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41.青い海と白い砂浜、ぼくたちは遭難したんです

勇者の仲間たちのなかで、ただ一人正体のつかめない者がいた。

暗黒騎士と魔王軍諜報部隊の探知能力を持ってしても把握できなかったのだから、相当な隠蔽技術を持っていると推測されていた。


掴んだ情報はごくわずかだ。

勇者一行にそれぞれ付けられた二つ名があるが、そいつは“藍水あおみ”と呼ばれていたこと。

直接戦闘に参加したのは極わずかで、勇者たちの使う武器や道具アイテム、あるいは神器アーティファクトを調達した形跡がある。


ゆえに、俺たちは国家間で動く商人、あるいはその密偵を正体として想定していた。


しかし、ユグとティオリールの知り合いだという海洋学者タリッサと出会い、そのとんでもない道具アイテム弩弓クロスボウなどを見て、俺はこいつこそが謎の“藍水”だと推測した。


まあ、向こうも俺の(隠しているわけではないが)正体を知っていたことから、推測は確信に変わった。



まあ、それはおいといて。

ここは砂浜だ。

寄せては返す波がどこまでも続いていく。

タリッサの発明“アルゲースの眼”が引き起こした大爆発によって、たむろっていた半魚人マーマンの大群、そして乗っていた船までもが爆散した。

爆発と海流によって、俺たちは散り散りになり、やがてここに漂着したようだ。

なんとかリヴィだけは守りきったが、バルカーとポーザがどうなったのかはわからない。


「ん、ううん」


リヴィが呻く。

俺の暗黒鎧アビスアーマーで守っていたとはいえ、かなりの時間海に浸かり、漂い、流されたのだから、途中で気を失っても仕方ない。


「……ギア……さん?」


「気分はどうだ?」


「なんか、ぐるぐるして、口の中がしょっぱいです」


「海の水を飲んだかもしれんな。真水が湧いてればいいんだが」


「……ここは?」


「わからん。リオニアかマルツフェル近くの島だとは思うが」


大陸の海岸沿いの諸国は、交易のため、また密貿易の阻止のために海岸にそれぞれ警備隊を置いてある。

魔王軍のマルツフェル侵攻作戦でもネックになったのはその警備隊で、海岸から一斉に攻撃されては海魔軍団でも一方的にやられてしまう可能性があった。

そして、この砂浜にはそれがない。

リヴィが起きるまで気配を探してみたが、武装した人間のものは無かった。

すなわち、ここは海に流されてたどりついた、誰のものでもない島の可能性が高い。


「青い海、白い砂浜、太陽はさんさんと輝き、誰もいない島に男女が二人きり!」


「夏にしか活動しない吟遊詩人の作る歌詞のようだな」


「不安をまぎらわそうと思って……」


リヴィがへこむ。


ギアと一緒(二人きり!)なのは嬉しいが、どうもこれは遭難ではないか、とリヴィは察しはじめていた。

生きるか死ぬかよりはいいのだけれど。


「不安になることはない。同じところから流された以上、バルカーたちもこの島、もしくは付近の島にいるだろう。まずはパーティメンバーと合流し、多分生きているだろう依頼人を探す」


