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407.突破口

「いくら君たちががんばっても、諦めなくても、私には勝てないよ」


 写し出される映像では人間と天使の戦いが互角であるとわかる。

 そして、この本営での戦いでも。


 俺とリヴィは霊帝と影の守護者に対して互角に戦えている。

 だが、決定的なダメージを与えられていない。

 それは霊帝の異常な回復能力のせいだとわかっている。

 致命傷でなければ瞬時にダメージは消え、肉体も魔力も回復してしまう。

 神を再現した、という一億の能力が成せる業だろう。


「やってみなきゃわかりません!」


「わかるでしょ?わかるよね?君たちの最大威力の攻撃でも私を殺せない。殺せなければ私は瞬時に最大ライフと最大魔力の状態に戻る。まあ、さらに言えば死んだ瞬間に最大ライフ状態で復活する能力も持っているんだけどね」


 絶望したくはないが、それに近い状態になっていると自覚する。

 リヴィによる強化魔法全開かつ俺の持つ強化魔法や能力も全乗せでも、霊帝を一撃で倒せるダメージを与えることはできない。

 そして、一撃で倒せなければ全回復してくるのだ。

 これが神だというのなら理不尽が過ぎる。


 全力で戦い続けるギアたちを見て、オリエンヌは首を傾げていた。


「どうしたのじゃ、異世界の騎士殿」


 それを見たメリジェーヌが声をかける。


「いや、思い付いたことがあるんだが」


「ほう?」


「それをするにはちょっと運が必要かもしれない」


「運とな?」


「能力発動“奇跡”、“絶妙なる一撃”、“必中”、“破壊”、“踊る人形”」


 五つもの能力を同時発動してオリエンヌは飛び出した。

 

 そして、“奇跡”のような“絶妙なる一撃”を霊帝に“必中”させ、その凄まじい防御を“破壊”しダメージを与える。

 ほぼ自動的に霊帝は反撃してくるが“踊る人形”で増えた分身を襲わせることで回避。

 回避失敗した一撃がオリエンヌを襲う。


 が、咄嗟にメリジェーヌが救出した。


「あ、危ないではないか!あの戦いに割り込むほどの実力はお互い持っておらぬはずじゃぞ!」


「それでも。私の説は実証された」


 ギリギリ、死にそうだったけど。


「説?実証?なんのことじゃ?」


「これだ」


 オリエンヌはひらひらとした布の切れ端のようなものをメリジェーヌに見せる。


「これは……霊帝の服の切れ端……か?」


「よく見ろ。これは霊帝の持つ能力を視覚化したものだ」


 メリジェーヌは目を凝らして切れ端を見た。

 魔力情報を読み取ると“魔力上昇・微”の能力のようだ。


「なんとも……微妙な能力じゃが……これで何ができると?」


「能力の強弱に意味はない。霊帝の持つ能力を切り取れるのが一番意味があることだ」


 この、クラウソラスでな。

 とオリエンヌは自身の剣を掲げた。

 イグドラール世界に伝わる魔剣。

 またこの剣は神器として伝わってもいる。


 その秘められた力は、他者の持つ能力を奪い別の者に渡せること。


「他者の能力を奪う?」


「わかりませんか?あの霊帝の異常な強さを支えているのは一億個の能力でしょう」


「能力……その能力をお主の剣は奪える、と?」


 オリエンヌの手の中で、霊帝の切れ端、いや魔力上昇・微の能力は消えた。

 オリエンヌに吸収されたのだ。


「ええ。これで私の能力は501個となり、霊帝の能力は99999999個になったのです」


「果てしない能力の差じゃのう。それにお主は五つの能力を使い、それでも奴の反撃を避けきれなかった。あと……九千万回もの攻撃を成功できるのか?」


「まあ、無理でしょう。五つも使うと頭も体もギリギリです」


「ギリギリって」


「だから私にはできません」


「なら、なぜ?」


「私でなくて、あれにやってもらうんですよ」


 とオリエンヌはギアを指した。


「ああ、なるほど」


 メリジェーヌはギアを見た。



 激化する霊帝との戦いの中で、いきなりオリエンヌが飛び込み一撃与えて去っていった。

 何がしたかったのだ?


