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50.鉄雷の海王

「何の真似だ、ダヴィド」


 野営地に着くなり、俺に剣を向けたダヴィドに全員が困惑する。


「何の真似?それはこちらの台詞だ。人間に混じって何をしている、忌まわしき暗黒騎士よ」


 ああ、という顔をリヴィはした。

 予測できたことだった。

 ダヴィドが魔王軍のことを死ぬほど憎んでいるのは、島亀のアペシュの背の上で話した時にわかっていた。

 だから、ギアの正体を知ればこうなるかもしれない、と予想はしていた。


「……そうか、知ってしまったか」


「ウチや。ごめん、ほんとごめん。何も考えてへんかった」


 タリッサがポロリと口にした、俺が魔王軍の暗黒騎士だという情報。

 ダヴィドはそれを聞いてどう思ったか。


「この野営地には人間しか入れない。魔王軍におもねる奴ら、忌まわしき暗黒騎士を入れるわけにはいかない」


 ダヴィドの後ろで、ハルベルクとフフェルの二人も武器を抜いたり、魔法の詠唱を始めたりしていた。


「やる気か?」


「もちろん。ギリアを人の住めぬ錆の町にした魔王軍の輩を討つのは俺の役目だ」


 ダヴィドの目は本気だ。


「仕方ない。それは俺が果たすべき責だ」


「わたしも戦います」


 リヴィが俺の隣に進む。


「バカな!?そいつは魔王軍の暗黒騎士だ。お前を騙しているんだぞ!」


 ダヴィドは信じられないものをみる顔をした。

 まあ、気持ちはわかる。

 リオニアスも同じように魔王軍に攻められた。

 リヴィも両親を失っている。

 それでも、俺のことを信じてくれている。


「騙されてなんかいません。ギアさんが暗黒騎士だって知ってます。それでもわたしはこの人についていく。そう、決めたんです」


「俺も、師匠と一緒に戦うぜ」


 バルカーも前に出る。


「ボクも行くよ。ボクの命はリーダーのものだから」


「な、なんなんだよ。おかしいぞ、お前ら。魔王軍の暗黒騎士だぞ?人類の敵、俺たちの敵だぞ!!?」


「君も何日かわたしたちと一緒に居たよね?それでも見えなかった?ギアさんの人となりや行動を見て、なにも思わなかった?」


「確かに助けられたさ。でも、魔王軍だ!」


 リヴィたちとダヴィドは折り合えない。

 俺が魔王軍にいた。

 その一点で。

 魔王軍というのはそれだけのことをしたのだから。


「リヴィ。良い。戦わなければならない時はある」


 俺は剣を抜く。


「でも、ギアさん……」


「俺は確かに魔王軍の暗黒騎士だった。そして、それはもう辞めた。それを証明しなければならない。人間の敵ではないと行動で示し続けなければならない」


「だから戦うんですか?」


「そうだ。示すためには話し合いが必要だ。だが話すためには力を示す必要もある。どこかの学者さんのようにな」


 タリッサは目をそらした。


「そういうものですか?」


「今は、そういう局面だろうな」


 要するに戦って黙らせろ、というわけだ。


「ハルベルク、フフェル、いつものアレを頼む」


「わかった」


「わかりましたわ」


 ダヴィド達も戦闘態勢を取る。


「我が剣は我がかいなと共にあり、“攻撃力上昇パワーアップ”、三連トリプル!」


「脆弱たる人の身をくろがねの如くなれ、“鉄体アイアンボディ”、三連トリプル


「電光をまといし、我が実体は電磁の雷光、“迅雷ライトニング”、三連トリプル


 それぞれが強化魔法を三連トリプルで唱え、全員が強化されていく。


「暗黒騎士よ、我らの必殺技を見るがいい。強化された攻撃力、鉄と同じ硬さとなった身体、そして駆ける速さは電撃だ。これぞ必殺陣形“鉄雷の海王”」


 強化された三人が突進してくる。


「女神よ、我が手に燐光を“火球”、零距離発射」


 リヴィがなんかやってる。

