408.無限は無理だが有限ならどうにかできる
「え?」
俺に斬られた影の守護者はほろほろと消えていった。
今の攻撃で“守護者創造”、“影模倣”の能力を奪っている。
前者は影の守護者を生み出す能力、後者は自身の影から生み出すことでステータスをいくつかコピーした状態にできるものだ。
つまり、影の守護者は霊帝のステータスをコピーした状態であり、それに能力付与で強化された状態だった。
そりゃあ強いわけだよ。
まあ強敵を排除できたし、能力を奪えた。
……俺には使いようがないものではあるが。
さあ、残り99999996だ。
「ちょっと待って、何したの?え?影の守護者は、少なくともギアさんに匹敵するくらいの強さにしてたよ?それがこんなに簡単に負けるなんて、ありえない」
「さあな。お前の知らないダメージが蓄積してたんじゃないのか?」
「……私の知らない、まだ私に隠していたことがあるってこと?さっきの変な入れ替わりはそれ?」
「自分でゆっくり考えな」
混乱する霊帝にさらに攻撃。
こいつは影の守護者のように的確な防御!とかはしないで莫大なライフと瞬間再生で耐えるタイプなので、俺の攻撃を食らう。
七回に及ぶ斬撃、その全てを。
一度の攻撃で五個から七個の能力を奪えるようなので平均六個、攻撃終了時点で四十個の奪取に成功している。
本来のクラウソラスなら、能力を奪うには持ち主の殺害が必須らしいが、獄炎華に取り込んだことと、霊帝がそもそも能力の塊であることからダメージを与えることで奪えるようになったようだ。
もしかして、と放ったのは無刃斬・獄花火・逆回しだ。
“剣魔”シフォス・ガルダイアが無手状態で戦うために開発した魔法だ。
魔力で作られた剣を武器代わりにするものだが、それを無数に呼び出すことで広範囲攻撃ができる、というものだ。
俺はそれを応用し、炎をまとわせた魔力の剣を作り出した。
そして、それを一点から花火のように放射状に放つ技である獄花火と、逆に一点に集中させる逆回しという発展技も考案し(実戦で試用し)ている。
もし、クラウソラスの能力奪取が一つ一つの攻撃で発生するとしたら。
ズサズサと突き刺さる無刃斬の刃によろめきながらも、霊帝はバカにしたような顔。
「効かないよ。こんな細かい攻撃」
という霊帝の声は無視する。
結果はもちろん、奪取成功。
奪える量はおそらくダメージ量に比例しているようで、一つの無刃斬で二個から三個。
百五十の刃で四百。
一気に稼げる。
単純な数でなら、そろそろオリエンヌに並ぶくらいだ。
もちろん、霊帝にとって443個の能力が失われても誤差の範囲だろう。
まだ気付いていないようだしな。
もう一つ大技を出して大量に奪取しておきたいところだが。
「ギアさん、もしかして大ダメージで連続攻撃狙ってます?」
「うむ、よくわかったな」
リヴィがいたずらをしそうな微笑みで聞いてきた。
「わかりますよ。ギアさんの顔まるでいたずらっ子ですもん」
どうやら二人で同じような顔をしていたらしい。
「加速、加速、加速、後はわたしがサポートしますよ」
「頼む」
加速を連続でかけられたせいか、身体が軽やかに感じる。
この状態で連続攻撃するなら何がいいか。
奥義の奈落も連続するが、威力をサポートしてもらえるとするともっと早い攻撃がいい。
オリエンヌのように通常攻撃が神速以上で、あとは連続攻撃を組み合わせると、どうだ?