 しばらくすると、そこに後方にさがった全員(オリエンヌ以外)が参戦し始めた。


「お前ら!?」


「オリエンヌが話をしたいようじゃ、すぐに行ってやるのじゃ」


 メリジェーヌが必死の面持ちで言った。


「だが俺たちでは長くは持たんぞ」


「持ちません!」


 イグドラール組、メリジェーヌ、シフォス、それにキャロラインまで参加している。


 一体なんなんだ。


 俺は神速の踏み込みを後方に使用する。


「なんだ?」


「これを使え。詳細は自分で考えろ」


 オリエンヌは魔剣クラウソラスを渡してくる。


「お、おう」


「全てお前に任せるのだ、頼んだぞ」


 オリエンヌの顔は以前戦った時と比べて、驕りのようなものが抜けている。

 己が、己がという以前の思考は抜け落ちて、理想的なリーダーとして振る舞えるようだ。

 今のこいつなら、あるいはイグドラールの王になれるかもしれない。


「どうした、早く行け。もう持たんぞ」


「ああ」


 確かに俺がオリエンヌと話していたわずかな間に、前線は崩れかかっていた。

 師匠はさすがに持ちこたえているし、キャロラインも善戦しているが影の守護者にかかりきりになっている。

 そのため、リヴィとともに霊帝に当たっているミスルトゥたちは防戦で精一杯のようだ。

 リヴィも支援する対象が多くなって、霊帝に攻撃できていない。

 すると圧力が減った霊帝が暴れ始めるという様子だ。


 これはすぐに行かねば。


 接近しながら「俺式闇氷咲一刀流“迦具土”」抜刀する。


 威力の高い攻撃で影の守護者を斬る。

 師匠たちに注意が向いていたため、ひどく簡単に大技が決まった。

 影の守護者は血のような影を斬られた箇所から吹き出しながら硬直する。


「遅いぞ」


「すいません、師匠」


「隙だらけのロマン技だが、立派な技だ」


「師匠……」


 珍しく師匠が誉めてくれた。


「呆けるな、勝て」


「おす」


 俺が戻ってきたことで時間稼ぎをしていた連中が撤退していく。


 さて。

 クラウソラスと朧偃月で二刀流、というわけにもいかない。

 二刀を扱うというのは、高等技術で一朝一夕で会得できるものではない。

 なので、オリエンヌには悪いがクラウソラスを獄炎華に取り込むことにする。


 獄炎華状態の朧偃月は魔法的に揺らいでいる。

 その中では剣の一振りや二振り取り込んでも形に変化はない。


 だが、内部的には大きな変化が起こっている。


 視覚、というか知覚に霊帝の持つ能力の数とおおまかな能力の傾向が見える、感じられる。


 霊帝の側にうっすらと99999999という数字、そして数字の奥に能力が重なって見えている。


 なるほど、オリエンヌにはこう見えてたのか。


 クラウソラスは能力を奪う剣だ。


 さっきのオリエンヌの妙な一撃はそれを確かめるためだった。

 攻撃を当てれば、能力を奪える。

 能力を奪えれば霊帝を弱体化できる。


 霊帝は神を再現した存在だが、神そのものではない。

 一億の能力で神の再現をしているだけだ。


 つまり、見た目のライフや魔力、瞬間再生などは問題ではない。

 俺が削るべきは、一億の能力だ。

 いわば、霊帝は一億のヒットポイントを持っている、それだけに過ぎない。


 手始めに影の守護者から試してみよう。

 今まで相手を倒すために高威力、超神速、消費大の攻撃を連発していた。

 だが、ここからは確実性を重視した攻撃を加えてみる。


「剣魔流“弾き流れ”」


 これは師匠から教わった返し技の一つだ。

 相手の攻撃を弾き、空いた隙に軽く一撃を加える技だ。


 硬直が解けて、俺への攻撃を再開した影の守護者は唸るような抜刀で斬りかかってくる。

 強く踏み込み、斬撃が最大威力に達する前に弾く、出来た隙に軽めの袈裟斬り!


 浅い。

 影の表面を削った程度の一撃しか与えられない。

 だが、その一撃は目には見えないが、影の守護者から“能力付与”の能力を奪っていた。

 これは使役者である霊帝からいくつかのステータス上昇系能力を与えられているということを示している。

 つまり、これを奪えば影の守護者の強さは大幅に下落する。


 そのとおりゆったりとした動きになった影の守護者を俺は一刀で切り捨てた。


 霊帝の呆気にとられた顔が影の向こうに見えた。

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