 リヴィの方へ突進してきた重装備のハルベルクは接敵寸前で放たれ、即時爆発した“火球”に驚く。

 “鉄体”で強化された体には傷などつかないが、それでも人間は火を恐れる。

 ほんの一瞬だけ、目を閉じる。


「それで充分だぜぇ!!」


 その隙をバルカーは見逃さない。

 ハルベルクが目を閉じ、回避ができないその一瞬に全力で殴る。

 その一撃はハルベルクには痛みも、痒みすら与えない。


 ただ、ハルベルクの突進する軌道を逸らしただけだ。


 海の方へ。


「鉄の体に、電撃の加速。つまり、直線突進は得意。けれど細かい動きは苦手なはず」


 リヴィは海に突っ込んでいったハルベルクが浮上するのを確認して、杖の先を向けた。

 発動待機状態になった“火球”が揺らめいている。

 海上にぷかぷかと浮かぶハルベルクは、水中に落ちたはずみで強化魔法が解けてしまっている。

 彼は手をあげて降参した。



 フフェルは強化魔法に加えて、さらに“稲妻外套ライトニングエンチャント”の魔法を発動。

 高速で飛び回るだけで周囲に電撃魔法をばらまいていく。


「指向性を持った雷なんて厄介だよねえ。まあ、ボクには通じないけど」


 迎え撃つポーザは不敵に笑う。


「何か切り札があるにせよ。私には届きません。物理攻撃の間合いからは遠く、魔法では追い付けません。そして、速度特化の魔法や弓では鉄の体に傷一つつけることはできません」


 目にも止まらぬ速さで飛来するフフェルはポーザの上空を通りすぎる。

 その過ぎ去った後で雷鳴がとどろくのだ。


 バチバチと体を走り抜ける電撃に、ポーザは痛みを感じる。


「痛いなあ」


「ほぉら、また行きますよ」


 フフェルは大きく空中でカーブを描き、ポーザの上空へ再突進。

 再度、ポーザは電撃に襲われる。


「ぐうううう!!」


「あらあら手も足も出ないようですわね。次で終わりにしましょう」


 三度突進するフフェルに、ポーザは笑った。


「召喚“灰色の織手”」


 多めの魔力を餌に、ポーザに使役されるモンスターが召喚される。

 それは体長三メートルにも及ぶ巨大な蜘蛛。

 灰色の体に八つの赤い目。

 八つの脚。

 どこか不吉な印象を与えるそれは、高速で接近するフフェルを八つの目で見た。


「こけおどしを!」


 突進軌道上にいる蜘蛛を貫通せんとフフェルはさらに加速する。


 しかし。


 次の瞬間、フフェルは白い糸によって絡みとられ、空中へ吊るされる。


「かかった」


「え?なんで?鉄の鎧すら貫通するはずなのに!」


「この“灰色の織手”は、ボクの使役するモンスターの中でも百番目くらいには強くてね。空を飛ぶモンスターなんかにはめっぽう強い」


「百番目……?」


「ボクは魔物操士。たくさんの魔物を操り、使役する。最近誰かに四百体ほど倒されたから、あと五百体くらいしかストックが無いんだけどね」


「い、一体あなたは、何者?」


「ん?ドアーズのポーザだよ」


 フフェルの顔の疑問符が増えていく。


「……ポーザ……!……?……あ!何年か前に聞いたことがある!北方より来る天才魔物操士ポーザ!」


「ええ?なにそれ、ボク、そう呼ばれたことなんかないんだけど」


「ギリア王国魔法学院の中で聞いたんですわ。まだ魔王軍が現れる前、ここが錆びる前の話。私と同年代の天才についての話を忘れるわけがありません」


「ねえ?なんで目をキラキラさせてるの?」


「あ、あのサインください!」


「ボクたち今、戦ってたよね?」


「そんなのどうでもいいです」


「ええー?」


 蜘蛛の糸で、ぐるぐる巻きにされたフフェルにサインを迫られて、ボクはどうしたもんか、と頭を抱えるはめになってしまった。

 

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