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5.その言葉をきっかけに

 盗賊団でかなりの位置にいた、あるいは中心的人物であったガインツがやられたことで、甲高い声の男は恐慌を起こした。


「た、助けてくれ。なんでもする、なんでもやる。そ、そうだ金か?栄誉か?そ、それとも貴族の位か?」


「そんなものに興味はない」


「な、なら何が望みだ?」


「……特に……何も」


「????」


 俺は、ミスティらの頼みをきいてここにいる。

 それが、俺の望みに通じるものだからだ。

 だが、こいつらを助けることでは俺の望みをかなえることはできない。

 どんな立場も、地位も、金銀財宝とて、俺を満足させることはできない。


 俺は冒険者になりたいのだから。


「そこまでよ」


 後ろから、ミスティの声がした。

 その声に、甲高い声の男の顔に生気が戻る。


 俺は後ろを振り向いた。


「!?」


 そこには、リヴィの喉にナイフを当て彼女を拘束しているミスティの姿があった。


「はぁ、やんなるわ。強いとは思ってたけど、これは予想外」


 ため息をつきながら、ミスティは俺を見た。


「お前も盗賊団の関係者だったというわけか」


「正解」


 ミスティの答えにリヴィは驚いた顔をする。


「え?そんな、嘘、ですよね?」


「嘘じゃないわよ、可愛いリヴィエール。本当に人を疑うことを知らないのね」


 優しげな目で、ミスティはリヴィを見た。

 しかし、それは後輩をいたわる先輩冒険者の姿ではなく、価値のある商品を見る商売人のそれだ。


「冒険者見習いをさらって、奴隷として売買するのがお前の仕事というわけだ」


「まあ、ね。なかなかうまくいってたのよ?なにせ、冒険者に、貴族様に、王国の騎士までいたんですから」


 貴族、というのは俺の後ろにいる甲高い声の男のことだろう。


「仲良く違法の奴隷売買か、この国もずいぶん極まっているな」


 奴隷売買が成立するということは、奴隷を買う相手もいるということだ。

 もちろん、どちらも違法だ。

 人間だろうと、魔族だろうと。


「どこもかしこも人手不足だからね。元手がかからない良い商売だったわ」


「で、どうするつもりだ?」


「この娘の命と引き換えに、あたしらも見逃してくれないかしら?」


 正直に言うと、ミスティにしろ、リヴィにしろ、それほど親密なわけはない。

 今日出会ったばかりなのだ。

 しかし。


「一度助けた者を、見捨てるのは……俺の流儀ではないな」


 なのだ。


「ふうん?なら、もっといい案があるわ。あたしたちと手を組まない?」


「何?」


「どうやら、ガインツよりあなたの方が強いようだし、リヴィもあなた専用・・にしてあげる。あなたの流儀は傷つかないし、私たちも死ななくてすむ……一考の価値はなくて?」


