのぎを削る。

 暗黒鎧アビスアーマーこそまとっていないが、半魔人の俺と互角の力をダヴィドは振るっている。


 二度、三度、剣はぶつかり合い、力の均衡は変わらない。

 だが、怒りに満ちたダヴィドの顔にほんのわずかに痛みが走る。

 全身から血が吹き出して、凄惨な状態になっていた。

 限界を超えた力の行使で、わずかな傷が裂け出血している。

 それが積み重なると命にかかわる出血に繋がりかねない。


「そろそろ決めるか」


 つばぜり合いを脱して、距離を取る。

 距離を取れば、狂暴化バーサーク状態で判断力が低下しているダヴィドは突進を仕掛けてくる。


 そしてその通りにダヴィドは迫ってきた。


 肩を前にしたタックルは、直撃すれば鉄鎧ですらへこませる。

 それを半身にしてすり抜けるように回避、同時に足を引っかけダヴィドのバランスを崩し、奴の頭を優しく押さえ地面に叩きつける。


 それで終わりだった。



 ダヴィドが目を覚ますと、戦いは終わっていた。

 ハルベルクもフフェルも負けたのだ。


「敗因は対人戦闘の経験値の低さ、だな」


「なに?」


 俺の言葉に、ダヴィドはようやく耳をかたむけた。


「お前ら三人の“鉄雷の海王”は確かにいいコンビネーション攻撃だ。加速して突っ込んでくる三体の弾丸をすべて回避するのは難しい。今まで負けなしだったんだろう?」


「ああ、そうだ。俺たちのパーティネームでもある」


「あれな。あまりにも対モンスターに特化し過ぎてるんだ」


「対モンスターに特化……確かに」


 一体の敵を三方向から同時攻撃する。

 ほとんどのモンスターはそれで倒せる。

 しかし、人間が相手ならどうか?

 しかも分断された“鉄雷の海王”はドアーズによって各個撃破されてしまった。


「もう一つ、実はあってな」


「なんだ?」


「あの島のボス多頭蛇ヒュドラ、その首が突進してくるだが、威力も重みもお前の突進くらいでなあ。慣れていたんだ」


「慣れ……慣れで俺は負けたのか」


「大丈夫ですか、ギアさん!……とダヴィドさん」


 リヴィの俺とダヴィドに対する露骨な対応の違いに、ダヴィドはややショックを受けたようだ。


「やはり、そうか。リオニアが落ちなかったのは魔王軍に協力していたから、なのか……」


「いえ、違いますよ」


「なに?」


「まずギアさんは魔王軍から離れています。そして、直接、こちらの世界を侵略したわけではありません。次に、わたしたちがギアさんを信頼しているのは、助けられたからです。命を、街を、家を、家族を、たくさんのものを」


 俺はこそばゆくなり、頬をポリポリと掻いた。


「しかし、しかしだぞ。人間と魔界の生物は折り合えない……そう教わったし、実感している」


 実際に襲われたことで、とはダヴィドは言わなかった。


「ダヴィドさんは、この数日間ずっと、ギアさんと折り合えなかったんですか?」


「……!……いや、そんなことは、ない……」


 力をあわせて戦ったし、共に森をさ迷ったし、一緒に飯を食った。

 もし、魔界の暗黒騎士と言われなかったら、冒険者として尊敬するほどに信頼していた。


「ですよね?」


「自分が誤っていたと認めなきゃならないのは、相当勇気がいることだぞ……すまなかった、ギア殿」


 ダヴィドは手を差し出した。

 俺はその手をがっしりと握る。

 リヴィは嬉しそうに笑う。

 ダヴィドのパーティのハルベルクとフフェルもホッとしたようだ。


「いやあ、ええね。青春やね」


「てめぇは黙れ」


 俺に貶されて、喜んでいるタリッサのことはもうどうしようもなかった。



 ダヴィドの休息もかねて、野営地に泊まることになった。

 タリッサは錆についてなんとかする、とは言っていたがこの数日間の疲労が取れぬまま、錆の城に向かっても失敗する確率が高いだろう。


 食事と、少しずつ配られた酒、焚き火。

 それは人を陽気にするのに充分な効果を持っていた。


 力比べをしたバルカーとハルベルクは友情に芽生え、ぐっと手を握りあっている。

 よかったな、ニコ。

 兄貴に友達ができたぞ。


 戦闘の最中に、ポーザが憧れの人物と判明したフフェルは、ずっとポーザにつきまとっている。


「うへへへ、ポーザさん。一緒に魔法について語り合いましょうよお」


 第一印象は、おしとやかでダヴィドを献身的に支える淑女、だったフフェルだが今はただのストーカーにしか見えない。


「リーダー助けて!この娘、ドッペルゲンガーの変身も見破っちゃうんだ!」


「それは、逆にすごいな」


 そして、俺とダヴィドは杯をかわしている。


「どうして、魔王軍を抜けたんだ?」


「魔王様が討たれたからだ。かの御方の存在だけが、俺を魔王軍に繋ぎ止めていたからな」


「そうか。主君を、か」


 物思いにふけるダヴィド。

 俺は小さな杯を口に運ぶ。

 ギリアの蒸留酒は酒精が強く、消毒にも用いられる。

 普通は果汁や炭酸水で割って飲むそうだが、俺はダヴィドに原酒を飲む旨さを教えてもらったので、それを飲んでいる。


「単なる略奪者と思っていた奴らにも、主君がいて、家族がいて、師や、仲間がいる、か。俺に足りなかったのは想像力だな」


「知りすぎると戦いで剣が鈍るぞ」


 知っている相手に全力が出せなくなることはある。

 死によって関係が断ち切られることを知るがゆえに。


「ギア殿。頼める義理ではないのはわかっている。どうか、彼女を、ナギを助けてくれ」


「無論だ」


 彼女とダヴィドの関係はわからない。

 だが、ダヴィドが本気で頼んでいるのがわかる。


 ならば俺は応えねばなるまい。

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