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395.俺式闇氷咲一刀流奥義

俺式闇氷咲おれしきやみひざき一刀流“無間むけん”」


 元の早氷咲一刀流における神速の踏み込み、移動技である“霜踏”を俺式にアレンジするとこうなる。

 加速し過ぎて炎の残像だけがその場に残り、実体は既に間合いの中だ。


 オリエンヌが反応しきれていないうちに、魔剣クラウソラスが“認知外攻撃防御”の能力で即応してくる。

 そういえば、ザドキ墳墓で共闘したブランツマーク伯のギュンターが似たような道具を使ってたっけ。

 どういうふうに使っていたのか思い出す。


 が、たいして参考にならないので、別の方法で対応する。


「無刃斬・獄花火・逆回し」


 師匠である剣魔が編み出した魔力の剣を縦横無尽に繰り出す全方位攻撃である無刃斬。

 俺はそれを炎をまとわせて、爆発するように拡散させた。

 これによって魔力の剣の数は少ないが全方位を攻撃できる技になった。

 そして、今放ったのはその逆だ。

 広範囲にばらまかれた炎の魔力の剣。

 それを一点に収束させるのだ。


 全方位から迫り来る逃げ場のない攻撃。

 いかによく見える目をもっていても、認知の外からの攻撃を防御できても、上下前後左右全方位の攻撃を防ぐことはできない。


「ぐううう、どこかに突破口は!?」


 そうわめきながら、オリエンヌは足掻いた。

 だが、炎をまとった剣の群れは彼を次々に貫いていった。

 傷口から炎が吹き出し、刃をさらに食い込ませていく。


 獄花火の終了と同時にオリエンヌは倒れた。


 俺は近付き、顔を見下ろす。


「もう観念したらどうだ?」


「く、くくく」


 全身を刺され、傷口が焼け焦げているにも関わらず、オリエンヌは笑った。

 だが、もう戦える体ではない。


「オリエンヌ」


「誰が観念するものか」


 そう言って、オリエンヌは懐刀で首を掻き切った。


「自害……諦めた……!……いや、自害でも復活するのか!?」


 そう、オリエンヌもまた騎士団の一員、騎士はみな“魔の大釜”の効果で不死である。

 死んでも甦る。


 瞬時にオリエンヌの首の自害の痕、全身の刺し傷、火傷がふさがり、新しい皮膚が盛り上がるように再生する。

 生気に満ちた目を見開き、オリエンヌは跳ねあがるように立ち上がった。


「は、は、ははは!素晴らしい気分だ」


「いい加減、しつこいぜ」


「誇るがいい。この“騎士の中の騎士”をここまで追い詰めたのは貴様が初めてだ」


「それはさっき聞いた!いいから、もうくたばっておけよ!」


 俺は“無間”で踏み込み、そのまま抜刀“大焼炙”。


「なぜだろうな?見えるぞ、貴様の太刀筋が」


 オリエンヌの腕とクラウソラスが跳ねて、俺の大太刀を防ぐ。

 これは“認知外攻撃防御”などの能力は使っていなかった。


「この期に及んで、死の縁で強くなったとか言うんじゃねえぞ!」


「くくく、あるいはそうなのかもしれない。なにせここ十年、これほど死んだことはないからな」


 クラウソラスで大太刀を弾き、そのままオリエンヌは反撃してくる。

 これも神速。

 “見切り”で防げ、ない!?

 さらに加速した?


