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394.黄金の時

 オリエンヌが怒りにまかせて放った神速の斬撃は“見切り”で避ける。

 俺は神速の攻撃を抜刀術でしか放てないが、避けることはできる。


「私は、私は私の望みを叶える!」


「その望みは、他の誰かを踏みつけにしてまで成さねばならなかったのか?」


 オリエンヌの袈裟斬りを、紙一重で回避。

 回避した体のねじりを使って納刀。

 ねじれの解消をしようとする筋肉の動きを使って抜刀。


 魔力と爆炎で加速した大太刀がオリエンヌを襲う。


「当たり前だ!私の見ているこの世界は私のものだ。私が主役なのだ!他の者のことなど考えたこともないッ」


 オリエンヌはクラウソラスで大太刀を弾く。


「考えろよ。お前の成したことの結果を考えろ。死屍累々だろうがッ」


「私の知ったことか!」


 俺の大太刀が二度、三度とオリエンヌを襲う。

 オリエンヌも反射神経を全開にしたうえで“認知外攻撃防御”などの防御能力を総動員して防いでいく。


「お前は、十年を共に過ごした仲間たちのことをなんとも思わないのか!」


「貴様はずいぶん、仲間とやらにいれこんでいるようだな!そんなものは目的を達するための駒に過ぎん!」


「駒、だとしても、それを使いこなせない三流棋士が偉そうなことを言ってんじゃねえ!」


「私が三流だとぉ!」


 俺の大太刀とオリエンヌの魔剣が衝突した。

 ぶつかりあう力は互角。

 ならば、さらに魔力をこめて押しきる!