「大丈夫でしょうか、バルカー君とポーザさん」


「大丈夫だ。二人とも生きている」


「わかるんですか?」


「死骸を見るまでは、生きていると俺は信じている」


「ああ、ギアさんだ」


遠くを見るような顔で、笑みを浮かべるリヴィ。

大丈夫かどうなのか不安なのは、この娘の方である。


「もう立てるか?」


「はい。でも、どうするんです?」


「もう少し、人間界こっちの天文に詳しければ太陽とかの位置で場所がわかるかもしれんが、勉強不足だな」


リヴィは立ち上がり、パンパンと服についた砂を払う。


「勉強不足なのはわたしも一緒です」


「まずは真水の湧く場所を探そう」


海に背を向け、歩きだす。

砂浜を抜けると、わずかな草地があり、そこからすぐに深い森が広がっていた。

あまり入りたくない。

しかし、あまり海に近いと湧き水も塩辛いかもしれない。

森の奥に泉があればいいが。


気配を探ると、普通の動物のものがいくつか感じられた。

うん。

動物がいるということは、その動物が飲む水がどこかにあるということだ。


「森……怖いですね」


「入るのは嫌か?」


「ギアさんと一緒なら大丈夫です」


リオニアス付近の森は、少し前まで魔王軍の魔獣軍団のねぐらになっていたから、森への立ち入りは禁止されていた。

その習慣というか、刷り込みでリオニアス市民は森に恐れを抱くらしい。


しばらく森の中を歩く。

無人島であるらしく、道はない。

獣道をゆっくりと歩く。

純血の魔人は、空間ごと歪めて森だろうが山だろうが駆け抜けるというが、俺はそこまで魔力量が豊富でないから普通に歩く。


昼を過ぎたころには、リヴィが歩けなくなった。

海水を飲んだことで、喉の渇きがひどくなったのだ。

手持ちの真水を飲ませるが、携帯していただけしかなく、すぐに無くなる。

歩けなくなったリヴィを背負い、森を進む。


「……すみません、ギアさん」


「心配するな。俺の背中でよければゆっくり休んでくれ」


「……はい」


さらに長時間歩いたことで体力も尽きたみたいだ。

日が暮れる前に夜営のことも考えねば。


小さな泉を見つけたのは、完全に夜が来てからだった。

何かのすみかだったらしき、木のうろが側にあったので俺のマントを敷いて、リヴィを寝かせる。

携帯していた乾パンを食べ水を飲んだことで、落ち着いたリヴィはすぐに眠りについた。


深い森の中は、ときおり聞こえる夜行性の動物の葉ずれの音以外は何も聞こえず、静寂に満ちていた。


その静けさが破られたのは、夜明け近く。

うっすらと空が白みはじめたころだ。


ハアアッ!と気合いを入れる音と、金属の音。

そして、大きなものが倒れるドドドドという衝撃。


「ギアさん!?」


さすがにリヴィも起きた。


「戦闘の準備をしておけ」


「はい」


人型の生物が一つ、大型の獣のものが一つ。

その二つが戦っている気配がする。


「足音を静かに接近する」


逃避する選択肢もあるが、人型の生物と会話できればここの情報を得られるかもしれない。


リヴィが頷いたのを確認して歩きだす。


なるべく落ち葉を踏まないように、柔らかい土の上を歩く。


「そろそろだ」


と呟く。

何本か木が倒れている。

さっきの大きなものが倒れた音は、これだろう。

断面が滑らかだから、魔法かそれに類するもので斬ったに違いない。


近くの繁みの向こうから、戦いの音がする。


「甘いッ!」


とか。


「バカめッ!」


とか。


「お前の動きは読めているぞ!」


とか、言う声が聞こえる。

繁みから姿を隠して覗いてみる。


孔雀石色マラカイトの髪をひるがえす軽装の剣士が右へ左へ動いている。

剣士の戦う相手は、岩の塊のような巨大な亀だ。

後ろ足で立っている。

魔力を浴びて変質した魔獣のようだ。

頭も含めた高さは2メートルを超えている。

その体にはあちらこちらに新しい傷がついている。

どうやら、剣士が斬った跡らしい。

だが、どれも致命傷どころかかすり傷レベルでしかない。

確かに亀魔獣の動きは読めているようだが、攻撃が効かなければ意味はない。

それどころか、亀魔獣の攻撃が間違って当たれば剣士は一撃でやられてしまうだろう。


そして、亀魔獣の振り回した拳が回避した剣士の移動先に偶然届いた。


「な!?」


「ぐぉ?」


狙った攻撃ではないからか、亀魔獣の拳は剣士を吹き飛ばしただけで終わった。


だが、そこから連続攻撃されれば結果は同じだ。


「仕方ない、やるか」


「はい。炎の女神よ、我が声を聞き届け、その燐光の欠片を我が手に“火球ファイアボール”」


おお!詠唱と魔力のコントロールが滑らかになっている。

リヴィがかなり努力と練習をしたのがわかって俺は嬉しく思う。


亀魔獣の後頭部に当たった火球はたいしたダメージにはならない。

しかし、魔獣の注意を引くには十分だった。


同時に俺は繁みから飛び出し、亀魔獣と相対した。

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