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47.ソロでボス戦

 夢から目覚め、代わり映えのしない石壁を見て、俺は少しホッとしたのだった。

 自分を含めてすべてがあの錆に埋もれそうな場所は精神に悪い。


 少し寝たことでスッキリした気がする。

 そして体内時計は、まだ猶予があると教えてくれる。


 ダンジョンボスである大多頭蛇ラージヒュドラのナンダは、九つの頭を持っていた。

 そこまで成長すると、もうドラゴンなどの上位種族に匹敵する強さとなる。

 もたげた頭を含めた高さは五メートル以上に達している。

 これはリオニアスの城壁より高い。

 横幅もあいまって、城のようにも見える。

 これを単独討伐など、正気の沙汰ではない。


 温存などと言ってられないので、暗黒鎧アビスアーマー暗黒剣ダークエッジを起動。

 フル装備で挑むことにする。


「挑戦者か……初めて邂逅するそれが、まさか魔界の者とはお互い奇異な運命よな」


 九つの首がそれぞれ同じ音を紡いで喋る。

 名前付ネームドきのダンジョンボスともなれば人間以上の知能を有しているのだ。

 洞窟に反響して、いくつものナンダの声に包まれているようで落ち着かない。


「あんたに恨みはないが、倒させてもらう」


「この島全て我が知覚の領域にある。故に、そなたの選択したことを、その意味はわかっている」


 俺のした選択。

 この島の多頭蛇ヒュドラの絶滅か、ダンジョンボスの討伐か。

 だ。


「全部見ていた、と?」


「然り、故にその選択に感謝し、その勇気に敬意を表す」


「勇気、か。それは俺が持っているものじゃないんだがな」


「なんの、勇気持つものすなわち、それ勇者よ。さあ、来たれ魔界の勇者よ。その手で勝利を掴んでみせよ!」


 ナンダの闘気が膨れ上がる。

 俺も、暗黒剣ダークエッジを構え、足に力を込める。

 戦闘開始だ。


「我は無限の竜王の末なり、落つる雨の恵み手なり、我が誓願により来たれ“難陀ナンダ”」


 自分の名前が魔法そのもの。

 名前を呼ぶだけで、なんらかの効果を発揮するというのは竜王や魔王などの上位種族にありがちな力だ。

 その真名まな、あるいは忌名いみなに込められた力だけでもとんでもない。

 詠唱こそ必要なものの、ナンダも紛れもなく忌名いみな魔法を使う強敵だ。


 呼び出されたのは無数の雨、それも高圧を加えられて切断能力を持った雨の刃だ。

 それが降ってくる。

 暗黒鎧アビスアーマーの防御力なら一滴程度であれば無視できうる威力だ。

 しかし、それが千も万も降り注げば、さすがに傷がつく。

 そして、億もの雨の刃に切り刻まれれば壊れてしまう。

 そうならないように回避するが、そこへナンダの九つの首が突進攻撃を仕掛けてくる。

 “難陀ナンダ”の雨の刃は発動者には効かないようで、雨の中を濡れるだけで突進してくる。

 避けて、避けて、それでも避けきれずに多頭蛇ヒュドラの頭突きを食らう。


「うぐぁッ!」


 動きがとれず、雨の刃に切り刻まれながら、石壁に叩きつけられる。


「この程度ではあるまい?」


「まだまだぁッ」


 俺の胸鎧をへこませている頭部を離れないように掴み、空いた手に暗黒剣ダークエッジを握る。

 そのまま首を掻き切る。


 尋常じゃない血液が吹き出し、頭から血まみれになる。

 支えを失った俺は石壁からずり落ちる。


 そこで“難陀ナンダ”の効果時間が終わり、雨が止んだ。


 暗黒鎧アビスアーマーは胸部にへこみ、全身に切り傷、そして降りかかった血がシュウシュウと音をたてている。

 もしかして、鎧を溶かしているんじゃないだろうな。


「さすがは魔界の鎧よな。我が溶血毒を受けても表面が溶けるだけとは」


「血が毒とは難儀な生き物だな」


「その通りよの。まるで仕組まれたかのごとく、我らの生態は他の生物の戦うためにある。まあ、この場のボスとして、我はそれを良しとしてはいるがな」


「戦うために生まれた生き物か。まったく他人事じゃないな」


 喋っている間に、体力は回復した。

 まだ戦える。


 駆ける。

