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最終話.十年後の世界

「第七回白月杯武闘大会決勝戦!」


 という声が大きく響いた。

 リオニア王国の副都リオニアスの、冒険者ギルドの裏手に造られた大闘技場いっぱいに、だ。

 この闘技場は七年前に建設された。

 このリオニアスにおける勇者と英雄、あるいは“黄金”と英雄の決闘に由来する武闘大会が毎年開催されている。


 剣と魔法、お互いの技量を尽くして戦われるこの大会は、年をおうごとに参加者が増していき、リオニアスの風物詩となっていた。


 前年優勝者のゼハラートは、都市国家ブランツマークの出身であり、その元領主であるギュンター・フォン・ブランツマークに剣の教えを受け、またサンラスヴェーティアに行きロゾールロ師に神聖魔法の教えを受けた魔法戦士である。

 その実力は、リオニア王国騎士団の団長代行であるリギルードを一蹴し、昨年の決勝では竜拳士バルカーと激戦を繰り広げ僅差で勝利していることからも明らかだ。

 言わば、このゼハラートこそが大陸最強の人物であることは疑いようもなかった。

 行方不明の勇者や、その仲間たちといった英雄たちも全盛期の力は無く、新たな英雄の台頭をむしろ微笑ましげに見守る立場であった。


 今大会でもゼハラートは圧倒的な力を見せつけていた。

 ニブラスの若き復興王を倒し、ギリアの“鉄雷の海王”を下した。

 天才かつそして努力と修練を怠らない大陸最強。

 それがゼハラートだ。


 北国出身のブランツマーク伯の母方の縁戚らしく、端正な顔立ち。

 かつての勇者を思い起こさせるような、そして白銀伯と謳われた師と同じ白い鎧。

 手にした剣は魔法道具製作に長けているブランツマーク製の完全型人造魔剣。


 闘技場の上に立ち、ゼハラートは対戦相手が来るのを待っている。

 今大会初参加にして、決勝まで勝ち抜いてきた戦士らしい。

 ただ、そのブロックの参加者の名前でゼハラートが危険視するものはいなかった。

 要するに無名の戦士が、たまたま無名のブロックで勝ち抜いただけ。

 ゼハラートはそう判断していた。


 やってきた戦士を見て、ゼハラートはため息をついた。

 年の頃は三十半ば、普通の革鎧。

 武器はリオニアスの鍛冶組合棟梁のデンター刀剣店のものだろう。

 鞘を見ればわかる。

 しかし、あの店は別に客を見てものを売ってない。

 欲しいものを欲しい人に売っている店だ。

 それが強さも剣の目利きも証明することはない。


「パパー、がんばれー!」


 と客席から声援が聞こえた。

 ゼハラートは未婚なので、相手の選手のものだろう。


 そこで確信する。

 相手は冒険者、それで生活し食いぶちを得ている。

 だが、もう旬は過ぎている。

 箔をつけようと大会に出て、たまたま勝ち上がっただけ。


 ゼハラートの強さを証明するには物足りない相手だが、決勝に残ったのだ。

 記念にボコボコにしてやろう。

 子供たちにバカにされなきゃいいな。

 パパ弱い、ってさ。


 その相手選手が歩いているのを見た観客から、どよめきが起こる。


 おい、あれって。

 もしかして。


 という囁きが観客席で聞こえる。


 もし、ゼハラートが相手の試合を一戦ごとに見ていたら。

 一回戦で、昨年決勝で激戦を繰り広げた竜拳士バルカーが負けていたのを知っていたら。

 二回戦で、かつて勇者と呼ばれていた謎の剣士エクリプスとの戦いを見ていたら。

 三回戦の霊王アルザトとの戦いを観戦していたら。


 そのどれもが、ゼハラートより遥か高みにある戦いだったと気付いただろう。


 惜しむらくは、そのどれもが無観客試合、というか予選扱いで客を入れない試合だった。

 だから、観客もその選手のことを気付けなかったのだった。


「おいおいおい、あいつ」

「今、パパー、がんばれー!って聞こえたぞ」

「子供いるのかよ、ってことは」

「ハアハア、もしかしてリヴィエールちゃんの子供!可愛い!」


 観客席の中年冒険者たちがそう言っていた。


「前年優勝者、ブランツマーク、ゼハラート!」


 司会の紹介に観客がドン!と歓声をあげる。

 さすがにゼハラート。

 大陸最強の戦士であることは間違いない。


 だが。


「挑戦者、リオニアス、ギア!」


 冒険者を主にした観客から、雄叫びのようなドでかい歓声が鳴った。

 これはゼハラートへの歓声を上回る声量だ。


「な、なんだ、これは!」


 ゼハラートはもう困惑している。

 こんな感じになったことは今までなかった。


「試合の前に、この選手のことをご紹介しましょう!ご存知の方も多いかもしれませんが、この大会には初参加であります。改めて紹介をしたほうがよいでしょう!」


 元密偵もとスカウトであり、三級冒険者であった司会者は声をあげた。


「ギア氏は十年前まで、ここリオニアスにて数々の偉業を成し遂げた“英雄級冒険者”であります。魔王軍残党による襲撃、ニブラス亡霊軍によるリオニア王宮襲撃事件、西の村巨大スケルトン事件などを解決し、このリオニアスの英雄となった人物です」


