45.爬虫類嫌いには地獄の島
落下を利用して、多頭蛇の首を一本切り飛ばす。
フシュルルルルル、と空気を漏らすような音がして、ドスン、と首が落ちた。
しばらくの間、首は生きて動き続けていたがやがて止まった。
「師匠!」
「おう、元気だったか?」
ズン、と首の一つの脳天を貫きながら落ちてきたのはダヴィドだ。
「ギア殿、話している場合ではない」
「わかってるって、俺の仲間が無事かどうか、気になっただけだ」
「落ちながら、“火球”!」
といいながら、リヴィが言葉通り、“火球”を放ちながら落ちる。
それは首の一本を燃やし、黒こげにした。
「リヴィエール、無事か?」
「バルカー君こそ……ひどい顔だよ?」
「よし、ドアーズ再集合だな。まずはこいつを倒すぞ」
「わかりました」
「了解だぜ、師匠!」
「ボクに任せてよ」
「俺も、助太刀しよう」
隊列を組んだ俺たちに対して、多頭蛇の方も首を一瞬で三本潰されたことに対して激怒している様子を見せていた。
残った五つの首が幻惑するようにうねうねと動く。
そして、キシャアアアアッと叫び声をあげながら、五つの首がこちらへ突進してくる。
俺は横にステップしてかわし、伸びきった首を一刀で切り捨てる。
ダヴィドも危なげなく首を落とし、バルカーは強く握った拳で頭を貫く。
リヴィは“火球”を目眩ましに一度、相手を怯ませるのに一度、とどめを刺すのに一度。
計三度の火球によって、その首は真っ黒に焼け焦げて動きを止める。
魔力コントロールと詠唱の速さ、正確さ。
しっかり練習しないとできないことだ。
やっぱりちゃんと修行しているんだな。
ポーザは小鬼を囮にしつつ、妖精と自身で挟撃し、首を落とす。
小鬼はギリギリ攻撃を回避していた。
なかなか素早い。
あっという間に、多頭蛇は全ての首を潰された。
「あれ?こんな簡単に?」
バルカーが呟く。
「多頭の連携攻撃が厄介なだけで、一頭ずつならただのでかい蛇だからな。このくらいの頭数がいれば苦戦はしないさ」
「さすが師匠……」
「とはいえ、アペシュが厄介がるほどの相手がこの程度のわけがないが……」
俺が危惧をのべると、呼応したわけではないだろうが地面が揺れる。
何かを地下で爆発させたような揺れだ。
「ギアさん!?」
「向こうには何がある!?」
揺れの中心、そして爆発の中心を予測し、俺はそこを指す。
「そこは!」
「洞窟が!ボクたちが避難してて、多頭蛇が住み着いていた」
「おそらく、さっきの奴の親か主人だ。もっと強い可能性がある。注意しろ!」
多頭蛇の生態はよくわかっていない。
最初、普通の蛇のように頭を一つだけもって生まれ、成長に従って頭が増えていく、ことくらいだ。
それはつまり、頭が多いほど年経た蛇であるということ。
ほとんど場合、それは強さの強弱を示している。
洞窟の出口から現れたのは、八本首こそ変わらないが、その大きさがさきほどのものよりさらにでかい、大多頭蛇だった。
それが首を一斉に前に突き出し、吹き飛ぶような速さで迫ってくる。
そして、そのままバラバラになってしまった。
「え?」
誰かのもらした疑問の声はそのまま、全員の疑問の声だった。
そして、その答えはすぐ後に現れた。
オリーブの髪色、水晶の耳飾り、青い上衣、白いズボン。
浮かべた表情はとびきりの笑顔。
手には革手袋、そして魔圧発射式弩。
タリッサ・メルキドーレ。
二つ名を“藍水”。
「おひさ」
弩を持ってない左手を振る。
「……久しぶりだな」
渦の海域で、タリッサが自作アイテムで大爆発を起こして以来の再会だ。
まあ、二日しかたってないわけだが。
「それはええねんけど……子供の多頭蛇相手に五人がかり、肝心の大多頭蛇はウチ一人、あんたらホンマにウチの手伝いする気あるん?」
