402.仲間たちの復活
「忌名魔法か!?」
名前そのものが魔法であり、本来なら名を口にするだけで魔法の効果が発動するという忌名魔法。
俺の鎧に取りついている大多頭蛇のナンダの力を借りているため、俺でも使えるのだ。
本来は雨粒のような飛礫が広範囲を襲うという効果なのだが、俺の魔力を使用しているためか、燃える炎の剣が広範囲を襲っている。
霊帝はそれを細かい機動と、障壁を駆使しながら回避していくが、雨粒を完全に避けることなどできない。
少なくない数の“ナンダ”の剣が霊帝を襲っていた。
「痛い、痛いぞ、魔王。良いのか?この体は、お前の……」
「まずはお前を倒す。手加減などしていられないしな」
「くうう、“時間停止”」
霊帝は時を止めた。
炎の剣の雨はその動きを止め、師匠やキャロラインも止まっている。
だが、なぜか俺はその時が止まった状態を知覚している?
動け、る!
超神速の抜刀術を連続で繰り出す奥義“奈落”で霊帝を襲う。
俺が時間の止まった状態で動けていることに気付かずに一息ついていた霊帝は、俺の大太刀をまともに食らった。
「大焼炙、大炎熱、それからもひとつ大焼炙」
隙があって、防御できない相手に徹底的に攻撃を叩き込むのは戦闘の常道だ。
「なぜ、動ける!?時が止まっているのだぞ」
「知るか!」
連続攻撃をくらってたたらを踏む霊帝は、信じられないと言う顔だ。
「くふふふ、それはわらわがここにおるからじゃ」
余裕の笑みを浮かべ、そしてゆったりと歩み出てきたのはメリジェーヌだ。
“緋雨の竜王”の号を持つ魔王であり、その通り竜王であり、人間界では教師にして冒険者だ。
ニコやキャロラインと同じく、この異界化に取り込まれ、そして霊帝にやられたはずだった。
「バカな、私の魔法でお前は因果率の彼方へ消え去ったはずだ」
「そうよのう。一つ間違いがあるとすればリヴィエールの巨神王の魔法は、相手を倒す魔法ではないということよ」
「?」
「お主も言うておったではないか、因果率の彼方と。あれはな、まことにリヴィエールらしい魔法よ。いかな存在も因果率を操作して、ここにいなかったことにする、だけ。けして殺したり、消し去ったりするわけではないのよ」
「たとえ、そうであっても。あなたは消えた。ここにいないはずだ」
「いかにそなたが神のごとき権能を持っているとしても、片手間で放たれた魔法に抵抗するのは容易」
とはいえ、わらわもギリギリであったがな。
と、メリジェーヌは笑う。
「そんな」
「来てくれると思っておったぞ、リーダー」
「ああ、遅くなったな」
「く、時間も味方にならないか」
霊帝は“時間停止”を解除した。
あれは魔力消費も大きいからな、効果が低いとなれば使う方が損耗する。
メリジェーヌも“時間停止”を使えるから、その魔法に割り込んで俺も動ける状態にしてくれたのだ。
「あれはリヴィエールなのかのう?」
「肉体はそうかもしれない。だが中身は間違いなく別人だ」
「リーダーが、そう言うならそうなのであろうな」
「メリー先生!ご無事でしたか!?」
キャロラインが嬉しそうに近寄ってきた。
「うむ。無事じゃ。よく頑張ったのう、キャロル」
「私が、せっかくこの世から逃がしてあげたのに、また苦しみたいのですね」
霊帝がその背後に数百の火球を浮かびあがらせる。
あの連なった火球で魔法陣を描き、魔法で魔法を発動するのがリヴィの得意技だった。
「わらわとて、リヴィエールになんの対策もしてなかったわけではないぞ?」
メリジェーヌの背後に数百のドラゴンの幻影が浮かんだ。
その口から一斉にブレスが吐き出される。