「無価値だ」


 一考する意味もない。


「……なんですって?」


「俺の流儀、俺の騎士道に照らして、そしてなにより俺は、俺がしたいことをする。今はリヴィを助け、お前たちを倒すと決めた!」


「……!?……愚かね……。そんなにこの娘の命が大事なら、武器を捨てなさい。早くッ!」


 ぐっとミスティはリヴィの喉にあてたナイフに力を込める。


「リヴィが死ねば、俺はお前を殺す」


 その宣言とともに、俺は殺気を放った。

 今のいままで抑えていた殺気を。


 それは、まるで物理的な圧力にすらミスティに感じられた。

 足が震え、地面が揺れているようにすら感じる。

 今すぐに逃げたい。

 このままじゃ、殺される。


 俺の後ろで腰を抜かしている甲高い声の男はすでに白目をむいて気絶していた。

 ある意味、彼のほうが幸せなのかもしれない。

 また、底に落とされた盗賊団の雑兵らも少しでも俺から距離を取ろうと壁に集まっていた。


 しかし、この程度で動けなくなるほどの恐怖とは、存外にリオニア王国の力もたいしたことはない。

 よく考えれば、俺に一撃で殺されたガインツも示現流が厄介なだけでたいした腕では無かった。


「ミスティ、リヴィを放せ」


「い、嫌よ。あたしはまだ、負けてない」


「……そうか。それがお前の選択だな?」


 ミスティの意思は確認した。

 ならば、もう待ちはしない。


 俺は強烈な踏み込みで、一気に距離を詰める。

 剣の間合いを計算し、ミスティの右腕だけを切断する。

 彼女の肉体が切断を認識する前に、リヴィを抵抗なく奪取。


 そのまま、俺の後ろにリヴィを隠す。


「俺の側から離れるな」


「はい!」


 ミスティは右腕が切断されたことを認識した。

 とたんに、激痛と出血が彼女を襲う。


「あ、あああ!?ああああ!??あたしの腕が!!?」


「戦場に立ったならば、命のやり取りをする覚悟を持たねばならない。それは老若男女の区別なく、だ」


 痛みにミスティは我を忘れた。

 落ちた腕をくっつけようと拾おうとする。


「あたしの腕!」


「さらばだ」


 かがんだ彼女へ剣を一閃する。

 痛みをそれ以上感じることなく、ミスティはどさりと地面に倒れ、そして動かなくなった。


 気絶した賊どもと甲高い声の貴族らしき男。

 両断されたいかつい鎧男。

 ミスティ。

 そして、俺とリヴィ。

 それがこの場にいる全てだった。


 夜が明ける前に、俺たちはパリオダ露天鉱山町跡から脱出した。

 ガインツは巡回している者たちを集めたと言っていたが、まだ帰ってきていない分隊がいると厄介なため、見つかる前に逃げることにしたのだ。


「リオニアの旧王都に行きましょう」


 とは、リヴィの声である。

 これからどうするか、という問いにたいしての答えだ。


「リオニアの旧、王都?」


「はい。もともとリオニアの建国時からの都だったんですけど、魔王軍の侵攻の際にあまりにも魔王領に近かったために遷都したんです」


 なるほど。

 敵の領地の近くに首都があると危険というのは頷ける話だ。

 そして、それほどまでにリオニア王国は魔王軍おれたちを恐れたということだ。


「そこには何があるんだ?」


「リオニア冒険者ギルドの本部があるんです。そこに報告すればギルドが然るべき手を打ってくれます」


 そういえば、リヴィと……ミスティはリオニア冒険者ギルド所属と紹介していたな。

 冒険者になるためには、まず冒険者を知らねばならない。

 冒険者ギルドというのはその情報の塊だろう。

 敵を知り、己を知れば百戦危うからず、というだろう。

 かくも、情報は大事なものなのだ。


「む?ぐぐぐ?」


 と、俺の背中で身動ぎするパリオダ。

 俺は正確に奴の急所へ当て身をし、意識を落とす。

 この甲高い声の男ことパリオダは、ニブラス王国とリオニア王国の両方に領地を持つ貴族だった。

 しかし、ニブラス王国が魔王軍に敗れたことで領地を失い、残ったリオニア王国では小領主として貴族の末端にいたらしい。

 そのパリオダがなぜ、失ったはずの領地で盗賊団、そして奴隷売買組織をしていたのかは謎だ。

 リヴィから聞いたその話で、このパリオダがニブラスの騎士を恨んでいた理由はわかった。

 まあ、ニブラスの騎士の皆さんにとっては逆恨みだろう。

 ニブラスを潰し、貴族領を接収したのは魔王軍おれたちなわけで。


 話を聞くと、こいつがこうなった責任の一端を感じてしまい、簡単に命を取ることができなくなってしまった。

 こういうところが師匠に甘い、と言われたところなんだろうなあ、と俺は心の中で思うのだった。


 そして、夜が明け、日中を移動に費やし、日が暮れる前に俺たちはリオニア王国の旧王都リオニアスへ到着した。

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