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411.世界が終わる前に

 闇色の繭から霊帝が現れた。

 “封印”でももう短時間しか押さえきれない。


「小癪な真似を。しかしいくら小手先の技で時間を稼いだとしても、私を止めることなどできない」


魔王剣魔神斬ゲヘナクラッシュ!」


 魔王のみが扱える魔王剣。

 これは人間の聖都であるサンラスヴェーティアに封印されているが、魔王軍が人間界に攻めこんだ時に当時の暗黒騎士の魔将が奪取することに成功した。


「成功した歴史に書き換えたんだけどね」


 それによってラスヴェート神に謁見することなく、魔王の力を得ることになった。

 そういうふうに、ギアが“霊帝に勝つために成長する”ための調整をリヴィはしていた。


 その結果。

 ギア・サラマンディアはまさに対霊帝に最適化した魔王に変貌していた。


 その精神性は元のギアとはおそらく違う。

 下から成り上がってきたギア・サラマンディア。

 はじめからエリートで、霊帝を倒すためだけに成長したギア・サラマンディアは明確に違う。


 相手を正攻法で叩きのめすように形成された今の霊帝を、さらに正攻法で叩きのめす。


 霊帝の振るう白い剣を、ギアの魔王剣が弾く。

 その弾いた勢いのまま、斬り込む。

 弾かれた勢いで硬直していた霊帝は、それをまともに食らう。


 今の霊帝は全ての能力を放出し、失っている。

 それは新しい世界のリソースだけで俺を倒そうという決意をしたからだ。


 その是非はともかく、今の霊帝は“体力上昇・極限”も“瞬間回復”もない。

 受けるダメージは、ちゃんとダメージとして食らう。


「ぐ、うううう」


「痛いか」


「痛みもまた、創成の苦しみだ。神たる者、自身が苦しまずして新たな世界を生むことなどできない」


「俺はみなが笑って過ごせる世界にしたい。もちろん、俺自身もな」


 リヴィはそれを聞いて、ちょっとだけ嬉しくなった。

 どういう成長の仕方をしても、ギアはギアなのだ、と。

 リヴィを幸せにする、その過程でいろんな人たちにも幸せにするのが本来のギアの望みだ。

 このギアは全員が笑って過ごせる世界を目指しているようだ。


 ちょっと違うけど、同じようなところを目指している。


「私は世界を創る!」


「俺はお前を倒す」


 ギアの剣が振られ、霊帝の剣と衝突する。

 黒い魔王と白い神は青い星の下、明けぬ夜の世界で戦い続ける。

 解き放たれた幾千万の能力=魂が浮遊して、その戦いを見守る。


「女神様」


 戦いは完全に二人だけのものになって、リヴィはそれを見守っていた。

 そこにミスルトゥが話しかける。


 イグドラールの主神であるリヴィとイグドラールの地母神であるミスルトゥ。

 どちらも同じ世界の神なのに、対面するのはこれが初めてだったりする。


「ミスルトゥさん……でしたっけ?」


「はい。そのミスルトゥです」


「美人さんですね。ギアさんに変なことされませんでした?」


「それが数ヶ月の旅の間、まったく手を出してきませんので」


「魔界で側仕えをしていたエリザベーシアさんも言ってましたね、それは」


「魔王としての側室、という方ですか?」


「本人たちは魔王と秘書みたいな感じですけどね」


「浮いた話が一つもない殿方もまた、なんというか」


「わたし一筋ということですね」


 本妻の自信、というやつですわね。

 と、ミスルトゥは声に出さずに呟いた。

 同じ神ではあるが、向こうは十年神をやってるのに比べてこちらはまだ一月ほどである。

 神の格的には向こうが上だ。


「あの二人、どちらもギアさんなんですけど、どちらも違うんですよね」


 ギアの姿を模した白い神“霊帝”。

 霊帝に勝つためにやり直した黒い魔王ギア。

 どちらも、ギアの姿をしているが本人ではない。


 リヴィのことを忘れない、と約束したギアはここにはいないのだ。


「本妻といってもその程度でしかギア殿を信じてらっしゃらないのですね」