 おいおい!なんだそれ聞いてないぞ。

 し、しかし、成し遂げたことと強さは別だ。

 それに、全盛期ピークは十年前。

 なら、もう下り坂に違いない。


「今回は今手掛けている仕事が一段落し、休暇が取れたのでリオニアスに帰還し、そしてこの大会に参加することになったのです!」


 おおおおお!と歓声があがる。


 今のどこに、そんな歓声になる要素があった?


「さあ、優勝者ゼハラート氏は準備万端、挑戦者ギア氏も意気揚々です。両者向かい合って」


 試合開始!


 という声にあわせて、ゼハラートは動いた。

 ロートルは一撃で、ド派手な技で沈めれば観客はこちらのものだ!


 ゼハラートは魔剣に魔力を込めて、刀身に炎をまとわせた。

 この大烈火天斬剣で決める!


 技の発動のタイミングで、ゼハラートは気付いた。

 目の前に、距離をはかっていたのにギアがいる。

 ギアの間合いに入っている!?


「俺を相手に炎を使うとは、面白い」


 ゼハラートはなぜか背筋が凍るような感覚になった。



「うわあ、パパが相手の火をとっちゃったよ!」


「熱くないのかなあ」


 男の子と女の子が試合を見て、それぞれの感想を述べる。

 母親は試合と二人の様子を見ながら、微笑んだ。


「パパは火を使うのが得意なの。だから大丈夫よ」


「そうなんだ!」


「パパ、すごい!」


「さあ、パパを応援しましょ。ね、ラック、ペネロペ」


 ラックと呼ばれた男の子とペネロペと呼ばれた女の子は頷いた。

 そして声をあげる。


「パパ、がんばれ!」


「パパ、がんばって!」


 闘技場にいる父親は余裕そうな笑みを浮かべて手を振った。



 試合そのものは、終始ギアの圧倒で進んだ。

 剣、魔法、技量、筋量、全てにおいてギアが上なのだ。

 ゼハラートが全力で挑んでいるのに、ギアには余裕が見えるのだ。


「くそ、くそ!くそッ!なぜだ、なぜ!」


「単純に言うと修練が足りない、なんだが。まあ人間にしてはよくやってる」


「俺にかなう奴など一人もいないはずだ!」


「ギュンターは心の鍛練は苦手だったのかな」


「我が師のことなど知らぬくせに!」


「知ってるさ」


 軽く感じる振りが異常に重く、防いだゼハラートの魔剣は吹き飛ばされる。


 そこから、なんとかゼハラートは持ち直そうとするが、結局、鬼神のごときギアの攻めに叩きのめされた。


 軽く優勝を決めたギアは表彰式もそこそこに、家族のもとに戻った。


「お疲れ様、ギアさん」


「いやあ、久しぶりに体を動かしたな」


「パパ、おつかれー」


「おつかれー、パパ」


「おう、ラック、ペネロペ。応援届いたぞ」


「これでギアさんは、剣と魔法で大陸無双、ですね!」


「いや、ここでタイトル回収しなくていいから」


「どうします、休暇まだまだありますよね?」


「ボルルームが十日も休んでいいって言ったからな」


「そしたら、ニコちゃんのところでご飯を食べましょう」


「ニコズキッチンの本店か。魔王都支店ではよく食べるが、久しぶりに行ってみるか」


「僕、ハンバーグ食べたい!」


「私は、えーっとえーっと」


「もう、お店についてから決めましょ」


 はーい、という子供達を連れて、俺はリヴィとニコズキッチンへ向かった。


 十年前と同じ景色、そして違う風景。


 俺も、リオニアスも、魔界も、なんなら世界も変わった。

 これからも変わり続ける。


 その中を俺は愛する者たちと歩いていこう。



 と、なるとタイトルは変えねばならないな。

 さしずめ。


「魔王軍に復帰しました~愛と朧偃月で世界最強~」


 ……やっぱり変えるのは止めようか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最近のなろう作品の中で久しぶりに途中で読まなくなったり、読み飛ばしせずに楽しむことが出来ました。 ページ数、文字数が多いのにもかかわらず誤字脱字が物凄く少ないので気持ちよく読めたのも良か…
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