それならもう抜刀する必要もない。
全ての攻撃が有機的に繋がるように、途切れないように。
「嵐刃吐」
頭をよぎったその名を技の名とした。
体力の続く限り大太刀を振るい続ける。
さらに体術も混ぜる。
斜めに斬りつけ、片手を柄から離し左拳で殴り付け、左足で蹴りつけながら、殴った手を開いて霊帝の顔をつかみ床に叩きつける。
バウンドした体を斬りつけ、連続で斬りつける。
相手が反撃できない位置からの攻撃をすることを心がけているからか、面白いように当たる。
イグドラールで戦ったゴブリンの二人組が能力を共有しながら似たようなことをしていたのを思い出す。
“無呼吸連打”と“重攻撃”だったか。
重い攻撃を途切れることなく打ち込めれば、相手に大ダメージを与えることができる。
重い攻撃を与え続ければ相手は反撃もできない。
霊帝も同じだ。
本人も言っていたが近接戦の適正がないようで反撃の糸口がつかめないようだ。
だからただ待っている。
俺の攻撃が終わるのを。
アホみたいな体力で耐え続け、瞬間回復でまた元の状態に戻る。
いくら攻撃を受けてもかまわない。
女神と魔王といっても、俺もリヴィも定命の存在だ。
いつかは終わりが来る。
力尽きたところをゆっくりと倒せばいいとでも思っているのかもしれない。
それに時間をかければかけるほど、世界中を襲っている天使たちが有利になる。
早く霊帝を倒し、新たな世界とやらとこちらを繋ぐ門を閉じなければ無尽蔵に天使がやってきてしまう。
それは霊帝の利するところだ。
嵐刃吐の終わりは即ち、俺の体力の限界というところだ。
肩で息をする、という状態ではあったがリヴィが治癒魔法で回復してくれる。
おそらく、五百八十五発の攻撃をこのわずかな間に叩き込んだ。
そして、リヴィの補助もあって一発あたり十個の奪取に成功した。
トータルで六千個近くの能力を奪ったことになる。
さらにリヴィは俺の攻撃をコピーして、追撃させていた。
なので単純に倍のダメージ、倍の能力奪取が出来ている。
さすがに一万近くの能力を奪われると、霊帝も気付いたようだ。
「何これ?何をしたの?ねえ、ギアさん。何を、何をした!!?」
「お前の能力を奪った」
「え……え……私の能力を奪った?」
「なに、たったの一万ちょっとだ」
「一万……!……も」
「いいじゃないか、一億もあるんだろ?」
「数の大小じゃない……私以外にこんなことができるなんて。完全、想定外だ」
「お、なかなかレアな能力がとれてたぞ。こいつは“体力上昇・極限”だな」
霊帝の耐久力の基となっている能力の一つだ。
凄まじい量の体力を増やす。
これに加えて“防御力上昇・極限”、“瞬間回復”などでバカみたいな体力になり、それで攻撃を耐えて、瞬間回復をする、というルーティンが崩れてしまうだろう。
「き、貴様!」
ついに霊帝の口調が崩れた。
リヴィの振りをするのは、俺の動揺を誘い、そして余裕を見せつけるためだ。
だからこの状態は余裕が無くなってきたことを示している。
そして、激しい動揺は隙である。
「もう一度、嵐刃吐だ」
「はい、ギアさん!」
体力魔力集中力、向こうが限界が近付いているように、俺とリヴィも限界が近い。
この嵐刃吐を放てば立てなくなるかもしれない。
打撃、斬撃、剣術、体術、それを連続で、無限に組み合わせる。
同じ嵐刃吐だが、さっきとは技の組み立てが違っている。
なので、霊帝も対応ができずに食らいつづける。
「ま、まさか、この攻撃一発一発が私の能力を奪い取っているのか!?」
「ようやく気付いたか!お前のライフは瞬間回復も併用しているからほぼ無限だ。だが能力は一億。確かに莫大な数だが、有限だ。有限ならいつかはどうにかできる!」
嵐刃吐の連撃が、終わった。
ぶっ飛んだ霊帝は玉座の残骸に突っ込んで動かなくなった。
あー、俺の椅子。
 