「なにかいいました?」


 ミスルトゥの挑戦的なセリフにリヴィは無機質な顔で彼女を見た。


「あのギア様はギア殿ではありませんけれど、わたくしたちはギア殿を信じておりますから」


「わ、わたしだってギアさんを信じてますよ!」


 リヴィはちょっと動揺した。

 慌てる顔が可愛いですわ、とミスルトゥは思った。


「ちゃんと帰ってきますわ。なにせギア殿ですもの」


「そうですね。ギアさんですもんね」


 共感することで、人間関係は改善される。

 リヴィとミスルトゥはちょっとだけ仲良くなった。


「ところで、霊帝が変化する前に言ったこと。どういう意味だったかおわかりになりますか?」


「七つの封印が解け、ラッパが鳴らされ、地獄の門が開いた。赤と白と黒の騎士が現れ、青白い騎士が終末を連れてくる。女竜が裁かれ、魔王が立ち塞がる、とかいうやつですね。なかなか終末感を煽るセリフですよね」


「ところどころで聞き覚えというか、見覚えのあるものがありますわね」


『それは黙示録の箇条書きだな』


 と、二人の頭の中に声が響いた。


「どなたです?」


『リヴィエール君。今、ニコを再生させている。君の記憶も参照したい、協力してくれるか?』


「ニコちゃんを知っている……?」


『俺はハヤト、そちらの世界では勇神ハヤトと呼ばれている』


「あ、勇神様!お元気ですか!」


 キャロラインが反応している。

 そういえば彼女がこの戦いで活躍するのに勇神の力を借りたらしい。

 そのために彼女も声が聞こえるのだろう。


『働き過ぎて辛い……というのは置いといて、ニコは俺の管轄下にある人間なので優先的に再生している』


 ニコは、リヴィの幼なじみだ。

 料理の才能があって活躍していた。

 彼女はそういえば神の加護を持っていると言っていたことがある。

 勇神ハヤト、のということか。

 彼女も異界化に巻き込まれて命を落としている。

 それを再生している、ということか。


「わたしの記憶が役に立つなら」


『すまない……戦いもおそらく決着まで近いだろう。そのうえでさっきの話の続きだ』


「もくしろく、とかいう奴ですか?」


『それそれ。俺の元いた世界で主に信仰されている宗教の外典、ええと正しい教えではない、かな』


「宗教の中の正しくない教え、ですか?」


 よくわかりませんね、というリヴィにハヤトは声で困った様子を示した。


『俺も十代で去った世界の話だからな。この話自体も正しくないかもしれん。まあ、かいつまんで言うと世界か終わるとしたらこうなるよっていう話だ』


「終末の話ですか」


「なるほど、救いを求める宗教に誰も終わりなんか求めてないですものね」


『そうとも限らんがな。ともあれ、そういう話だ。んで、それを霊帝は再現している、ということだな』


「あなたの元の世界と新しい世界は同じルーツを持っている、と?」


『いや、終末観が共通しているってことかな』


「普遍的なんですかね」


『さあな。解説するとイグドラールの北辰宮の解放が、七つの封印。ラッパはさっきの霊帝の音だな。地獄の門は奴の世界の門が開き天使がやってきたこと、赤と白はそっちの二人』


 真っ赤な鎧をつけたギシラスと真っ白な鎧のアリア。


「黒い騎士というのは?」


 というミスルトゥの問いにハヤトは。


『イグドラールの破壊騎士とかいう奴が推定されるな』


「ああ」


 と、かつて仲間であり、敵対した騎士のことをミスルトゥは思い出した。


『青白い騎士はそこの騎士団長、女竜はあそこの人の形をしたドラゴン、んで魔王はあいつだな』


「終末をもたらすために全てが決められていた?」


『いや、それらの事象はキーに過ぎない。終末の扉を開くための。おそらくはいくつもある扉の一つの鍵が合致した。だけだろう』


「それなら良かった。わたくしたちの旅が決められたことだとは思いたくありませんもの」


 とミスルトゥは言った。

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