それも炎だけではなく、地火水風毒雷鉄の七種類の属性のものだ。
それらは霊帝の火球に激突し、爆散させていく。
「ッ!」
霊帝の口からは驚愕の吐息しかもれない。
「メリジェーヌ、これはお前もしや」
「そう。わらわは復活してからしばらく“炎竜人”のロックだけ外した状態で活動していた。わらわ本来の属性である炎属性であったため、それなりに強かった、が」
“緋雨の竜王”メリジェーヌは、本来七つの属性を操る魔界最強のドラゴンだった。
だが、一度めの死に際して、少しでも復活の可能性をあげるために力を七つに分割し、自身の“子供”に復活の鍵を持たせたのだ。
鉄竜人
炎竜人
地竜人
水竜人
風竜人
雷竜人
毒竜人
遥か昔に人間界に派遣した七体の子供。
そのうち封印が解かれていたのは炎竜人だけだった。
それを、メリジェーヌは教師活動のかたわら、解放していたのだった。
つまり、彼女は今、全盛期の力を取り戻していた。
それを極光夜の最中に発揮できればよかったのだが、その時はリヴィエールを助けだせたという、ある種の脱力感の中での襲撃で抵抗できなかっのだ。
ともあれ、魔王かつ竜王と呼ぶにふさわしいだけの力をメリジェーヌはふるっていた。
「今のわらわは最高潮じゃ」
背後の幻影ドラゴンの一斉ブレスは七つの属性をランダムに付与されて発射された。
ランダムゆえにどこに何が来るかわからない状態で、霊帝はそのほとんどを食らった。
その攻撃の結果ぼろぼろになった霊帝は、ペタンと座り込んだ。
「どうして、こんなヒドイことをするんですか、ギアさん、メリーさん」
「リヴィの真似など効かんと言った」
「わたしはリヴィエールです、ギアさん」
攻撃の手を思いとどまり、霊帝の顔をよく見る。
その目、瞳は緑色に戻っていた。
リヴィの色に。
「むう。まさか、大ダメージで支配が外れた、のかもしれぬ」
メリジェーヌが信じられない、という顔をしつつ奇跡を期待する表情でそう言った。
「リヴィ……本当にリヴィなのか?」
「はい、ギアさん、わたしですよ」
神の権能の再現をした、という割には呆気ない終わりだったが、これでリヴィを助けることに成功した……のか?
俺も、メリジェーヌも攻撃を止めて様子を見ている。
大太刀を納刀し、強化魔法を解こうかと考えた時、鋭い剣気が俺の横を駆け抜けた。
「相変わらず、貴殿は甘い。目の前の事物のみにとらわれると本質を見失うぞ」
突き出された剣は、魔剣クラウソラス。
持ち手は真っ白な髪の青年。
名はオリエンヌ・メイスフィールド。
「な!オリエンヌ!?」
「皆、合わせろ!」
オリエンヌの号令に、背後から回転する骨が現れた。
「ヒャッハー!回転剣・香香背男で推して参る!」
その手に持った剣が回転によって速度と威力を増していく。
あれは、スケルトンウォリアーのロドリグだ。
奴もここにいる!?
「大紅蓮二式“鉢特摩”」
「百戦錬磨“我が槍は越界の神槍なり”」
赤い鎧と白い鎧の騎士二人がそれぞれの技を放ち、同時に霊帝?リヴィ?を襲う。
「ギシラス、アリア!」
「ご主人、私も参ります」
黒い帽子のゴブリン、赤帽子の更なる上位進化である黒帽子が一体、影から現れ霊帝?リヴィ?に襲いかかる。
「ゴブリア?ゴブール?どっちだ?いや、生きているのか?」
なんだ?
何が起こっている?
そこに俺を落ち着かせる声が響く。
「知っておりますか?あなたが世界を越えてからどのくらい時が流れてたか」
俺の隣には微笑むエルフ女性が立っていた。
「ミスルトゥ……」
イグドラールで別れた、いや死に別れた仲間がここに現れた。
というか、リヴィを襲っている。
俺はやや混乱している。




