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4.雨のち瞬殺

 なるほど廃村である。

 作業小屋などを含んでも十棟ほどの建物しかない。

 そのどれもがボロボロに朽ち果てているように見える。

 とても人など住めそうにない。

 俺自身が調べたわけではないが、部下ならここはスルーしたかもしれない。


「旧パリオダ露天鉱山の鉱山村……の跡地ね」


 ミスティが説明する。

 情報を持っていたならはじめに教えてほしい。

 パリオダという名前には聞き覚えがある。

 知っていたら、違う手を考えていたかもしれないのに。


「パリオダ……確か、ニブラスとリオニアの中間にある領地を持ちどちらにも与しない勢力を持っていた貴族……だったか」


 ミスティは頷いた。


「ええ。ただニブラスの敗北によって、パリオダは領地の半分を失い、リオニアの臣下になったわ」


「ここは失った半分の方か」


「そう。そして盗賊たちが住み着いた」


 夜の闇は深く、俺たちの姿を隠してくれる。

 さらわれた人を取り返すべく、出発する。


 廃村に人の気配はない。

 となると怪しいのは一番奥の建物になる。

 鉱山の入口だ。

 崩れないよう固められた坑道は外が廃墟となっても簡単には廃れない。


「俺が先に行こう」


 外には見張りはいない。

 ならば中にいるか、鳴子のような警報装置があるはず。

 木の扉に耳をあて、音を探る……無音。

 人はいない。

 ならば警報か。

 慎重に扉を開ける。

 滑らかに、開いた。


 油が差してある。

 誰かがここを使っている、という確証が得られた。


 中は暗い。

 目が慣れるまで時間がかかりそうだ。


「ミスティ!?」


 小さく、しかし強い声。

 リヴィの困惑したような声だ。


 ドン!


 と俺の背中に衝撃。

 別にダメージはないが、不意打ちだったため前につんのめる。


 手をつこうとしたが、そこに地面はなかった。


 穴?