 そして、跳躍。

 石の壁を蹴ってさらに上へ。


「空中で我が首を避けられると?」


 残った八本の首が一斉に突進してくる。

 俺の退路をふさぐような軌道で、だ。


「避けられる、とは思ってないさ」


 ドン、と腹がぶち破られるような衝撃。

 比較的威力の低そうな首に、わざと当たったのだ。


「なんと?」


 後は、さっきの再現だ。

 掴んだ首を一気に切り落とす。

 吹き出した血が鎧を溶かす音がするが、気にしない。


「“暗黒ブラックアウト”」


 放った魔法は、視界制限のステータス異常魔法。

 目が見えなくなった首は、俺がさっきまでいた場所へ殺到し、衝突しあう。

 俺の腹がぶち破られそうな程の威力だ。

 正面衝突なんかしたら、めまいですまない。残った七本中四本が衝突し、意識を失ったようでだらりと垂れ下がる。

 暗黒鎧アビスアーマーの性能を信じて、一気に駆け寄り、次々に切って落とした。


 喉の奥から何か熱いものがせりあがり、口から溢れた。

 真っ赤なそれは吐血だ。

 二度の首の衝突で、内臓が傷ついたか。


 ゆらりとナンダの動きが緩慢になる。


「見事だ。九本にまで伸ばした首が六本も落とされるとは想像もしておらなんだ。そなたの評価がますますあがった」


「そいつはどうも」


「故に、我も手加減をしていては失礼にあたると思うてな」


「……手加減、だと?」


「“跋難陀バツナンダ”」


 多頭蛇ヒュドラの口にした言葉は、とてつもない言霊に満ちていた。

 そして、切り落とした首の断面が盛り上がり、首が一つ、また一つと再生される。

 九本の首がみな再生すると、最後にもう一本。

 十本目の首が鎌首をもたげる。


「十本首の多頭蛇ヒュドラか。もう、竜王クラスの力を持っていてもおかしくないな」


 要するにバケモノというわけだ。


「安心するといい。この魔法は一度しか使えぬ」


「……おおいに安心したぜ」


 戦況は振り出しどころか、不利な状態がさらに上乗せされた。

 捨て身の首切り落としも、もう通用しないだろう。

 なにより、俺の体へのダメージが大きすぎる。

 あれから血を吐くことはないが、ダメージが溜まっていることは確かだしな。


 首が一本増えただけなのに、お馴染みの突進攻撃の頻度が増した。

 避ける箇所が減ったともいう。

 さらに合間に「我は無限の竜王の末なり、落つる雨の恵み手なり、我が誓願により来たれ“難陀ナンダ”」忌名いみな魔法を仕掛けてくる。


 無限の雨の刃。

 十の首の攻撃。

 なんとかいなし、かわし、防ぐ。

 その間にも雨の刃は暗黒鎧アビスアーマーをわずかずつ切り裂いていく。


「よくかわす。よほど目が良いのだな」


 ナンダの感嘆の声。


「キツイ師匠に鍛えられたんでな」


「ならば、見えていてもかわせない攻撃をするよりあるまい」


「なに?」


 ナンダは十の首を規則的に動かす。

 ある首は円を描き、ある首は一直線に伸びる。

 その十の首の動きは、不吉なほどに美しい。


「“王敵デンウェン”」


 そして、それは魔法だった。

 首の動き、作り出した形が魔法を象っていたのだ。

 声に出す詠唱と同じように、魔力がその形を通過することで魔法として顕現する。


 ナンダが発動したのは、超巨大高圧水流だ。

 触れたものすべてを切り裂く水の刃。

 見えていてもかわせない、というのは視界すべてを埋めるほどの水量のことだったらしい。

 そんなのに直接当たれば、暗黒鎧アビスアーマーでもただじゃすまない。

 全力で防御。

 さらに気休めで障壁魔法を詠唱しておく。


 “王敵デンウェン”の水流が俺に向かって殺到する。

 直撃した直後に、障壁は粉々に割れ砕ける。

 本当に気休めだった。

 全力で防御した俺に水流が叩きつけられ、鎧がガリガリと削られていく。

 一瞬のようで、永遠にも思えた水流の奔流。

 俺は耐えた。

 最後まで耐えきった。


「見事」


 と、ナンダが言ったので、俺はニヤリと笑って見せた。

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