表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/417

40.渦との邂逅

「出港準備ができしだい、遅くとも今日中に出発したいんやけど」


 タリッサは下船するなり、そう言った。

 その後ろで怪我をした船員たちが運ばれていく。


「それは構いません。積み込みは終わってますし、人員も問題ありません。けどメルキドーレさんが」


 イッツォが準備完了を告げ、そしてタリッサのことを心配するようなことを言った。

 しかし、タリッサはその言葉を遮る。


「ウチが休んでる暇はあらへん。もう手遅れになるかもしれへん」


「そこまで!?」


「せや、渦から錆だけやなくて、魔物もでてきよった。早急に解決せなあかん」


「わかりました。ドアーズの皆さんはどうです?」


「俺たちはいつでも行ける」


「なら早速、乗船や」


 あわただしく出発の準備が進んでいく。

 すぐに俺達は船に乗り、タリッサが乗る。

 錨が巻き上げられ、係留されていた船は戒めから解き放たれ、海上を進んでいく。


 緊張感を持ったまま、俺達ドアーズとタリッサは船室の一つに集まり、今後のことを話し合うことになった。


「まずは自己紹介からやな。ウチが依頼人のタリッサ・メルキドーレ。マルツフェル出身の海洋学者や。年は24やね」


 ついさっきまで生きるか死ぬかの瀬戸際にいたわりには、あっけらかんと元気な女性だった。


「俺はギア、今回あんたの依頼を受けたドアーズのリーダーだ」


「ギアはんね。さっきはおおきに、ほんま助かったわ」


「わたしは見習い魔法使いのリヴィエールです」


「魔法使いのリヴィエールちゃんね」


「俺は武道家のバルカー」


「うん?バルカー君……なんか嗅いだことのある臭いが……碧木?」


「ボクはポーザ、魔物操士です」


「へぇ……メルティリアの、やないんやな?あんたも含めて、なかなかおもろいメンツやな」


「それで、タリッサさんはこの後どうするつもりなんだ?」


「せやね、まず前提としてあの渦は何かが海水を吸い込んで生まれている、ようなんやな」


「海の底で何かが海水を吸い込んでいる?」


「確証はあらへんよ。そして、その何かから錆と魔物が出てきている」


「しかし、錆と魔物か。どうにも結び付かないな」


 俺の知る限り、錆と魔物、ことに半魚人マーマンは関連がまったくない。

 例えば鉱物系のゴーレムなどが錆びるというのならわかるのだが。


「まあ、そういうんのも含めての調査やな」


「調査の内容は?」


「その海域の水質検査はしたんやけど、渦自体の水質はまだやね。それに渦の中でいろいろ調べたいこともあんねん」


「おい、それはつまり……渦に」


「せや!屈強な冒険者さんが渦に飛び込んでくれれば!」


「なんでそうなる!」


「ウチな。結構多めの依頼金を冒険者ギルドに先払いしてんねん。ふふふ、スポンサー様に逆らえるとでも?」


「きったねえ、金か、金で脅すのか?」


「ウチこれでも、マルツフェル商人の血を引いてるさかいな」


 とまあ、軽口の応酬をしているが実際選択肢はそう多くない。

 やるか、やらないか、だ。

 それになんだか、魔王軍のやらかしの後始末をすることになるような気がしている。

 答えは結局、やるしかない、のだ。



 それから二日かけて目的の海域へと向かう。

 リオニア王国の領海の南端だ。


 そして、そこにたどり着く前に渦は見えていた。


「総員戦闘準備……調査どころじゃないぞ、これは」


 ゆっくりと渦巻く海。

 そして、その流れに逆らうように泳ぐ半魚人マーマンの群れ。


「これ……もしかして、半魚人マーマン氏族クランができつつあるのかも」


 おそらく百体単位で海の上を泳ぐ半魚人マーマン

 魔物操士のポーザが言うのならおそらく当たりだろう。


「ということは、だ。氏族クランを率いる上位種がいるということか」


 ポーザが頷く。


 足場の悪い船の上や水の上では戦いにくい。

 しかし、そこは半魚人マーマンにとって最高の戦場だ。

 かつて、魔王軍の一角を占めた海魔軍団の得意技が海を召喚して、最大戦力で相手を圧倒する、というものだった。