 と思った時には、もう落ちていた。


「ゆっくり楽しんでね、ギアさん」


 というミスティの声がから聞こえた。



 それほど深い穴ではなかった。

 それに途中で傾斜がついていて、ゴロゴロと転がりながら俺は勢いを殺していく。


 下に明かりが見える。

 出口か。


 転がる勢いのまま、俺は飛び出した。


 そこは底だった。

 広さは2メートル四方、高さも2メートル。

 たき火というか、かがり火が底を照らす。

 眩しさと煙に閉口しながら、唯一開いた上を見るとキラキラと夜の星のように何かが煌めいている。


 しかしそれは星などではない。

 何かを射殺すために生み出された鋭利な金属。

 そう、矢じりだ。

 鉄の矢じりがたき火の明かりを反射して、煌めいてる。

 無数の矢が飛び出した俺を狙っている。


「やれ!」


 甲高い、興奮を押さえきれないような男の声がそう命じた。


 一斉に矢が放たれた。


 大量の矢が土煙を巻き起こす。


「パリオダ殿、一人を相手にこれはやり過ぎでしょう?ただでさえ、今回は人員が減っているのですから」


 重厚な鎧をまとった三十半ばのいかつい男が隣に立つ人物に話しかける。


「何を言う。奴はミスティの話ではニブラスの騎士の生き残りというではないか?私の領地を守りきれなかった無能な騎士どもに罰を与えただけのこと」


 答えた声は甲高い。

 矢を放つ指示をした者だ。


「街道の巡回まで集めて、この罠を仕掛けたのです。何かあったらどうするおつもりで?」


「その街道の巡回を殺ったのが奴だ。殺せる時に殺すのが正しい」


「その考えは同意しますが」


「ほら、もう底が見えるぞ。今回は上玉の売り物が入荷したのだ。金銭的なもとは取れる」


「やれやれ、人員の補充も頼みますよ」


 相手の死体を確認せずに長話とは、悠長なことだ。

 俺は収まる土煙から姿を現す。


「え?」


「無傷!?」


 甲高い奴といかつい奴が驚きの声をあげる。

 あの矢の雨を受けて、なぜ無傷!?と。


「あの程度の斉射なら受けたことがある。剣を振り抜き、風と土煙で矢の軌道を反らす。直撃しようとしたやつは切り落とすだけ。簡単だ」


「は?」


 ぜんぜん、たいしたことなかったよ、とでも言われたようにいかつい男の顔が歪んだ。


「数百人ならまだしも、四十人程度ではな」


 俺は敵が驚きで動きを止めたのを見ると、壁に向かって走った。

 勢いのまま地面を蹴り、跳躍。

 壁を三角跳びの要領で蹴り、さらに跳ねる。

 手にした剣を壁に突き刺し、腕の力で体を引き上げる。

 二メートルの壁を乗り越えた俺は、壁に刺した剣を抜き、流れるような動きで構えた。

 そして、一気に駆ける。

 駆ける勢いのまま剣を振り、五人を切る。

 殺す必要はない。

 どちらかの腕を傷つけて、底に落とすだけだ。

 腕が傷ついていれば弓を使えない。

 あれは両手で扱うものだからだ。

 攻撃手段を失った相手は死んだも同然。


 しかし、五人も一気にやられると残りの奴らが戦意を取り戻しはじめる。

 普通、狙われている弓から逃れるには、ジグザグに走行し敵の狙いを逸らすものだが、この狭い場所ではそれはできない。

 ならば、と俺は走行に緩急をつけることにした。

 相手の狙いが定まるまではゆっくりと、そして矢が放たれる間際に加速。

 いわば時間的なジグザグだ。

 もちろん、相対する敵でその向こうにいる敵の射線を切るのも忘れない。

 いくら俺でも、四十人からなる弓矢の一斉射撃では技を使わねばダメージを食らう。

 接近し、切る。

 弓矢を使うには両手が必要。

 であれば、剣などに持ちかえるにしても時間がかかる、ということだ。

 それは大きな隙であり、俺にとっては必殺の時。

 さらに五人を叩き落とす。


 四十人から三十人へ、敵の数が減る。

 それだけでも、矢の雨の密度がかなり減る。

 密度が減れば減るほど、被弾率は下がり俺の移動の自由度が上がる。

 剣を一閃し、敵を切る。

 それを着実に繰り返し、歩法と移動で矢を回避を繰り返すことで三十人は二十人になり、十人になり、そして二人になった。

 甲高い声の男といかつい鎧の男である。


「な、な、な!?」


「見事な……これがかの勇猛なるニブラスの騎士か」


 違います。

 そのニブラスの騎士たちをも倒した魔王軍の暗黒騎士です。


「ひ、ひぃ」


 甲高い声の男は腰を抜かしてへたりこんだ。

 反対に、いかつい鎧男はギラギラと戦意をみなぎらせる。


「我こそは、リオニア王国で破壊騎士ブレイクナイトとうたわれたガインツ・クロフォーク。いざ剣を交えようぞ」


 いかつい鎧男ことガインツは自身の背丈ほどもある大きな剣を構えた。

 それを大上段に構える。


「示現流か」


「いかにも」


 はるか東方大陸のさらに東の島に伝わる剣術“示現流”。

 一撃必殺を旨とする豪快の剣である。

 かの地から来た武芸者トーゴロスが、騎士たちに教え、それが各国に広まったのだという。

 魔王軍でも対策を練るため、その剣術を研究したことがあったため、俺も知っていのだ。

 ちなみに対策は死なないことと決まった。

 そんな屍人ゾンビでしか対応できないような対策に意味があるのだろうか、と俺は思ったことを覚えている。


 普通の者用に、もう一つ対策が練られた。

 それは。


 俺はガインツの攻撃、その意志が、肉体を動かす直前に動いた。

 ガインツの剣が振り下ろされるより速く、剣を振るい、その胴を薙いだ。

 鎧ごと肉を断ち切る。


「あ、え?」


 と呟いて、ガインツは胴体を両断されて、死んだ。


 示現流への簡単な対策。

 それは“後の先”、あるいは“殺られる前に殺る”、だ。


 魔人たちはそちらの対策を主に実行した、と俺は記憶している。

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