ニコニコの笑顔のまま、辛辣なことを言い始めるタリッサ。
「一人で戦うより、かかる時間は早いはずだぜ?」
「そういう言い方もあるんは確かやわ。けどな、ウチ一人でやってもそう時間は変わらへんと思わん?」
その言動に現れているのは圧倒的な自信。
“黄金”ティオリールが持っていたのと同じものだ。
勇者のパーティとして世界を救った者の自負。
それがタリッサにはあるのだ。
「てことはなにか?スポンサー様は、俺たちを契約解除したい、と?」
「そうは言うてへんけど……任務遂行能力に疑問符がつく、とは思っとるで」
「ほう?なら、俺たちはあんたに何を見せればいい?」
「簡単や。ここはな、ヤマタ島言うてな、多頭蛇の生息地として有名な島なんや。けど、マルツフェル近海にそんな島があるのはあかん、と商業都市自治政府が憂慮してん」
笑顔の、瞳の奥が俺を値踏みするように見ている。
まあ、何が言いたいかはわかる。
「ここの多頭蛇を全滅させろ、と?」
「出来へんか?」
「出来ないことは……ない」
「ない、けどなんや?多頭蛇も生き物やから可哀想や、とか思てんのちゃう?」
多頭蛇は、蛇王の眷族だ。
そして、蛇王は竜族の有力者でもある。
魔王様亡きあとの魔王軍で、竜族の協力は必須だ。
協力関係が解消されると、魔人族の魔界での優位が崩れることになりかねない。
魔王軍を離れた俺には直接関係のないことではある。
しかし。
魔王軍には、ボルルームをはじめとした知り合い、友人、戦友がいる。
彼らを俺の行動で危機にさらすわけにはいかなかった。
「一つの生態系を壊すのはどうもな」
外部からの干渉のない島で、一つの生物を絶滅させたら何が起きるかわからない。
それは、タリッサも想像がついたようだった。
「それは確かにあるねん。せやったら、ここの地下にあるダンジョン、大蛇の巣窟のボス撃破が条件でどうや?」
「この島にダンジョンが?」
「せや、未踏破のが一つあるねん。そもそも、この島の多頭蛇はそのダンジョンから出てきた説もあるで」
それはどうでもいいが、全滅からダンジョンボス撃破に条件が変わったのは僥倖だ。
俺とパーティの仲間たちがいればなんとかなる。
「わかった。それで行こう」
「ふふ。こちらが譲歩したんや。条件を追加させてもらうで。まず、ダンジョン探索はあんた一人で行きや」
「なんだと!?」
「まだや、調査の期間が無駄に伸びてるさかい、探索に期限を設けさせてもらうで。一日や。これから出発して、明日の今が期限や」
「ちょっと待ってください!」
「そうだぜ、いくらなんでもそれは横暴だ!」
リヴィとバルカーが抗議の声をあげる。
「一人でダンジョン探索は無謀、ボクだって知ってる」
ポーザも加わった。
「アホか!それくらいもできへんで、ウチの手助けなんか出来るわけあらへんやろ!」
怒声にも似たタリッサの声に、三人は押し黙る。
うん、貫禄が足りない。
「安心しろ。俺一人で行く」
「この子らは責任もって面倒みるさかい。安心しいや。……あんたが帰って来なくても、な」
「……地下の、あんたが開けた穴の奥か?」
「せや。まあ、気いつけていってきてや」
タリッサは手をひらひらと振った。
顔に張り付いた笑みは変わらない。
「ギアさん!」
「リヴィ……こいつらの、面倒はしっかり見てろよ。ダンジョンに勝手に入ったりしないようにな」
「はい」
「飯はあのスポンサー様にたかれ、責任を持つそうだ」
「はい」
「ちゃんと美味しいご飯を用意してるさかいなー」
「魔法の練習は欠かすな。今ちゃんとやっておけばお前の力になる」
「はい」
「最後に、俺の帰るのはお前のところだけだ。必ず帰るから待っていてくれ」
「はい!」
よし、覚悟はできた。
後は行くのみ。
地下のダンジョンに向けて、俺は出発した。