 そう思った時。


 急に立てなくなるほど、力が抜けていった。

 うまく刃をそらしたため、オリエンヌの攻撃を受け流した形になる。


「なんだ?」


「小技を!」


 小技とオリエンヌは言うが、たまたまそうなっただけだ。

 今の俺は倒れこみこそしないが、動けない。


「これはまさか」


「おいおい、まさか魔力切れ、か?あのバカみたいな速さと強さは後先考えないゆえか」


 オリエンヌは顔に余裕の笑みを取り戻していた。

 一時はひやりとしたが、もう勝ちが確定した、と確信している顔だ。


 確かに、閻魔天ヤマラージャは威力に比例するように魔力消費が激しい。

 今までは間に合っていた。

 だが、今回は出し惜しみをしてられなかった。

 全力全開で戦った、結果がこれだった。


「ふ、ふふふ。私をここまで追い詰めたのは貴様が初めてだ。誉めてやろう」


「お前に誉められても嬉しくないな」


「そうやって減らず口をたたいたまま、死ね」


「「ご主人は死なせない」」


「“大紅蓮終式・悲嘆氷土コキュートス”」


「百戦錬磨“我が神槍は天を穿つ”」


「回転剣・大風車」


 五人が飛び出し、一斉にオリエンヌに攻撃を加える。

 ゴブリア。

 ゴブールの赤帽子レッドキャップ

 元赤組第一騎“大紅蓮”ギシラス。

 白組第一騎“百戦錬磨”アリア。

 スケルトンウォリアーのロドリグの五人だ。


 俺が先行していたが、彼らも今道を突破し、霊峰へたどり着いた。


「動けますか」


 俺の側にはミスルトゥがいて、いつになく真剣な顔で俺を見ている。


「なんとか、な」


「わたくしたち抜きで始めるなんて、どうかしてますわ」


「悪い。抜けてきたら俺一人で、目の前にオリエンヌがいたからな」


「勝ち目はありますか?」


「体が動けばな」


「この山は……地脈の集合地点です。“宿り木”のわたくしが地脈を繋げばあなたに魔力を注ぐことができます」


「宿り木は、嫌なんじゃなかったのか?」


「嫌です。嫌ですわ。でも、ここで負けるのはもっと嫌です。おそらくわたくしはこの山の地脈に取り込まれるでしょう。それでも、あなたが死ぬのは嫌です」


「ミスルトゥ……」


「サンタラ」


「あ?」


「わたくしの真名ですわ」


 エルフの真名は、そのエルフの本質を示すとされ、それを知るということはそのエルフを支配すると同義とされる。

 故に、真名を告げるということは信頼、あるいは愛情の証だった。


「ミスル……サンタラ!」


「大好きですわ」


 微笑んで、ミスルトゥ・サンタラは大地へ祈りを捧げた。

 外から見えるほどの魔力が地脈から引き出されて俺に注がれる。


「どうした、貴様の仲間たちが無駄死にしていくぞ!」


 オリエンヌの声にそちらを向く。

 ギシラスとアリアが倒れ、ゴブリアとゴブール、ロドリグが息も絶え絶えだった。


「少し休んでいろよ。あとはあんたに任せるから。俺に生きる目的を示してくれたあんたに」


 ロドリグはそう言って、全身を回転させて突撃していった。

 ぐるぐる回転し、威力を増した剣は。


「大道芸の類いか?」


 と、オリエンヌに骨ごと切り裂かれる。


「ぐうう」


「さすがにアンデッド、しぶといな」


 背骨から断ち切られてなお剣を振るい続けるロドリグに、オリエンヌは苛立ちを見せた。


「俺は嫌いじゃなかったぜ」


 そう俺に囁いたゴブールがオリエンヌの横に忍び寄る。

 ちょうどロドリグのせいで死角になるような位置だ。


「最後に死に花咲かせたらあッ!もう、死んでるけどなッ!」


 ロドリグはその通り、最後の一撃を放った。

 なんの工夫もない、ちゃんとした剣術だ。

 回転剣、に慣らされていたオリエンヌはほんのわずかの間、それに集中した。

 集中、させられた。


 それは隙だ。

 ゴブールは、まるで影から現れたように短刀をオリエンヌに突き刺す。


 だが。


 しかし。


 オリエンヌの“認知外攻撃防御みえてないものすらふせぐ”によって神速で戻された魔剣によって防がれてしまう。


「この!骨とゴブリン風情がッ!!」


「おあいにくさま、ゴブリンはもう一体いるぜ?」

 

 クラウソラスの刃を食らいながら、しかしその刃をがちりと筋肉で拘束したゴブールは笑みを浮かべた。


「この!剣を!放せ!」


「ご主人、私はあなた様のために命を結果捧げます。どうか本懐を果たされんことを!」


 空から舞い降りたかのようにゴブリアが落ちてきた。

 手には短刀。


 オリエンヌはロドリグの攻撃とゴブールの奇襲によって“認知外攻撃防御”を使用しており、再使用時間が過ぎるまで使えない。

 魔剣クラウソラスもゴブールが命を捨てて、肉体で拘束している。

 防ぐ手段のないオリエンヌは、その左の胸元、鎖骨の隙間から刃を差し込まれ、切っ先は心臓にまで届いた。


「があああああッ!!!??私の心臓に!!よくも、よくも」


「大好きです。ご主人」


 激昂したオリエンヌは力任せにゴブールから刃を取り戻そうと振った。

 既に事切れていたゴブールを切り裂き、ゴブリアも凶刃によって切られた。


「よくも、私の体に傷をつけ……そして、殺したな」


 そう。

 ゴブリアたちの命をかけた連繋は、確かにオリエンヌの命を奪っていた。


 もし、オリエンヌが“騎士”でなければここで終わりにできたのだ。


 だが、神器“魔の大釜”によってオリエンヌは蘇生できる。


「ふぅ……くくく、しかし私に傷をつけるほどとは、誉めてやる」


 命を取り戻したことで、オリエンヌの顔と言動には余裕が戻ってきていた。


「くくく。決着をつけよう、だったか?いいだろう、これで完全決着だ」


 オリエンヌは動けない俺に剣を振り上げ、そして勢いよく振り下ろした。


 “閻魔天ヤマラージャ


 俺の呟く、それは仲間たちが稼いだ時間が黄金の価値を持つことを証明するように、光輝く炎となって顕現した。

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