「うーん。ちょっと試したいことがあるんやけど、ええかな?」


「なにをするつもりだ?」


「これ」


 タリッサが取り出したのはほのかに青白く輝く金属の球体だった。

 見た目は子供が投げ合って遊ぶ球技とかで使いそうなボールだ。


 しかし、俺には見えてしまった。

 その内に秘められた莫大な魔力を。


「よく、わからないが圧縮して迷宮化した魔力を積層化しているのか?」


 タリッサの顔が悪そうに笑う形に見える。


「ふっふっふ。ギアさん、なかなか目がいいね。こいつはね“アルゲースの眼”というアイテムやねん。ちなみにウチの発明や。あんたの見た通り、魔力をできるだけ詰め込んで、その詰め込みそのものを呪文化したんや」


「魔力そのものを詰め込み、その型を呪文になるようにした、か」


 控えめに言って天才の所業だ。


「で、こいつのここをポチっと押すと」


 タリッサは“アルゲースの眼”についていた突起物ボタンを押した。

 タリッサから少量の魔力が球体に移り、球体内部を駆け巡った。


 そう自動化された魔法が魔力を得て、球体に刻まれた呪文を実行していく。

 普通の詠唱による魔法の十数倍の速さで。


「おい、大丈夫か?」


「だい……じょばないかも」


「さっさと投げろ!」


「あわわわ、え、えいッ!」


 タリッサは“アルゲースの眼”を投げた。

 高く高く投げられた“アルゲースの眼”はきれいな放物線を描き、青白く輝きながら船のすぐそばにチャポンと落ちた。


「……おい」


「あ、あは。ウチ運動神経悪いねん……よく、それであいつにもからかわれてん……」


「……と、さすがに気に障ったようだな」


 俺達のドタバタしている間に、半魚人マーマンたちがこちらへゆっくりと泳いできている。

 ゆるりと包囲されている。

 なまじ人の顔をしているから、意思疎通ができそうに思えるが、決定的に違う点がある。

 目、だ。

 一切の交渉を拒む目。

 冷たい魚の目だ。

 おそらくはこのまま戦闘になる。

 そう、覚悟を決めたとき。


 ビシリ、と異音が海の底から聞こえた。


 音の発生源を探ろうと水面に目をやると、眩しかった。


「おお、思ったより明るいわ」


 なぜか嬉しそうなタリッサ。


「おい、なんだあれは!」


 俺の問いにタリッサはニヤリと笑った。


「アルゲース。ふるふるき天の神と地の女神の子供。神にならぬ巨人の王、新たな世界の王に雷霆を授けしもの。で、それになぞらえて、圧縮して、圧縮して、圧縮した電撃魔法を詰め込んだわけやな」


「アホか、お前!そんなん海に放り込んだら」


「せや!この海まるごと電気でチンや!」


「俺らまで感電するだろが!!」


「へ?」


 タリッサは、甲板まで水につかっていることに気付いていなかった。

 だって、半魚人マーマンに襲われかけた船だぞ。

 波しぶきくらいかぶるに決まってる。


「止める方法は?」


 眩しさは、海面にまで到達し、海全体が輝いているように見えた。


「あると思うん?」


「ポーザ、バルカーは任せた!」


 ある程度の実力はあるポーザなら、魔法防御力を高めるなどして耐えきれるだろう。


「わかった、任せてリーダー」


「リヴィは俺に掴まれ」


「はい、ギアさん!」


「あの……ウチは?」


「あんたも勇者関係者・・・・・なら、どうにかできるだろ?」


「へえ?まあ、ええわ。再会したら、調査も再開やで、ほなさいなら、暗黒騎士・・・・ギア」


「ああ、またな。“藍水・・”」


 そこで、アルゲースの眼はその全力を解放した。

 真っ白な曙光にも似た雷霆は、海中にいるすべてを区別なく焼き尽くしていった。

 俺達の乗った船も衝撃に耐えきれずに、爆散した。


 リヴィを抱き抱えながら、暗黒鎧アビスアーマーを召喚。

 俺とリヴィの防御に性能を全振りする。


 そのアルゲースの眼が引き起こした海上爆発の発光は、リオニアスでも、マルツフェルでも、そして遠くギリアからでも見えたのだという。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