 傷は“鳳凰”ですぐに癒えるが、ちょっと厳しいな。


「魔力を込めた様子はないな。何をした?」


「貴様が神速を超えるとか言い始めたからな。私もやってみただけだ」


「やってみた、でできるのかよ」


「やろうと思ったことはできたよ。昔からね」


 なるほど、いわゆる天才か。

 嫌みな感じだな。

 昔からなんでもできたんだろうな。


 お前はこんな簡単な火の魔法も使えないのかよ。


 とか言われたこともないのだろう。

 これを言ったのは兄だったが、今思えば彼もしんどかったのかもしれない。

 サラマンディアを継ぐことは決まっていたのだろう。

 しかし、男の兄弟というものが増えると貴族の子弟はライバルが増えると思うらしい。

 彼にとって俺は出来損ないなのに自分の地位をおびやかす存在だったのだろう。


 そんなことをふと思った。


「惜しむらくは、お前が成長する以上に捧げられた経験値が多いことだろうな」


「なに?」


 オリエンヌは蘇生してから、確かに俺の神速以上の攻撃に反応できるようになっている。

 だが、身体能力がガタリと落ちている。

 最初の八割といったところだろうか。

 何かの能力のせいで攻撃が全部、神速の速さで繰り出すことはできている。

 だか、それ以外の動きが鈍い。


 原因はハッキリしている。

 二度に渡る“死”だ。

 “騎士”は不死だが、厳密に言うと死なないのではない。

 死んでも甦るのだ。

 原理はよくわからないが、“魔の大釜”に経験値を捧げることで復活できるらしい。

 経験値というものもよくわからないが、今までの強さを数値化したもの、と竜族の奴らは言っていた。

 ということは、その経験値を捧げれば捧げるほど弱くなる、という理屈だ。

 これは破壊魔人となったゼルオーンを何度も何度も倒して弱体化させたことから本当だと言える。


 そして、オリエンヌはこの霊峰に来てから二度死んでいる。


 一度目は、仲間たちが命を犠牲にして成し遂げ。

 二度目は、俺の獄花火・逆回しによって、だ。


 二度。

 一つしか命を持たない常人には想像もできない、二度の死を逃れたオリエンヌ。

 彼は今、確かに弱くなった。


 俺より強かった。

 それに閻魔天による強化、朧偃月、剣の技術で対等の勝負に持ち込んでいただけだ。


 だが、今は俺の方が強い。


「俺の方が強い」


「馬鹿な!“魔の大釜”の減衰率は5パーセントのはずだ。まだ貴様に追い付かれるほど弱っているはずはない!」


「神器なんてのは人に推し量れるものではないだろ」


 神器はその通り、神々の作ったものだ。

 人間が作るものより高性能、というかぶっ飛んだ効果を持ったものが多い。


 魔の大釜のように人を蘇生させたり、本人の特性である能力を移しかえるクラウソラスだったり、だ。


 だが、神々がそれを作った理由を考えるとちょっと考えなきゃならない。

 神とは信者の信仰によって力を増すものだ。

 神器とは信仰を増やすための道具だ。


 信仰の増やしかたなどその神によって違う。


 むやみに違う神の作った神器を併用などしたら、どんな副作用が出るかわからない。


 三つの神器を持つオリエンヌはどれがどういう作用をもたらしているか本人でさえわかっていないのだ。


「黙れ。私はこの力で神に会うのだ」


「神なんてのは、関わらない方が人生幸せだぜ。辛いときに祈るくらいがちょうどいいのさ」

 

「黙れ、と言った。貴様の尺度で語るな」


「そうだな。あんたとは初対面だった」


「……もう、いい。お前の顔は見飽きた」


 俺とオリエンヌは正面から向き合った。

 そして、同時に言った。


「「決着をつけよう」」


 もう、加減は無しだ。

 ミスルトゥの意思を感じる地脈からの魔力をこの身に乗せ、“閻魔天”、“獄炎華・朧偃月”の爆炎を熱く感じる。


「俺式闇氷咲一刀流奥義“奈落”」


 かつて戦ったリオニア王国騎士団の団長のレインディアはこの抜刀術の源流である早氷咲一刀流の達人だった。

 彼女は、四つの剣技を無限に組み合わせることで“吹雪”という技として昇華していた。

 連続して放たれる抜刀術には恐ろしささえ抱いたものだった。


 今、俺が放つのはそれを参考にした技だ。


 師匠、と仲間と、敵に教わった全てを組み合わせて、俺自身の奥義として。


 今、抜刀す。

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